■米MicrosoftのBob Muglia上級副社長は,Windows Serverの開発責任者で,Windows Serverのロードマップ関連の説明責任者も担当している。「Windows & .NET Magazine」のメイン・ライターPaul Thurrottは2004年5月,Muglia氏と同社Windows Server担当上級ディレクタであるJeff Price氏とともに,ボストンの歴史的なレストランUnion Oyster House(訳注:1826年創業の米国で最も古いレストラン)で夕食を共にしながらインタビューを行なった。
■そこでMuglia氏とPrice氏は,次期版Windows Serverのロードマップと,これに搭載予定の機能について話をした。第1回は,Microsoftが推し進めるDSI構想の中の技術と,対Linux戦略について語った部分を紹介する。

(Paul Thurrott=聞き手)

Trustworthy Computing,.NETに並ぶ
3大戦略の1つ「DSI」

[Bob Muglia氏]われわれがWindows Server 2003をリリースしてからちょうど1年たったので,そろそろいくつかアップデートを提供するべきだと思っていました。あなたは昨年の発表会にいましたよね?

————ええ,もちろん。


Bob Muglia氏
米Microsoft,Windows Server部門担当シニア・バイス・プレジデント

[Muglia]このリリースでは,ITの運用コストとITインフラのために,Windows Serverが何をするか話し合うことから始めました。それが,お披露目の時に言った「Do more with less」(少ないコストでより多くのことをやる)いうコンセプトです。

 理想的なことをいえば,IT管理者がエンドユーザーをサポートする時間とお金を節約するのを助けられるはずです。そのコンセプトはもう1年以上続けていますが,2003年末の四半期の時点で,われわれは年次比較で約30%成長しました。まさに大成功。特にSmall Business Serverはそうで,大変好調です。

 われわれは今後数年間にわたり,あるテーマを推進し続けるつもりです。それは3つのイニシアチブ「Dynamic Systems Initiative(DSI)」「Trustworthy Computing」「.NET」に沿った革新を進めることです。どれも,ユーザーに一連の利益をもたらすものです。だから今日私は,そういったイニシアチブをサーバーOSのメジャー・リリースやマイナー・リリースに,どうやって搭載していくかを話したいと思います。

————DSIはここのところ何度も登場していますが,私はそれが何か,ちゃんと理解しているかどうか,かなり怪しいところがあります。

[Muglia]DSIのコンセプトは,すべてのシステムの管理性をどう向上するかということです。われわれがやろうとしているのは,(自社開発の)アプリケーションにかかわる様々なタイプの人々に注目することです。人々の間でやり取りされる情報や知識のために系統だった道筋を付け,輪の中にいるみんなの生産性がもっと上がるようなことです。

 開発者がアプリケーションを作るとします。彼はそのアプリケーションについて,たくさんのことを知っています。そのアプリケーションが置かれるべきランタイム環境を知っている。しかし,そうした知識は運用スタッフには伝えられない。例えば,図を添付したメールが何通か運用スタッフに送られるといったことはあるでしょうが,多分手続き上のことに過ぎないわけです。

 運用スタッフたちは,アプリケーションを配置した上で,さらに開発者が知らない現象を発見します。ところが今度,運用スタッフは開発者とは決して話をしません。一方で,アプリケーションが毎日何をしているかという知識は,エンドユーザーこそが持っている。エンドユーザーによるアプリケーションの使い方を知る系統だった仕組みはありません。

開発者/管理者/利用者の連携を緊密にする「SDM」

[Muglia]DSIがやろうとしているのは,こうした人々の間に,計画的な方法で知識を伝達することです。つまり,最初に複数のコンピュータ上にアプリケーションを配置するときに,そのランタイム環境の情報が,なんらかの方法でシステム内にコード化されます。われわれがやっている方法は,開発者がVisual Studioの「System Definition Model(SDM)」と呼ばれるものを使って,アプリケーションを作ることです。

 このSDMは,アプリケーションのランタイム環境を記述したXML文書です。この文書が運用スタッフに送られると,彼らはそれを使って特定の構成の中で,アプリケーションを稼働したり,監視したりできるようになります。さらに運用スタッフが構成について何かを情報を得れば,再度SDMを使ってそれを開発者にフィードバックできます。

