2004年9月9日,韓国・情報通信部はWiBroの事業権を3社の通信事業者に与えることを決めた。関係者にとって,何社に事業権が与えられるのかがとても重要だった。というのも,「2社だった場合には有線通信事業者2社に,3社だった場合には有線通信事業者2社と移動体通信事業者(携帯電話会社)1社に事業権が与えられる」というのが大方の予想だったからだ。情報通信部が事業者数を3社に決めたことは,有線通信事業者と移動体通信事業者の両方に事業権を与えるという意向を表明したことに他ならない。
これに対して一番反発したのはKTである。有線通信事業者のKTとしては,移動体通信事業者のSKテレコムがWiBroの事業者に選定されることは,どうしても避けたいところだろう。
WiBroで初めて激突するKTとSKテレコム
ここ数年間,韓国の通信市場は有線通信ではKTが,移動体通信ではSKテレコムが支配的事業者としての地位を固めてきた。KT(子会社の移動体通信事業者KTFを含む)の収益は2002年が17兆289億ウオン,2003年は16兆6509億ウオンだった。純利益は2002年が2兆4960億ウオン,2003年は1兆2375億ウオンだった。
一方,SKテレコムの収益は2002年が8兆6340億ウオン,2003年は9兆5202億ウオン。2002年の純利益は1兆5113億ウオン,2003年は1兆9428億ウオンだった。
これらに対して,KTとSKテレコムを除いた通信事業者の収益は全部合わせても2002年が6兆1137億ウオン,2003年が6兆1115億ウオン。純利益は2002年が3413億ウオン,2003年は5859億ウオンに過ぎなかった。
数字から分かるように,KTとSKテレコムはいずれも通信業界のリーダーである。ただ,土俵が異なるため,今までは競争したことがなかった。ところがWiBroをきっかけに,両社はぶつかり合うことになる。
現在,有線通信事業者と移動体通信事業者は同じ方向を目指している。今まで,有線通信事業者はPCのインターネット・アクセス回線を提供し,移動体通信事業者は携帯電話や携帯端末のインターネット・アクセス回線を提供してきた。前者は「高速だが固定」,後者は「低速だが移動可能」である。このため,棲み分けができていた。ところが,「高速で移動可能」なWiBroの出現により,移動体通信事業者が有線通信事業者の領域に入り始めた。このことは,前回の記事でお伝えした通りである。
今後主流になるであろうWiBro。有線通信事業者のKTとしても,移動体通信事業者のSKテレコムとしても,一歩も引けないのが現状なのである。
リーダーの座を守りたいKTの本音
WiBroへの参入について,移動体通信事業者は有線通信事業者に比べて不利な立場にあった。というのも,WiBroが利用する2.3GHz帯は,FWA(加入者系固定無線アクセス)用に有線通信事業者に割り当てられていた帯域だったからだ。しかも,移動体通信事業者には,第3世代携帯電話サービス用に2GHz帯の帯域が割り当てられている。これらの理由から,WiBroの事業権を狙う有線通信事業者(特にKT)は,移動体通信事業者(SKテレコム)に周波数を割り当てるべきではないと主張し続けている。
この主張は一見もっともらしい。しかし,KTがSKテレコムのWiBro参入を反対している真の理由は他にあると筆者は考える。通信業界のリーダーの座を死守するために反対しているのではないだろうか。