韓国はxDSL先進国として知られている。また,韓国では3300万の携帯電話加入者のうち520万が,日本では昨年11月末に始まったばかりのCDMA2000 1X EV-DOサービスを利用している。公衆無線LANアクセス・サービスのアクセスポイントは世界でもっとも多く,モバイルの点でも進んでいる。このように世界に先駆けて,有線/無線ブロードバンドが集中している韓国のIT事情は,日本のITの将来を占ううえで参考になると思う。

 筆者はソウルで生まれ育ち,ソウルで情報通信関係のリサーチをしている。今回から韓国の情報通信の動向を日本と対比させつつ,レポートしていこうと思う。まず,2回に分けて韓国では2004年1月から始まった携帯電話の番号ポータビリティが携帯電話市場に与えた影響とその意味を考えてみよう。

編集部注:日本で唯一のCDMA2000 1X EV-DOを使ったサービスであるKDDIの「CDMA 1X WIN」のユーザー数は2003年12月末で4万7000ユーザー。2004年3月末には45万ユーザーを目標としている。

米国よりも韓国に似ている日本の携帯電話市場

 米国では2003年11月24日から携帯電話の番号ポータビリティが始まった(関連記事)。日本では総務省が同月から「携帯電話の番号ポータビリティの在り方に関する研究会」を開催し,日本での関心も高まっているようだ(関連記事)。日本ではあまり知られていないようだが,韓国では今年の1月1日から番号ポータビリティを始めている。

 米国の携帯電話市場は日本とは相当違う構造を持っている。このため,番号ポータビリティによって,携帯電話会社間の競争激化で通話料が安くなったこと,番号ポータビリティの導入費用をだれが負担するのかといった議論以外に,日本で参考になることはないように思える。

 これに対して,韓国でのサービス,そして実施にいたる議論は日本市場でも参考になるのではないだろうか。日本の携帯電話事情は,米国よりも韓国に似ているからだ。具体的には,(1)携帯電話会社3社が全国サービスを展開している,(2)携帯電話会社最大手のSKテレコムと他のキャリアの差が大きい,(3)携帯電話と固定電話の番号が異なっている,(4)日本に続き,世界のモバイル・インターネット市場をリードしている――といった点が挙げられる。

シェア過半数数を握るSKテレコムを2社が追う

 韓国で導入した番号ポータビリティ制は,携帯電話会社ごとの時間差導入,新しい携帯電話番号の採用とそれへの2007年までの完全移行といった特徴がある。また,導入後,電話会社側は音声を含めた完全定額制を打ち出し,すさまじい顧客獲得争いが始まっている。

 こうした韓国の番号ポータビリティを具体的に見ていく前に,韓国の携帯電話市場をざっと説明しておこう。韓国の携帯電話の加入者数は2003年12月末で3359万。人口は4700万人なので10人に7台持っていることになる。

編集部注:日本では1億2800万人に対して8000万台なので,10人に6台という普及度である。

 携帯電話会社はSKテレコムKTFLGテレコムの3社。2003年12月末でのシェアは,SKテレコムが54.5%で過半数を占め,これにKTF,LGテレコムが続く(図1

図1●2003年12月末でのシェア   図2●2003年1年間の純増
 

 携帯電話の加入者は2003年の1年間で125万人純増した。このうちに88%にあたる110万人がSKテレコムに加入して,他のキャリアとの差を広げ続けてきた(図2)。

 このようなSKテレコム一人勝ちの背景には韓国の独特な携帯電話番号体系がある。韓国の携帯電話番号は01X-YYY-YYYY,01X-9YYY-YYYYのようになっていて, 一番前の01Xが携帯電話会社の識別番号である。 これがSKテレコムは011, KTFは016, LGテレコムは019である。

 携帯電話サービスが始まった当初, SKテレコムが一番先にネットワーク構築を完了したため, 他の会社の携帯では通話のできないところでSKテレコムの携帯ではできる場合が多かった。それにSKテレコムの端末価格や通信料金が一番高かったため, SKテレコムのサービスには今でも他の会社のサービスより高級なイメージがある。SKテレコムはこのようなイメージを用いて「SPEED011」というブランドを誕生させた。SKテレコムの加入者の中にはサービスの差よりも011番号が欲しくてSKテレコムに加入した人が多い。

SKテレコムの独占を避ける時間差導入

 韓国では2002年4月に日本の総務省にあたる情報通信部が携帯電話の番号ポータビリティ導入の方針を決めた。当初は,3社とも導入に反対したが,2002年10月からKTFとLGテレコムが番号ポータビリティの“時間差導入”を主張した。これを受けて2003年1月に情報通信部は2004年1月から段階的に番号ポータビリティを導入することを正式発表した。

 まず,2004年1月からSKテレコムの加入者に対して,SKテレコムの携帯電話番号のままでKTFやLGテレコムに移行できるようにする。続いて,2004年7月からはKTFの加入者が他のキャリアに移行できるようになる。すべての携帯電話加入者が自由に移行できるようになるのは2005年になってからである。

2008年までに新しい番号体系に完全移行

 番号ポータビリティ導入に合わせて,情報通信部は携帯電話に電話会社によらない010という共通の番号を用いることにした。新しい番号体系は010-NXXX-XXXXのようになっていて, Nは2~9の中で2つずつキャリアに割り当てられる。

 2004年1月1日からはすべての新規加入者は010の携帯電話番号になる。既存の携帯電話ユーザーも2007年中に010番号に移行しなくてはならず,2008年には011/016/019の番号は廃止される。番号ポータビリティを使って,今の電話番号のまま他の電話会社に移っても,2008年までには新しい010番号に変えなくてはならない,というわけである。

 ある意味,番号ポータビリティ制を無意味にする010番号を組み合わせることによって,「SPEED011」ブランドを打ち崩し,電話番号のブランドによらない競争を一からさせようというのが情報通信部の考え方である。

 既存ユーザーが番号を変えるにあたって,メリットもちゃんと用意してある。最後の4桁の番号は空いている番号であればユーザーが自由に選べるようにしたのだ。ユーザーは自分が気に入った語呂のいい番号を取れることになる。早い者勝ちなので,010番号への移行が促進されるというわけだ。例えば「1004」は韓国語読みすると「天使」という意味になり,人気の番号の1つになっている。

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 こうして2004年1月1日から韓国ではシェアの高い電話会社から順にユーザーが番号そのままで他の電話会社に移行できるようになった。その結果,010番号の導入と相まって,携帯電話業界は大変動に見舞われている。次回は番号ポータビリティ導入後,何が起きているのか検証しよう。

(韓芝馨=エンターキナー)


■著者紹介:
ハン・ジヒョン。1998年,韓国インターネット・バブルが最高潮になったとき,大学を卒業してインターネット・ベンチャーで事業企画業務を始める。2000年になって当時日本で活性化されたモバイル・インターネットに興味を持ち,IT専門リサーチ会社で通信会社や端末メーカ,ITベンチャーを対象に当時モバイルインターネット先進国であった日本のモバイルインターネット産業をリサーチして提供する。2003年からエンターキナーでリサーチャーとしてIT関連リサーチ業務を続けている。エンターキナーは韓国・ソウルに本社を置くリサーチ・コンサルティング会社。韓国内外の情報通信市場・技術動向,環境分析,政策,戦略分析,ビジネス・モデルなど専門分野のレポート発行,市場調査などを行っている。