イベント「関西オープンソース+フリーウェア」の事務局,産業技術総合研究所のLinuxデスクトップ導入実験(関連記事)や情報処理推進機構(IPA)オープンソースソフトウエア活用基盤整備事業への参加――,グッディは社員約20名ながら,関西で最も知られるオープンソース企業の一社となっている。しかし,代表取締役の前田青也氏によれば「数年前は多重下請け構造の最下層にいた会社だった」という。「グッデイという会社自体が一つのオープンソース・プロジェクトのようなもの」と語る前田氏に,ユニークな経営方針などについて聞いた。(聞き手は高橋信頼=IT Pro)

――社員である山本博之氏がメール・クライアント・ソフトウエアSylpheedを開発し会社のサーバーで公開するなど,企業としてオープンソース・ソフトウエアを開発しています。
 無料でソフトウエアを公開して,利益につながりますか。

前田青也氏
 オープンソース・ソフトウエアの公開は企業活動としてとても効果的です。我々の技術レベルをストレートに外部に明示すことができます。Sylpheedなどが広く使われるようになったおかげで,顧客のほうから声をかけてもらえるようになりました。

 次に人材採用での効果があります。グッディは社員約20名の,決して大きな会社ではありませんが,能力の高い人が自ら入社したいと言ってきてくれるのです。人材採用には,募集広告などに多額の費用がかかるのが通例ですが,採用に要するコストはほぼゼロに節約できています。

 さらに大きいのは人材教育面です。オープンソース・ソフトウエアを開発することで外部に開かれた状態となり,切磋琢磨され,自然に高いレベルへと成長していきます。新人もそれに好影響を受けて育つという環境を実現できます。

 人材が育てば,それに見合った仕事が来る。難易度の高い仕事となり受注単価も上がる。PostgreSQLやSylpheedのチューニングといった依頼もありますし,ホーム・サーバーに組み込むLinuxのチューニングやデバイス・ドライバの開発も行っています。

 営業,採用,教育の3つが連携して動きだすと,オープンソース・ソフトウエアの開発にかけたコストは十分ペイしてきます。

――設立当初からオープンソースを手がけようとしていたのですか。

 いえ,ほんの5年程前まではIT業界の多重下請け構造の最下層にいた会社でした。94年に独立して会社を作ったのですが,最初は自宅を事務所で仕事を始め,余力ができてくると新人を入れて。孫請け,曾孫請けのさらに下請けとして,時には社長の自分自身を派遣して,というよくある零細企業でした。

 社員が5人くらいになったころ,徹夜徹夜の連続がたたって,一度倒れかけたんです。その時は社員が育ってくれていて,仕事はなんとか穴を開けずに済んだのですが。

 そんなこともあり,会社の方向性をどうするか考えていたころ,Linuxをビジネスに使おうとする人たちの交流会に出席したんです。Linuxが注目され始めた1999年ごろでした。Project Blueという集まりですが,これまで見てきたSEやプログラマと全然違い,皆とても生き生きとしている。SEやプログラマというと,納期に追われ夜中まで残業が続いて疲れきって,というイメージがありますが,オープンソースを手がけているSEやプログラマは皆元気で楽しそうで,しかも高い技術を持っている。

 この時オープンソースの可能性を感じて,その後,米国の展示会のLinux World Expoに行ったりしましたが,やはりすごく高い技術を持った人たちが楽しそうに仕事をしている。会社が生き残るためには,そういう人たちと連携していかなければならない。そう考えて,オープンソースを会社の主軸にしようと決めました。

 それで,それまでの派遣をきっぱりやめて,オープンソース・ソフトウエアを使った受託案件を取っていきました。UNIXはやっていましたが,Linuxの実績はない。オープンソースの経験のある技術者を入社させ,技術を習得しました。

 今まで100%派遣でやっていたのをすっぱりやめるわけですから,最悪,半年は売り上げがゼロになることを覚悟しました。実際に,一時期売り上げは落ち込みました。けれど,その当時,関西では会社として責任を持ってオープンソース・ソフトウエアの開発を請け負う会社はなかったため,徐々に仕事が取れていきました。

 考えたのは,技術者が生き生きと仕事ができる環境の実現でした。うちの会社には,管理することを仕事にしている人間はいません。労働時間で管理することはしない。技術者を好きなことに打ち込ませると,すごい力を発揮するんです。優秀な技術者は,並みの技術者が1の労力をかけて作るものを,10分の1の効率で作ってしまいます。管理せず自由にさせることでより能力を発揮するという面白いモデルです。

 そうして,オープンソースを旗印に,技術者が力を発揮できる環境を作っていくと,自然と優秀な人材が集まってくるようになりました。

 当社では会社の業績も,給料もすべてガラス張りです。社長である私の給料を含め,誰がいくらもらっているか,全員が知っています。給料は全員が自己申告して話し合って決めます。ガラス張りですから,あいつがあのくらいなら俺はこのくらいだろう,という感じで落ち着きます。大手電機メーカーに比べても1割高いくらいの給料は払えていると思います。

――ずっと順調だったのですか。

 2000年度は約3000万円の赤字を出しました。採用を増やしたタイミングでITバブルの崩壊とぶつかり,売り上げが落ちてしまった。その際に自立できる人材の多くが辞めてしまって,経験のない新人だけが残るという苦しい時もありました。

 しかし,設立以来の10年で,赤字を出したのはその1年だけです。昨年2003年度は売り上げが約1億5000万円で,約1400万円の黒字に戻り,今期で通期でも黒字転換予定となりました。

 採用した人材も成長して,今は大きな戦力になっています。この2年は,社員は1人も辞めていません。独り立ちできる人が離れていったことも,逆に会社が社員に何を提供できるか考える良いきっかけになりました。

 グッディは,会社自体が一種のオープンソース・プロジェクトだと思っています。オープンソース技術者を生かすというプロジェクトです。そのために何ができるか,これからも考えて,実現していこうと思っています。