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エンターキナー,韓 芝馨

 電話会社を変更しても元の電話番号を使える「番号ポータビリティ」。このコラムで以前紹介したように,韓国では携帯電話の番号ポータビリティが2004年1月に開始された。番号ポータビリティ開始後,携帯電話会社各社は,ユーザーの囲い込みや新規加入者の獲得のために,さまざまな工夫を行っている。

 その一例が,通話料金や携帯電話機の値下げや,魅力的なコンテンツの提供である。携帯電話各社は番号ポータビリティ開始後は,ユーザーの囲い込みに力を入れている。例えば,筆者が契約している携帯電話会社では,長期契約のユーザーに対して,通話料の10%割引を開始した。

 また,携帯電話各社は新規ユーザーの獲得にも力を入れている。例えば,番号ポータビリティを使って別の会社から乗り換えたユーザーには,携帯電話機を割り引いて提供している。

 以上のように,番号ポータビリティはユーザーにとってメリットが大きい。裏を返せば,携帯電話会社としてはビジネス環境が厳しくなっているといえるだろう。そこで本稿では,「番号ポータビリティの導入によって,韓国の携帯電話市場はどう変化したのか」,「番号ポータビリティは,携帯電話会社や電話機メーカーの事業戦略にどのような影響を与えたのか」――などを解説したい。

ユーザーの多くが番号ポータビリティを評価

 日本の総務省にあたる「韓国情報通信部(www.mic.go.kr)」の発表によると,2005年3月末までに番号ポータビリティを利用した携帯電話ユーザーは442万人であるという(表1)。これは,韓国の携帯電話加入者の11.9%に当たる。

表1 番号ポータビリティを利用した携帯電話ユーザー数(2004年1月から2005年3月末まで)
現在契約している電話会社SKテレコム(SKT)KTFLGテレコム(LGT)
移行前の電話会社KTFLGTSKTLGTSKTKTF
2004年(1~12月)56万7413056万7413127万10720127万107285万707724万2499109万9576
2005年(1~3月)35万467221万317956万785139万138622万32261万170814万848615万639430万4880
2005年3月までの累計92万208521万3179113万5264166万245822万322188万2780100万556339万8893140万4456
出典:韓国情報通信部

 番号ポータビリティに対するユーザーの評価は高いといえるだろう。例えば,携帯電話コミュニティ・サイト「Cetizen(www.cetizen.com)」が2004年12月に会員2602名を対象に実施した調査によると,会員の85.7%が番号ポータビリティを評価していると答えた。一方,否定的な回答をしたのは14.3%だった。

 評価している理由としては,「他の携帯電話会社のサービスを体験でき,消費者が電話会社を自由に選べるようになった」という回答が52.4%,「料金が引き下げられ,付加サービスが充実した」という回答が23.4%だった。一方,評価しない理由としては,「(番号ポータビリティを利用するには,新しい携帯電話機を購入しなければならないので)電話機を買い替えるのに費用がかかる」が38.9%,「番号ポータビリティを利用するには加入費などがかかる」が27.5%だった。不満の多くは,番号ポータビリティの利用に必要な費用に関するものだった。

2004年は携帯電話会社が減益,電話機メーカーは順調

表2 携帯電話会社大手3社のシェアの推移
(出典:携帯電話各社の発表資料)
 次に,番号ポータビリティによって市場シェアが変化したかどうかを見てみよう。表2(拡大表示)は,各社の発表資料に基づいた,大手3社――SKテレコム, KTF, LGテレコム――のシェアの推移である。番号ポータビリティ開始前の2003年12月のシェアは,SKテレコムが54.5%, KTFが31.1%, LGテレコムが14.4%だった。それが,2005年4月末にはSKテレコムが51.2%, KTFが32.4%, LGテレコムが16.4%になった。SKテレコムのシェアは3.3ポイント減ったものの,当初の予想よりは,シェアの変動はそれほど大きくなかったと評価されている。

 とはいえ,シェア変動の一因が番号ポータビリティだったと考えられているのは確かである。同様に,携帯電話会社の営業実績にも影響を与えたと考えられている。