2003年はIT産業にとってどんな年になるのか、大手メーカーの社長6人を直撃した。情報化投資の先行きは依然不透明だが、下期の回復を期待する声が出始めた。注目すべき技術には、6人の社長すべてが「自律」を挙げた。サービス事業では各社とも価格競争を回避すべく、質の面での差異化を図る。
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図●大手コンピュータ・メーカー6社の社長に送ったアンケートの質問 |
寄せられた回答からは、三つの興味深いポイントが浮かび上がった。第1は情報化投資について。不透明感が強く、各社とも今後の動向を読み切れていない。富士通と日本IBM、日本ヒューレット・パッカード(HP)、日立製作所は具体的な数値を回答せず、NECの回答も「0~5%増」とアバウトだった。
ただし不透明な中にも、期待の芽が出始めたようだ。富士通の秋草直之社長は「2003年後半は、2002年における設備投資抑制の反動もあって、回復が期待される」と回答。NECの西垣浩司社長も「下半期には本格的な回復を期待したい」と同調した。
日本HPの高柳肇社長はこの環境下で一人気炎を上げる。「2003年は、新生日本HPとしての真価を発揮し、日本のコンピュータ市場に確固たる地位を築く。UNIXサーバーやストレージ、パソコン、ワークステーション分野では積極的なシェア拡大を目指していく。市場の主導権を完全に握る計画だ」と鼻息が荒い。
ポイントの第2は2003年に注目する技術について。6人の社長がいずれも「自律コンピューティング」を挙げた。オープン化とインターネットの利用拡大に伴い、複雑さを増したシステムの運用を自動化する技術である。「運用の複雑さの問題を解決しなければ,ITによる革新はもはや起こらない」との声も上がっている。2003年は、自律コンピューティングを実現するための具体的な製品を、各社がどれだけ整備できるかが注目される年になる。
ポイントの第3は、サービス事業のあり方について。各社長ともサービス事業に力を入れる姿勢に変わりはない。しかし、従来通りのサービス事業だけでは、遠からず成長が止まることに気付き始めたようだ。サン・マイクロシステムズの菅原敏明社長は「投資案件は増加するものの、競争激化に伴ってサービス価格が低下する」と指摘する。ITサービスにもデフレの波は押し寄せてきている。
こうした状況に対応するため、富士通と日本IBMは、ユーザー企業の経営や業務の分野に事業範囲を拡大していく意向だ。富士通の秋草社長は2003年を「ITの技術革新を有効に活用し、お客様の業務プロセス、経営の改善につながる提案を行っていく年」と位置づけた。日本IBMはすでに、同社のコンサルティング部隊とPwCコンサルティングを統合し、より上流のサービスを目指す体制を整えている。
一方NECはサービス事業を現在以上に装置化し、生産性を高めることで対応していく。NECの西垣社長は、「アウトソーシングへの取り組みを強化する。12月に発表した、アウトソーシング事業における米HPとの協業もその一環である」と意気込む。
収益の改善が期待できる 富士通 秋草 直之 社長 |
本格的な景気の回復は2003年後半とみている。2003年前半の情報化投資は、前年比横ばいで推移するだろう。デフレなどの影響により厳しい状況が続く。ただし2003年後半は、2002年の投資抑制の反動もあって、回復が期待できる。
国内の製造業における情報化投資は、業界内の勝ち組企業を中心に堅調に推移するだろう。通信業は2002年ほどの落ち込みはない。IPネットワーク関連の情報化投資に期待したい。海外での情報化投資動向については、米国市場における不確定要素が多いことから、米国、欧州とも慎重にみたい。
サーバー市場は国内外総じて弱含みに推移するだろう。ただし、Linuxの基幹業務への適用が始まる。この市場の拡大に期待している。パソコン市場は、企業向けを中心に依然として厳しい見込みだ。
富士通は2003年、ITコンサルティングからメンテナンスまでの一貫したソリューションを継続して提供する。お客様担当のSEは、システムのライフサイクル全般について面倒を見る。また、売れ筋ERPパッケージ(統合業務パッケージ)のGLOVIAを核に、お客様へのソリューション提案力の強化を図る。ハード事業では、従来のUNIX、IA(インテル・アーキテクチャ)、メインフレームに加えLinuxをベースとした製品の提供に力を入れていく。
