アメリカのインターネット利用者数が,ほぼ頭打ちとなった。世論調査機関Pew Research Centerが4月16日に発表した結果(PDF形式))によれば,米国人全体の58%がインターネットを利用している(同調査は2002年3~5月にかけて,無作為に抽出された3553人の米国人への電話インタビューで実施された)。
2000年4月に実施された前回の調査では49%だったから,それよりは大きく増加している。しかし2001年10月以降の小規模調査では,57%と61%の間を行ったり来たりしているというから,そろそろ限界に達しつつあるようだ。
「頭打ち」の要因はいくつかある。一つはインターネットを始める人とやめる人の数が,ほぼ等しくなったこと。しかし,もっと大きな理由は「かたくなにインターネットを拒み続ける人が存在すること」である。
「ネットでできることを把握しておけば,必ずしも自分で使う必要はない」
もちろん経済的な理由から,インターネットを使わない人も存在する。しかし,こうした人たちは収入が増えれば使うようになるわけで,どちらかというと浮動層に当たる。つまり始めたりやめたりする人たちの中に含まれると見てよい。利用者数が頭打ちになった理由は,むしろ「金に困っているわけではないが,私には必要ない」という人たち,いわば地中深く隠れた固い岩盤のような“インターネット拒絶層”にぶち当たったことである。
別に嫌がるのを無理に使わせる必要もないが,プロバイダなどの立場から見た場合,こういう人たちは「私には必要ない!」という強固な信念に支えられているだけに,その変心をうながすことは難しい。しかし,こうした人たちを,もう少し細かく分類してみると,いくつかの興味深い現象が浮かび上がってくる。
まず,非利用者全体の20%は「家族や友人にインターネット利用者がいるので,必要とあれば彼らに情報を探してもらう」と回答。これは実に賢い方法である。私自身,仕事柄インターネットを多用するが,コンピュータとにらめっこして時間を費やすのは,正直,あまり楽しい作業ではない。誰か他にやってくれる人がいるなら,任せるのが一番である。
つまり「インターネットで何ができるかさえ把握しておけば,必ずしも自分で使う必要はない」というのが,彼らの基本的考え方である。あとは人柄の勝負だろう。常日ごろから,周囲との良好な人間関係を形成しておく必要がある。
イラク戦争の情報は9割近くの人が「大半はテレビから」
この一方で,そもそも「インターネットの必要性を感じていない」という声も聞かれる。こうした意見は,一度試しに使った後で永久にやめてしまった人たちの間で強い。この調査では「Webや電子メールを使わないことによって,本来は必要な情報を入手できなかったり,チャンスを逃すことがあると思うか」と聞いているが,非利用者の54%が「そんなことはない」と回答した。つまり「インターネットが無くても私の生活に支障は無い」ということである。
その直近の例としては,対イラク戦争におけるネット利用者調査がある。Pew Research Centerでは4月1日に緊急調査を実施したが,そこでは調査対象者全体の89%が「大半の情報はテレビから得た」と回答。インターネット利用者に限っても,その87%が「大半はテレビから」と答えている。
さらに残念なことに,「インターネットによってイラク戦争に対する考え方が変わった」と答えた人は,ネット利用者全体の6%に過ぎなかった。また同じく64%の人が,「ネット上の戦争関連の情報は,テレビや新聞から得た情報とほとんど同じだった」と回答した。
結局,「テレビかインターネットか」という,いわばメディアとしての性格の違いより,「情報自体の性格や質」における差異化が必要とされているようだ。しかし現在では,インターネット上の大半のニュースは,通信社や新聞社,テレビ局発であることを考えると,情報の差異化というのは容易ではない(AOLやYahoo!上のニュースも,もともとは,いわゆるマスコミが取材した情報である)。
“やせ我慢”をしているネット拒絶者も多いのでは?
マスコミ情報との差異化という点では,blog(Weblogの短縮形)と総称される個人やグループなどによるサイト(関連記事)も話題になった。商業メディアとは異なる,独自の視点からの戦争報道に注目が集まったとの評判だった。しかし,これは一部で騒がれたほどの影響力は持っていないことが明らかになった。4月1日の調査では,インターネット利用者のうち,blogから情報を得た人は全体の4%に過ぎなかった。
この一方でコミュニケーションやリサーチ・ツールとしてのインターネットの重要性は,非利用者といえども認めざるを得ない。非利用者の実に80%が「電子メールが使えたら,確かに便利だと思う」と回答している。また「何か探し物をするには確かに便利だと思う」との回答も,非利用者の72%に達する。
こうなると「私の生活では,インターネットを使う必要はない」(同54%)という回答とは,なんだか矛盾しているようにも思える。もっとも,ここで最初に紹介した「必要なら人に頼めばいい」という回答にたどりつくわけだが,しょっちゅう誰かに頭を下げるのも楽ではないはず。インターネット拒絶者の中には,やせ我慢している人も多いのではなかろうか。