前回に続き、2003年のIT産業を展望する。今回は、ソフト/サービス大手の社長6人に聞いた。情報化投資は「横ばい」と、より厳しく見る向きが多い。注目する技術は「Linux」、「グリッド」、「Webサービス」が大勢を占めた。ビジネス・チャンスとしては、中国に進出する日系企業の支援に期待をかける。
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図●大手システム・インテグレータ/ソフト・ベンダー6社の社長に送ったアンケートの質問 |
伊藤忠テクノサイエンス(CTC)の後藤攻(おさむ)社長は「情報化投資への抑制意識は全業種で依然として強い。半面、競争力強化のための設備拡充に対する潜在的な需要は高い。結果として、ほぼ横ばい」と予想している。NTTデータの青木利晴社長も同意見だ。日本オラクルの新宅正明社長はさらに慎重で、「急激な回復は2003年内にはなく、2004年以降にずれ込む」との見方を示した。
技術面では「Linux」、「Webサービス」、「グリッド」に注目するという社長が多い。LinuxについてCTCの後藤社長は、「今後は企業の基幹システムなど、大規模情報システム分野でも導入が加速するだろう」とみる。Solarisサーバーの販売で大きな実績を上げてきたCTCからこうした発言が出てきたことは、Linuxの確かな成長を予感させる。
Webサービスに対しては、マイクロソフトの阿多親市社長とNTTデータの青木社長が「ブームから、本格的な導入フェーズへ移行する」と声をそろえる。
2003年に特に力を注ぐ事業については、中国に進出する日系企業の情報化支援がホットな話題になりそうだ。新日鉄ソリューションズの棚橋康郎社長は「中国に進出している日系企業のシステム運用支援などを積極的に推進していく。当社では2002年10月に中国現地法人を設立した。現在、ファーストリテイリングの上海事業を支える基幹システムのサポートを手がけているが、他社からの引き合いもかなりある」と自信を示す。日本オラクルも中国に拠点を設置し、事業の拡大を目指す。
インテグレータ各社の社長は2003年が総合力が問われる年になるとみる。CTCは上流から下流までの総合力強化を目指す。「ITや業務に関するコンサルティングとMSP(マネジメント・サービス・プロバイダ)事業などの運用管理サービス事業を早期に立ち上げ、マルチベンダー・インフラ構築という弊社のコアビジネスとの相乗効果を目指す」(後藤社長)。
新日鉄ソリューションズは、上流から下流の総合力に加え、業務を横断する総合力を強化していく。「戦略的にシステム投資を考えているユーザー企業のニーズは、もはやERPパッケージ(統合業務パッケージ)、SCM(サプライチェーン管理)など単一のソリューションの範疇(はんちゅう)を超え、複数のソリューションを統合したシステムとなっている。当社は、こうした業務ソリューションの統合においても中立的なインテグレータとして、最適な組み合わせを提供していく」(棚橋社長)と意気込みを語った。
SIの技術力強化と利益確保を目指す NTTデータ 青木 利晴 社長 |
2003年度のIT投資は全体的に横ばいに推移するものの、個別の分野で投資ニーズが顕在化してくる業種もあるとみている。例えば地方自治体においては、電子自治体への取り組みが本格化し、医療、教育のIT化への広がりが期待される。法人分野においては、いくつかの業種で会計システム再構築などの投資ニーズが顕在化してきている。
当社は2003年、「大規模SI(システム・インテグレーション)の強化」と「中小規模SIの利益確保と拡大」および「新規ビジネスの推進」に取り組んでいく方針だ。大規模SIの強化については、ミッション・クリティカルなオープン系システムの開発力強化に重点を置く。中小規模SIについては、ERPパッケージなどについてグループ全体での品揃えの強化・ノウハウの集約を進めていく。すでに、自社製ERPパッケージ「SCAW」の事業は子会社であるNTTデータシステムズに譲渡し、開発力と販売力の集約を進めている。
新規ビジネスの推進は、パートナ企業との協力関係をベースに進める。2002年には、日本たばこ産業の子会社に出資して「NTTデータウェーブ」を設立し、新市場に参入した。こうした事業を、さらに拡大させていく。
技術面で注目するのは「グリッド」だ。数十万台のパソコンを使った実験を2002年に実施した。2003年は、実用化に向けてこれを大きく前進させる。