問1:無回答
問2:ユビキタスに関するシステム・ソリューションなど
問3:2001年、2002年に実施してきた事業構造改革により収益の改善が期待できる年
問4:ITコンサルティングからメンテナンスまでの一貫したソリューション提供
問5:70点(合格点は無回答)。十分な収益を上げられなかったため満点にはならない
新たな成長へのチャレンジ NEC 西垣 浩司 社長 |
情報化投資は2003年下半期には本格的な回復を期待したい。通信キャリアの投資抑制は続き、都市銀行の大型合併案件も一段落したが、証券業界のT+1対応や大手製造業のERP、CRM(顧客関係管理)への積極的な投資でカバーされると期待している。
ハード市場は、コモディティ化が進行するため、金額ベースでは低調になるだろう。SIサービスも減速が危惧される。ただし、アウトソーシング、ASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)サービスなどのストック型サービスが伸びると考えている。
NECは2003年、OMCS(マルチベンダー環境での大規模ミッション・クリティカル・システム)の構築と運用に注力していく。自律化構想「VALUMOバルモ」に沿った、プラットフォーム製品の機能強化も進めていく。サービス分野では、アウトソーシングやASPサービスへの取り組みを強化する。海外拠点の体制が整いつつあるので、システム・インテグレーション事業の海外展開も進めたい。
技術面では、自律コンピューティングに加えて、Windowsプラットフォームや .NET技術、Linuxに注目している。中規模システムのプラットフォームとして重要だ。
問1:0~5%増
問2:Windowsプラットフォームや .NET技術、Linux、Java、セキュリティなど
問3:新たな成長へのチャレンジの年。ASPサービスやアウトソーシングの拡大に加え、地球シミュレータに代表される独自技術を生かしたハードで成長したい
問4:OMCS。システム構築サービスとプラットフォーム事業の両面に力を入れていく
問5:85点(合格点:70点)。顧客満足度で高い評価を得たことに加え、コンピュータ事業全体で収益を維持できた
当社がまずオンデマンド企業に 日本IBM 大歳 卓麻 社長 |
2003年の情報化投資を展望すると、製造業では、グローバル化を推進する多くのお客様がIT活用に力を入れようとしている。経営トップ自らが、ITの利用について具体的な注文を出すことも増えている。
ハード市場では、運用に関する手間やコストを低減するサーバー統合。ソフト市場では、異機種混合の環境に対応したオープンなミドルウエア製品への要望が一層増してくるだろう。サービスに対するお客様の期待は、業務プロセスを改革しながらITを活用する方向に広がってくると期待している。
当社は2003年、「e-ビジネス・オンデマンド」を推進していく。お客様は、ビジネスをオンデマンド化することで、市場や顧客、あるいは社会の変化をリアルタイムに感知し、機敏に対応できるようになる。当社は、お客様のオンデマンド化を支援すると同時に、当社自身がオンデマンド企業に変身していく。
2002年に重点的に取り組んだ施策の中では、パートナとの協業などで成果が出た。当社のハード/ソフト製品をシステム構築の部品として使っていただくパートナの開拓に力を入れてきた。この一環としてハード/ソフトそれぞれのコンピテンシ・センターを設けて好評だ。
問1:無回答
問2:自律コンピューティングなど
問3:オンデマンド時代の幕開け
問4:ユーザー企業のe-ビジネス・オンデマンド実現を支援するための、ハード、ソフト、サービスの提供
問5:無回答
積極的に競合してシェア拡大を図る 日本ヒューレット・パッカード 高柳 肇 社長 |
2003年前半の情報化投資は、確実な成長は見込めない。しかしITは企業活動と表裏一体のもの。投資は将来に向けて着実に増大する。特に、CRMなど消費者対応業務に対する投資は堅調に推移すると確信している。
HPはコンパックコンピュータとの統合により、携帯情報端末(PDA)からパソコン、IAサーバー、UNIXサーバー、NonStopサーバー、ストレージ、プリンタと豊富な製品群を有するようになった。2003年はこれらを組み合わせ、お客様の要求に合った的確なソリューションを提供していく。
