11月上旬,ウイルス対策ソフトのトラブルが相次いだ。日本ネットワーク アソシエイツおよびシマンテックの製品で,最新のデータ・ファイル(*)を使うと,コンピュータの動作が極端に遅くなるなどのトラブルが発生した。両社の製品とも,原因はデータ・ファイルの不具合で,ウイルス対策ソフト自体の問題ではない。2社で続いたのは,単なる偶然であるという。今後は,再発防止のために,両社ともチェック体制を強化する。

 トラブルが起きたのは,日本ネットワーク アソシエイツの「McAfee VirusScan 」および「McAfee NetShield」,シマンテックの「Norton AntiVirus for Windows」。両社の製品とも,最新データ・ファイルを適用するとトラブルが発生したが,詳細は異なる(写真)

写真 トラブルを報告する両社のWebサイト
上が日本ネットワーク アソシエイツ,下がシマンテックが公開している情報。

 McAfee VirusScan/NetShieldについては,ある特定バージョンのウイルス検出エンジンで,最新のデータ・ファイルを使用した場合にだけ,トラブルが発生した。同ソフトでは,ウイルスの特徴を収めたデータ・ファイル「DATファイル」と,検出エンジン・プログラムのそれぞれを,同社Webサイトなどからダウンロードして,別々にアップデートできる。そのため,ユーザーによって,利用しているエンジンとデータ・ファイルの組み合わせが異なる。特定の古いエンジン(バージョン4.0.02)のユーザーが,最新のデータ・ファイルを使った場合に,トラブルは発生した。

 報告されているのは,(1)システムがフリーズする,(2)手動によるウイルス検査を終了できない,(3)CPU負荷率が100%になる,といったトラブルである。しかし,「どのトラブルも原因は同じで,環境によって現象が異なると考えられる」(日本ネットワーク アソシエイツ マーケティング本部長 栗原 章浩氏)という。

 Norton AntiVirus for Windowsで起きたトラブルは,最新のデータ・ファイルを使うと,コンピュータの動作が極端に遅くなるというものであった。同社でも,データ・ファイルと,エンジン・プログラムの両方をアップデートできるようにしているが,今回問題になったのは,データ・ファイル。このデータ・ファイルを使用すると,どの環境でも同じトラブルが発生した。

 ただし,コンピュータのスペックなどで,どのように体感したのかは,ユーザーによって異なるという。「環境によっては,あまりに遅く感じて,システムがフリーズしたように見えた可能性もあるし,さほど気にならなかったユーザーがいた可能性もある」(シマンテック SARCジャパン マネージャ 星澤 裕二氏)。

トラブルの原因はデータ・ファイル

 両社とも,トラブルの原因はデータ・ファイルの不具合であるとしている。「データ・ファイルは,単純にウイルス・コードの一部分を抜き出したものではない。誤認がないようにウイルスを検出するためには,複雑な方法でウイルス・コードの特徴を抽出する必要がある」(シマンテック)。問題のデータ・ファイルでは,ある特定のウイルスの特徴の抽出方法と,データ・ファイルへの記述方法にミスがあったという。そのため,そのウイルスとの照合を行おうとすると,途端に時間がかかり,コンピュータの動作が遅くなった。

 日本ネットワーク アソシエイツでは,原因がデータ・ファイルにあるとしながらも,詳細については米国本社で現在解析中であるという。

チェック漏れで,問題があるファイルを公開

 両社とも,「公開前には,毎回必ず実験機にインストールして,不具合が起きないかどうかをチェックしている」と口をそろえる。しかし,今回はチェックが不十分で,問題があるデータ・ファイルをそのまま公開してしまった。

 「動作確認はもちろん大切だが,新種のウイルスに対応するためには,できるだけ早く,データ・ファイルを更新しなければならない。そのために,チェック漏れが起きた可能性は否定できない」(日本ネットワーク アソシエイツ)

 シマンテックによれば,新しいデータ・ファイルをチェックするポイントは,(1)「新しく加えた新種を発見,駆除できるか」,(2)「誤認をしないかどうか」,(3)「今まで検出できたウイルスを,同じように検知できるか」,そして(4)「パフォーマンスに問題はないか」の4点であるという。

 「製品の性格上,前者3点に重きを置いている。そのため,テスト不足であった可能性はある。パフォーマンスのテストに関しては,いろいろな環境で実際に試さなくてはならないため,時間がかかる。あまり時間をかけすぎると,公開が遅れてしまう。ただし,早ければ,パフォーマンスに問題があってもよいということにはならない」(シマンテック)

 ウイルスがはびこっている現在,ウイルス対策ソフトの利用は不可欠である。次から次へと新種のウイルスが登場し,被害をおよぼしている。最近では,メールで感染を広める「Navidad」ウイルスが流行している([関連記事])。今回のようなトラブルがあったからといって,ウイルス対策ソフトの利用を止めるのは危険である。「最新のデータ・ファイルを使用する」,「ウイルス対策ソフトを常駐させる」などして,適切に利用し続ける必要がある。

 両社とも,今回のトラブルを重く見ている。これを機に,チェック体制を見直し,強化して,同様のミスが起きないように努めるという。併せて,万一トラブルが発生した場合には,詳細な情報を,ユーザーの分かりやすい場所にできるだけ早く公開する体制を作るという。

(勝村 幸博=IT Pro編集)

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