問1:横ばい
問2:Webサービスとグリッド、パソコン・クラスタなど
問3:改革結実の年。2002年に取り組み始めた「SI競争力強化」などの改革を花開かせる
問4:大規模SIの強化と中小規模SIの利益確保と拡大、新規ビジネスの推進
問5:無回答
業務コンサルや運用管理に力を注ぐ 伊藤忠テクノサイエンス 後藤 攻 社長 |
2003年の情報化投資は、ハード、ソフトともに減少傾向が続くだろう。一方サービスについては、横ばいから上昇に向かうだろう。システム監視・運用といった業務を一括で請け負う各種アウトソーシング事業が本格的に立ち上がり始めている。
当社は2003年、基幹事業であるマルチベンダー・インフラ構築に加えて、上流のIT /業務コンサルティングと下流の運用管理サービスに力を入れていく。IT/業務コンサルティングについては、現在約20名のコンサルタントを2004年3月末までに100人に拡充する計画だ。
運用管理サービス分野では、インターネット経由でシステムの運用管理をするMSP事業を強化する。ユーザー企業の既存の人材、モノ、技術を有効活用し、新規投資を行わずに運用・監視・管理の業務効率を向上させるサービスを新規に提供する。
技術面では、大規模システム向けLinuxサーバーに注目している。企業の基幹システムなど大規模情報システム分野でも導入が加速するだろう。システムの大規模化が進む中、管理・運用にかかる総コストの削減に最適なブレード・サーバーにも注目している。
問1:マイナス2%~プラス2%の幅
問2:ブレード・サーバー、コンテンツ・アーカイブ・ストレージ(ログや認証情報など書き換えのないコンテンツを管理するシステム)など
問3:経営改革を実行する年。従来のビジネスに相乗効果を与える新たな事業へ取り組む
問4:IT/業務コンサルティングや運用管理サービス
問5:70点(合格点は70点)。経済環境の悪化により期初計画の達成は困難だが、新規サービス事業への取り組みを開始できた
業界・業務ノウハウを生かして事業拡大 野村総合研究所 藤沼 彰久 社長 |
ITへの投資は厳しいが、2002年並みの水準で推移するものと推定している。産業界全般に投資効果を厳しく問う傾向が年々強くなっており、無駄な投資の抑制が図られる。こうした中、情報化投資は2極化が進むだろう。自社の戦略をフォーカスできる企業は、戦略分野への集中投資を積極的に実施する。戦略性のない企業では、情報化投資のやみくもな抑制が起こる。
2003年は、既存の重点顧客がITガバナンスを強化することへの貢献、業界・業務ノウハウを生かしたソリューションの強化に重点を置いて事業を進めていく。既存のアウトソーシング事業の分野では、主要な顧客と二人三脚で戦略的な重点投資を推進する。業界・業務ノウハウを生かしたソリューションとしては、投資信託の販売管理システム「ベストウェイ」の新バージョンの開発が完了する。譲渡益課税対応のパッケージも、2003年初めから各顧客で一斉に稼働する予定だ。
技術面では、基幹システムにおけるオープンソースの利用、災害対策技術などに注目している。
問1:横ばい
問2:Webサービス、EJB、.NETなど
問3:藤沼新体制のもとで内外のビジネス環境変化に合わせて体質改善を進めていく年
問4:重点顧客におけるITガバナンス強化への貢献、業界・業務ノウハウを生かしたソリューション事業の強化
問5:85点(合格点は80点)。業績面では株主への約束を果たした。しかし、プロジェクトの中には顧客から厳しい評価を受けているものもある
サービスの総合化を目指す 新日鉄ソリューションズ 棚橋 康郎 社長 |
2003年度の情報化投資は、製造業と官公庁のユーザーでは伸びるものの、運輸/通信業では横ばい、流通、金融などの業種は2002年の実績を割り込むと予想している。
こうした中で当社は、サービスの総合化とユーザー企業のグローバル化の支援に力を入れていく考えだ。サービスの総合化は二つある。一つは、設計から保守・運用までシステムのライフサイクル全般を対象にするという意味の総合化だ。当社は長年、1.5億ステップに上る新日鉄のシステムの設計、開発、運用を行ってきた。これらのノウハウと人材を生かしていく。もう一つは、ERPパッケージやSCMといったソリューションを統合して提供する総合化だ。
生産拠点の海外進出やインターネットの普及により、お客様では拠点間連携のニーズが高まっている。こうした要望に応える一環として当社では、2002年10月に中国現地法人を設立した。2003年は中国に進出している日系企業のシステム運用管理事業などを積極的に推進していく。
