エンターキナー,韓 芝馨

 2004年,韓国通信業界の最大の話題は「WiBro(ワイブロ)」である。WiBro(Wireless Broadband)とは,2.3GHz帯を使う無線LANサービスのことで,「ポータブル・インターネット」とも呼ばれる。現在,韓国を代表する通信事業者であるKTSKテレコムHanaroテレコムDacomの4社が周波数割り当てを競っている。

 韓国の通信業界がWiBroにかける期待はとても大きい。2010年に第4世代携帯電話を始めるまで,そのつなぎとしてWiBroがもっとも重要な役割を果たすと期待されているからだ。今回から4回にかけて,韓国政府,有線通信事業者(KT社),移動体通信事業者(SKテレコム社),通信機器メーカー(韓国Samsung)の4者それぞれがWiBroを捉える立場や第4世代携帯電話時代を迎える戦略を見てみる。これを通じて韓国の通信業界および通信機器業界の現状をみて,その将来像を展望してみよう。

2.3GHz帯の再割り当てで始まったWiBro論議

 2.3GHz帯は韓国ではもともとWLL(加入者無線)用にKT社やHanaroテレコム社に割り当てられた周波数帯で,両社は2000年10月サービスを開始した。ところが,ADSLや加入電話の価格低下で競争力を失い,サービスを利用するユーザーがほとんどいなかった。2002年初め,韓国・情報通信部はKT社やHanaroテレコム社から周波数を回収して高速無線LAN用に再割り当てする方針を決めた。

 2002年12月,IEEEは移動ブロードバンド無線アクセス(Mobile Broadband Wireless Access)標準化のための委員会IEEE802.20を設立した。移動中のユーザーにも高速データ・サービスを提供することを目指す。これをきっかけに情報通信部は2.3GHz帯の無線LANサービスを「ポータブル端末で停止・移動状態で高速でインターネットにアクセスできるサービス」と定めた。

 このころ,2.3GH帯を使う無線LANサービスはポータブル・インターネットと呼ばれていた。2004年4月には情報通信部によって「WiBro」と命名された。

 WiBroの技術標準として初めに候補に挙がったのは米Flarion Technologiesの「FLASH-OFDM」,米ArrayCommの「iBurst」,米Navini Networksの「RipWave」と韓国電子通信研究院(ETRI)やSamsung社などが開発していた「HPi」だった。HPi以外の3社の技術はIEEE802.20の仕様候補として競っていた。一方,HPiの源泉技術は802.16だった。

CDMAをめぐる成功神話とにがい思い

 WiBro技術標準の選定過程をみるにあって,まず韓国政府がWiBroに何を期待していたのかを理解する必要がある。

 韓国はCDMA方式の移動体通信サービスを世界で最初に商用化した国である。当時,今のFlarion社やArrayComm社のようなベンチャー企業に過ぎなかった米Qualcommは,韓国でのCDMA商用化成功をきっかけに今のような大手企業に成長することができた。

 CDMA商用化プロジェクトは1989年から1996年まで7年間政府からの研究補助金543億ウオンを含めて総額996億ウオンの研究開発費と1000余名の研究員が投入された政府主導の大きな研究開発プロジェクトだった。CDMA商用化プロジェクトの成功で韓国はCDMA移動体通信サービスで世界をリードすることができたし,Samsung社は世界一のCDMAメーカーになった。現在,世界のCDMA機器の54%を韓国メーカが生産している。これは韓国で「CDMA成功神話」と呼ばれている。韓国政府は,WiBroでCDMA成功神話の再現を狙っていた。

 成功神話を打ち立てた韓国メーカーはCDMAに恩恵を受けたとは思っているものの,Qualcomm社に対する感情はあまりよくない。