2003年に注目する技術は、IA-64だ。格段に価格性能比に優れたシステムが登場する。すでに実績あるhp-uxやLinuxとIA-64プロセサを組み合わせて、ハイパフォーマンス・コンピューティングから基幹系システム分野まですべてをカバーしていく。
2003年は「Offence(攻撃)」をキーワードとして、既存のITベンダーと積極的に競合していく。競合が激化しているUNIXサーバーやストレージ、パソコン分野では、特に積極的なシェア拡大を目指し、市場の主導権を完全に獲得する計画だ。
問1:無回答
問2:IA-64アーキテクチャなど
問3:攻撃の年
問4:コンパックとの統合により広がった製品群を組み合わせ、ユーザー企業に対して適切な情報システムを提供する
問5:75点(合格点:80点)。市場の変化への的確な対応と、コンパックとの統合による相乗効果を十分に発揮できなかった
次の飛躍に向け基礎を固める サン・マイクロシステムズ 菅原 敏明 社長 |
情報化投資では、通信産業に期待する。ブロードバンドへの接続端末数が1000万を超える。コンテンツの充実などと相まって、トランザクション量も大きく伸びると予想できる。このため、エッジ(Webサーバーやキャッシュ・サーバー)を中心とするサーバー需要の伸びが期待できる。流通業ユーザーの投資は、消費低迷により低調だろう。ただし、ICタグを利用したAuto-IDのシステムに注目している。
ハード市場では、ブロードバンド通信サービスの進展に伴い、下位製品の需要が伸びると見込んでいる。日本市場はメインフレームのオープン化が遅れており、米国の3倍に達する稼働ベースがある。2003年は、このリプレースが加速されるとみている。ソフト市場は、Webサービス関連のミドルウエアを中心に高い成長率を達成するだろう。サービス市場は、競争激化に伴うサービス料金の低下も相まって、比較的わずかな成長にとどまると予測している。
注目する技術では、自律のほか、ユーザー認証とセキュリティが重要になるとみている。今後Webサービスが浸透していくにつれて、不可欠になっていくからだ。メインフレーム用ミドルウエアの互換機能を持つソフトや、J2EE、EJBも重要な技術になると考えている。
問1:1~2%
問2:ユーザー認証とセキュリティなど
問3:基礎固めの年。飛躍的な発展が見込まれるNet Economyを支える、オープンかつ堅牢で管理の容易なプラットフォームを浸透させていく
問4:「Any one、 Any time、Any where、 Any device」を具現化する製品の強化
問5:65点(合格点:70点)。ソリューションを前面に押し出した営業が十分に加速しなかった
情報ライフラインを支える 日立製作所 庄山 悦彦 社長 |
2003年もIT投資を取り巻く環境は厳しいとみている。これを補うためにベンダー各社は、新規のサービス事業や海外事業を拡大していくだろう。厳しい市場の中で、地方自治体を中心とする電子政府関連の投資は、他の市場と比べると比較的堅調に推移するのではないだろうか。
日立は情報システムを、ユビキタス情報社会を支えるライフラインととらえ、2003年はこれを支えるミッション・クリティカルなサーバーやストレージ・ソリューション、それらを構成するキーコンポーネントのハードディスク(HDD)事業に注力していく。
HDD事業では、パソコンやサーバー向けといった従来からの用途だけでなく、情報家電やカー・ナビゲーションなどへも事業を展開していく。HDDの垂直磁気記録方式やストレージ・ソリューション事業におけるAPIのオープン化の促進が技術面での注目点だ。
自律の技術も重視している。12月に自律化構想「Harmonious Computing」を発表した。これに沿って6月をメドに、ポリシーに基づいてストレージの運用を自動化する「Policy Manager」や、仮想化を実現する「Provisioning Manager」を提供し、お客様の使い勝手を高められるようにする。
サービス事業においては、アウトソーシングを積極的に進める考えだ。通信では、IPv6対応のギガビット・ルータを柱としたネットワーク事業をさらに促進していく。
問1:無回答
問2:ハードディスクの垂直磁気記録方式やストレージ用APIのオープン化など
問3:無回答
問4:ユビキタス情報社会の情報ライフラインを支える高度なソリューションを提案
問5:無回答
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