筆者は仕事柄「どのLinuxディストリビューションを使えばいいか」,「おすすめのディストリビューションを教えてくれ」と聞かれることが多い。そして聞かれるたびに答えに詰まる。残念ながら,最適解が見つからないのが現状なのだ。
フリー版がないディストリビューションは”生きた情報”が少ない
現在,企業向けサーバー・ディストリビューションとして代表的なのは「Red Hat Enterprise Linux」であろう。多くのサーバー機やサーバー向けアプリケーションがサポート対象としており,実際に多くのシステムで採用されている。
ただ,Red Hat Enterprise Linuxにはフリー版が存在しない。開発やサポートにはコストがかかり,対価を求めること自体はある意味当然である。しかし,フリー版がないために,情報が流通しにくくなるという状況が起きてしまっている。ユーザーは,実際に使っている他のユーザーからの生きた情報がほとんど得られないと嘆く。やむを得ず,フリーのRed Hat LinuxやFedora Coreの情報を流用して凌いでいるのが現状だ。
また,Red Hatの場合,大手インテグレータでの採用は進んでいるが,日本国内で中堅システム・インテグレーターを主体とした間接型のパートナービジネスを構築するのに成功したとは言い難い。情報提供や技術者育成の面で,必ずしも日本の中堅インテグレータに合わせた施策が十分に提供されてはいないことが理由だ。
Red Hatより古い,世界2位のディストリビューション「SUSE」
| ||
|
SUSEはヨーロッパで主に普及しており,世界的に見ると第2位のベンダーということになる。SUSE Linuxの日本市場参入をきっかけに,Linuxディストリビューションの選択肢に変化が起きるかもしれない。
SUSEは日本市場では新顔だが,設立されたのは1992年と既に10年以上の歴史を持つ老舗ベンダーだ。Red Hatの設立が1994年のため,最古の商用ベンダーと言ってもよいが,この時期はまだLinuxやオープンソース・ソフトウエアのビジネス自体が萌芽期なので商用・非商用の区別にはあまり意味はないだろう。
今回,日本市場に投入されたのは以下の3製品。基幹業務向け「Novell SUSE LINUX Enterprise Server 8(SLES)」,中小規模システム向けの「Novell SUSE LINUX Standard Server 8(SLSS)」,デスクトップ向け「SUSE LINUX Desktop 1(SLD)」である。
SUSE Linuxは,RPM形式のパッケージをベースにしており,管理ツール「YaST」(Yet another Setup Tool)を備えているのが大きな特長だ。サーバー向けの2製品は,かつてRed Hat Linux対抗を打ち出した「United Linux 1.0」をベースに開発されている。
主な販売パートナーとなるのはIBMとHP。IBMはNovellがSUSEを買収する際にNovellに対して5000万ドルの投資を行っており,自社の独自ハードウエアに対応したLinuxディストリビューションを開発させる,実質子会社的な関係にあるといえる。HPも,「Red HatとSuSEの2社が最も重要なLinuxパートナー」(HP Vice President Martin Fink氏)と位置づけている。
欧米での実績からSUSEにはハード,ソフトの動作サポートは一通り揃う
それでは,Linuxでシステムを構築するシステムインテグレータや,Linuxを利用するユーザーにとって,SUSE Linuxが日本市場に進出することによるメリットはどこにあるだろうか。
ヨーロッパやアメリカでの実績から,Oracleなどの商用アプリケーションの動作サポートは一通り整っている。IBMやHPのハードウエアであれば動作保証されるのも安心感に繋がるだろう。テクニカルなサポートについては未知数だが,ノベルが行うということで信頼感がまったくのゼロというわけではない。
SUSE Linuxはフリー版も提供されている。FTPでISOイメージを取得してインストールすることができる。私もSUSE LINUX Enterprise Server 8をインストールして使ってみたが、なかなかよくまとまっているディストリビューションと感じた。
また,私の会社で運営しているメーリングリストで使用ディストリビューションに関するアンケートを取ってみたところ,これからシステムで使われるようになっていくだろうから,試しに使ってみたいという意見が出てきた。SUSE Linuxは比較的好感されているように感じられた。
日本での情報提供,技術者育成がポイント
ただ,サーバー中心の用途で考えた場合,GUIツールのYaSTなどのメリットは少なくなるので,他のディストリビューションとの大きな差別化要因とはならないものと思われる。
ユーザー・ベースの少なさも短期的には採用をためらわせる。ユーザーが少ないと,“生きた情報”も少なくなる。FTPで取得してインストールすることができると書いたが,現在のところ英語サイトのみである。公式なものも含めて日本語の情報も少ない。
やはり,情報提供やサポート・サービスなど,目に見えない部分が利用者がSUSE Linuxを選択する決め手となりそうだ。結局,製品やサービスの普及促進のために必要な当たり前のことをきちんと実行できるかどうかが,SUSE Linuxがユーザーの有力な選択肢となりうるかどうかを左右するのではないだろうか。
ターボリナックスやミラクル・リナックスも活発に機能拡張
また日本では,ターボリナックスやミラクル・リナックスといった国産ディストリビューションも有力な選択肢となっている。ターボリナックスはプリインストール型のアプライアンス製品の共同開発にも力を入れており,既存のCobalt製品ユーザーのリプレースを狙っている。デスクトップ分野ではWindows Media動画ファイルやDVD再生ソフトなどホーム・ユーザーを意識した「Turbolinux 10 F...」をリリースしている。
ミラクル・リナックスは日本オラクルの子会社であることもあり,Oracleのサポートは手厚い。Samba 3.0の国際化も手がけており,Sambaに関する技術力にも定評がある。6月末にリリースする新バージョン「MIRACLE LINUX V3.0 - Asianux Inside」は中国の紅旗Linuxのデータベース・サーバー向けディストリビューションと共通化するなど,アジア圏での利用に開発の重点を置いている。
各ディストリビューションがそれぞれの強みを生かしながら切磋琢磨し,ユーザが主体的にシステム構築のためのディストリビューション選びができるようになることを期待したい。
■著者紹介
宮原 徹(みやはら・とおる)氏
株式会社びぎねっと 代表取締役社長/CEO。1994年~99年,日本オラクル株式会社でデータベース製品およびインターネット製品マーケティングに従事。特に,日本オラクルのWebサイト立ち上げ,および「Oracle 8 for Linux」のマーケティング活動にて活躍。2000年,株式会社デジタルデザイン東京支社支社長兼株式会社アクアリウムコンピューター代表取締役社長に就任。2001年,株式会社びぎねっとを設立し,現在に至る。1972年,神奈川県生まれ。中央大学法学部法律学科卒。Linuxやオープンソース・ソフトウエアのビジネス利用を目指したProject BLUEの設立をはじめ、様々なオープンソース・コミュニティの活動に従事している(関連記事)。
■関連記事
米Novell SUSE Linux BU CTOインタビュー「ミュンヘン市に1万4000台のデスクトップLinux導入,間もなく最終決定」