技術面ではLinuxに期待したい。設計情報が公開されており障害が起きた場合などに素早く対応できる。電子自治体でLinuxをOSとするシステム案件が多くなるだろう。
問1:無回答
問2:Linux
問3:お客様のニーズに360度対応できるシステム・インテグレータへの飛躍を目指す年
問4:サービスの総合化とユーザー企業のグローバル化の支援
問5:80点(合格点は70点)。第一人者になれる分野を増やすことと顧客との信頼強化が課題
Windows .NET Server 2003の年 マイクロソフト 阿多 親市 社長 |
2003年はパソコンやIAサーバーが低迷期を脱する。パソコンは出荷台数で前年比4~5%の伸び。IAサーバーも台数で10%弱の成長率を見込む。半面、メインフレームやUNIXサーバーは大幅なマイナス成長になるだろう。ソフト市場も、パソコンとIAサーバー市場で成長すると見込んでいる。
2003年は、「Windows .NET Server 2003」を中心に事業を展開していく。Windows .NET Server 2003は、企業の情報システムの基盤となる、きわめて信頼性が高く、最も生産性を向上させるプラットフォームだ。合わせて、中小企業の情報化も支援していく。「IT推進全国会」の拡大や「IT体験キャラバン」により、地方を中心とする中小企業の情報リテラシの向上に貢献する。
2003年に注目する技術の筆頭は、Webサービスだ。ブームを終えて、本格的な導入フェーズへ移行する。Windows .NET Serverは、そのプラットフォームとして最適だと確信している。セキュリティ技術も重要になる。あらゆる企業ユーザーにとって目下の最大の関心事はセキュリティである。プラットフォーム・ベンダーとして、Windowsを最もセキュアなプラットフォームにするよう努力していく。
問1:ハード3%、ソフト5%、サービス7%。市場全体では5%
問2:Webサービス、セキュリティ、Windows Media 9などのコンシューマ市場向けの技術など
問3:顧客やパートナの声を注意深く聞き、中長期のビジネスの方向性を定める年
問4:Windows .NET Server 2003の事業と中小企業の情報化支援
問5:80点(合格点は70点)。セキュリティの向上やサポート方針などに関して、顧客やパートナの評価は確実にアップしている。だが、市場環境は非常に厳しいものがあった
事業構造を転換する 日本オラクル 新宅 正明 社長 |
国内の情報化投資は、急激な回復は年内にはなく、2004年以降にずれ込むとみている。景気の不透明感から大型投資は先送りになっている。ITバブル期のようにすべての企業がIT投資を積極的に行うことはない。
日本オラクル自身も業績を下方修正するなど厳しい状況にあるが、中期経営計画「Oracle Japan Innovation 2003」を実行することで事業構造の転換を成し遂げたい。この計画の柱は、OracleDirectの新設など営業支援体制の刷新、中国拠点の設置などグローバル展開、当社の製品を全面利用した自社のビジネス・プロセスの効率向上、の三つである。
OracleDirectは、ダイレクト・マーケティングの強化策。電話や電子メールを使ってお客様に直接アクセスし、オラクル製品の販売機会を拡大する。中国には、「チャイナ・ビジネス・ユニット(仮称)」を、北京か上海に設置する予定だ。新たに中国に進出する日本企業のシステム構築を支援する。
技術の面では、グリッド・コンピューティングとLinuxが大事になるだろう。グリッド・コンピューティングにおいては、RAC(Real Application Cluster)を使ったOracleのクラスタ構成が、プラットフォームとして重要な役割を果たすようになると考えている。Linuxは、次世代のスタンダードOSとして、継続して支援していく考えだ。
問1:横ばい
問2:グリッド・コンピューティングやLinuxなど
問3:新中期経営計画「Oracle Japan Innovation 2003」を実行する年
問4:営業支援体制の刷新、中国を中心とするグローバル展開、オラクル製品を全面利用した業務プロセスの改革
問5:無回答
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