日本航空(JAL)は、数年前に一度失敗し、塩漬けにしていた「整備システム刷新」へ再挑戦する。この4月中にもプロジェクトを立ち上げることが、本誌の調べで明らかになった。日本エアシステム(JAS)との合併に伴うシステム統合の最難関に挑むわけだが、前回以上の困難が予想される。

 JALは早ければ4月中にも、整備システムの刷新プロジェクト「ドリーム・メンテナンス・プロジェクト」を立ち上げる。方針の最終取りまとめが終わり次第、経営陣の承認を得る予定だ。開発のパートナーは、旧JAL/JASの企業合併に伴う統制・運航管理、予約・発券、国内線チェックインなどのシステムの統合を担当した、日本IBMに内定している。

 実は、JALが整備システムの刷新に挑むのは、これが2度目。2001年から「e-整備」の名称で、PwCコンサルティング(現IBMビジネスコンサルティングサービス)をパートナーに開発を進めた。今回の新プロジェクトと同様、独SAPの統合業務パッケージ(ERPパッケージ)「R/3」を使って実現し、2003年7月に稼働させるのが当初の計画である。

 しかし、整備業務が複雑すぎて要件を定義できない、JALの業務とR/3の機能が合わない、使用するR/3のテンプレートに詳しい人員がPwCコンサルティング側に不在、などが影響してプロジェクトは難航。2003年末には実質的な中止状態に追い込まれた。

 今回、人員を一新するなど仕切り直してプロジェクトを再度立ち上げるのは、「現行システムを使い続けることが限界に近付いた」(関係者)からだ。1980年に稼働開始した現行システムは、相次ぐ拡張・保守の結果、全800万ステップにも及ぶ巨大なものになっている。現場の要求を受けて機能を拡張しようと思ってもできない。「運用面の工夫でカバーしながら何とか使っている状況」(同)だ。

 相次ぎ報じられている、JALが起こした管制や航空機自体のトラブルも理由の一つ。「ヒューマン・エラーが主な原因で、整備システムが直接絡んでいるわけではない」と同社は説明するものの、「前回の整備システム刷新が成功していれば、ある程度は防げた可能性がある」と見る向きは多い。

 さらに、企業合併後はJASの整備システムを並行稼働しており、システムの運用コストがかさんでいることも、新プロジェクトを急がせる要因だ。

 2度目の失敗は許されないだけに背水の陣で臨む整備システムの刷新だが、前途は楽観できない。何よりも合併によって、対象業務の複雑さや規模は増した。取り扱う部品点数は、旧JALの機材だけで30万点超。これにJASの機材分が上乗せされる。

 システム開発費用の問題もある。JALや日本IBMは200億~300億円と踏んでいる。しかし「JALよりも規模が小さい海外の航空会社がR/3を使って整備システムを開発しており、すでに300億円以上を投じている」(関係者)ことを考えると、見積もりは少なすぎるように見える。といって赤字決算で苦しいJALの財政事情では、「これ以上高い構築費用を経営陣に申告することは難しい」(同)。

 ユーザーである整備部門の全面的な協力が得られるかどうかも、刷新の成否に大きく影響する。業務を可能な限りR/3に合わせられれば、刷新の難易度は下がるからだ。ただ、「職人気質が影響しているのか、ITに業務を合わせるなどの考え方をなかなか理解してもらえない。e-整備の失敗の一因もここにあった」(ある関係者)。

 ドリーム・メンテナンス・プロジェクトは、こうした厳しい条件の中で進めざるを得ない。もちろん、成功のカギを握るのは開発チームである。熟練したプロジェクト・マネジャをどれだけ用意できるか、昨年のシステム統合のときのように経営陣のリーダーシップをどれだけ引き出せるかが、ポイントになることは間違いない。

(高下 義弘)

本記事は日経コンピュータ2005年4月18日号に掲載したものです。
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