7月1日付で、ダレン・ヒューストン氏が社長に就任することで、マイクロソフト日本法人の業務アプリケーション進出は秒読み段階に入った。既存パートナーとの摩擦を覚悟してでも、中堅・中小企業向けERPパッケージなどを市場に投入しなければ、米国本社が求める成長率の達成は難しい。

 マイクロソフト日本法人は4月20日、新会計年度が始まる7月1日付で、マイケル・ローディング氏(写真左)に代わってヒューストン氏(同右)が社長に就く人事を発表した。2003年7月に就任したローディング氏が今期限りで日本法人を離れるのは既定路線。2代続けて、外国人が社長となることにも、驚きはない。大手顧客やパートナーの間で、「あうん」の呼吸が通じる日本人社長待望論が強かったのは事実だが、本誌の取材では昨年半ばの時点で、その目はほぼ消えていた。

 今回の人事のサプライズ(驚き)は、日本法人の勤務経験もある欧州マイクロソフト幹部などの有力候補を押しのけて、入社2年に満たないヒューストン氏が、日本法人のトップに就くことだ。日本はマイクロソフトにとって、北米に続く第2の重要市場である。

 その理由は、一つしか考えられない。マイクロソフト日本法人による、業務アプリケーション分野への本格進出だ。

 日本法人は昨年来、中堅・中小企業向けERPパッケージ(統合業務パッケージ)「Great Plains(GP)」の国内投入をひそかに検討してきた。そしてヒューストン氏は、米国本社で中小企業向け事業を統括し、GPの売り上げを伸ばしたことで、頭角を現した。

 就任会見で、ヒューストン氏は、「日本で中堅・中小企業向けセールスをテコ入れする意図はない」とコメントしているが、この発言を額面通り受け取るのは難しい。OS、ミドルウエア、オフィス・アプリケーションといった既存分野で、一時のような、高い伸びを見込めない今、米国本社の求める10%超の成長率を維持するには、新規分野の開拓が不可欠だからである。

 業務アプリケーション分野への進出には、さまざまな障害が伴う。特に、これまで同社の成長を側面から支援してきた、大塚商会やオービックビジネスコンサルタント(OBC)といったパートナーとの競合は必至だ。

 しかし、今のマイクロソフト日本法人に、そうした“個別の事情”を省みる余裕はあまりない。「伸び悩む日本市場で、必達目標の2ケタ成長を成し遂げるには、パートナーと競合してでも、業務アプリケーションに進出するしかない」(日本法人幹部)。

 実はローディング時代、マイクロソフト日本法人は“自治権”を半ば失っている。ローディング氏は、対外交渉や戦略策定に時間を割き、強面(こわもて)の顔はあまり見せなかったが、同氏とともに就任した執行役常務のアダム・テイラー氏が、「グローバルな数値目標達成のため、徹底的な業績管理で社内を締め上げた」(別の幹部)。日本法人は組織図上、海外営業部門の下にあるが、実質的には各製品/サービスを統括する米国法人の事業部門に、「はしの上げ下ろしまで指図されている」。

 こうした体制を嫌った日本人幹部は、ここ1~2年で相次ぎ退社した。日本法人の創業メンバーで、同社の精神的な支柱とも言える古川享氏(現・執行役 最高技術責任者)も、「すでに退任の意向を固めている」(関係者)。「調整型」と評される、ヒューストン氏の手腕が試される。

(星野 友彦)

本記事は日経コンピュータ2005年5月2日号に掲載したものです。
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