 SDMの別の側面として,エンドユーザーがアプリケーションを動かした経験を生かすというものがあります。現在でもDr.Watsonでやっているように,エラーが起きたのを検知すると,その情報をMicrosoftに送り返せるようになっています。

 その延長として,「Corporate Error Reporting」と呼ばれるものもあります。そのレポート機能では,同じ情報をMicrosoftではなく,IT管理者に返せます。

 われわれは,Watson君が集める情報の種類を拡張できます。ほかの情報,例えばヘルプ情報なども転送対象にするつもりです。それをオンライン状態にすると,エンドユーザーにとってどんなドキュメントが役立つかとか,エンドユーザーが何を使って,何を使わないかが,本当に分かるようになりますし,そういったドキュメントの有用性に関してコメントしてもらえるようになります。

 さて話を戻すと,われわれはエンドユーザーが持つ情報を取り入れて,計画的に開発工程へそれをフィードバックしているのです。

————それで,企業がCorporate Error Reportingを導入した場合,クラッシュしたときには…

[Muglia]その情報はその企業のIT部門に返されます。彼らが作っているのは商用のアプリケーションではなく,自社の業務用のアプリケーションのはずです。

 このエラー・レポートの魅力は,Microsoftの開発工程でこれまで使っていたものと,ほとんど同じものだということです。80:20の法則,ことによると90:10の法則みたいなもので,「10%のバグが90%のクラッシュを引き起こす」ということです。だから,そうしたバグを修正できれば,ユーザーの使い心地を劇的に改善できるでしょう。

————エンドユーザー向けの既存のエラー報告ツールはよく使われていますか? お客さんの多くが本当に使っていますか?

[Muglia]1日数百万は受け取りますよ。

————1日に数百万? 本当ですか?

[Muglia]われわれは多くのユーザーを抱えています。素晴しいことに,われわれはユーザーの問題を,リアルタイムにデバッグできるのです。問題があると分かるだけでなく,それ以上のことです。われわれは実際に測定する仕組みを取り付けて,そのエラーについてより詳しく調べられます。

 つまり,それがDSIです。

 ほかの2つの大きなイニシアチブは,セキュリティに関するTrustworthy Computingと,そしてわれわれの開発プラットフォームである.NETですね。これらすべてを一緒にして,ITコストをどうやって減らせるか,そして独自のアドバンテージをどう与えるかということだと思います。

 それがこうした大きなイニシアチブの一番の狙いで,非常に長い期間にわたって取り組みを続けるつもりです。

————私は,MicrosoftがTrustworthy Computingを縮小しているという報道を読んで驚きました。最近,「Windows Hardware Engineering Conference(WinHEC)」でもMicrosoftがTrustworthy Computingに重点を置かなくなっているというレポートがあった。でも全く正しくないように思います。

[Muglia]重点を置かなくなっているということはありません。世間は特定のことだけを取り上げるのです。物事を直感で判断しようとしているのかもしれませんね。

ITスタッフを32の職種に分類・研究
業務(workload)に焦点を当てる

[Muglia]サーバーのビジネスについて,私が考えている大筋はこんなことです。ある意味非常に直截的なのですが,お客がわれわれの製品をどう使っているか理解することが重要です。われわれは,Windows Serverを使うITスタッフの中で,客層の違いと,それに応じた個性の違いに注目します。

 そして,実際に32の職種と32の異なる個性に分類しました。これらはIT管理者,データベース管理者,デスクトップ・サポート管理者,ヘルプデスク管理者,セキュリティ管理者,ストレージ管理者——などなど,違った役割を持ちます。われわれはそれらの異なる客層と,テクノロジに対する彼らの見方について思索しています。

 2番目の話は,われわれがWindows Serverを見るということです。人々は自分の環境で,1つ以上の業務(workload)のためにWindows Serverを導入します。サーバー・アプリケーションと一緒に,Windows Serverを導入することもよくある。Windows Serverだけでなく,データベース・サーバーが稼働していたり,さらにその上にアプリケーションがあったりするかもしれない。

 つまり,顧客はこういった一連の業務を持っており,それはすべてあるソリューションを組み立てるために1つになっているわけです。こうした業務すべてにわたってサーバーのことを考えれば,1つの次元で,最良のシステムをどうやってビルドできるかを考える助けになります。

Linuxはこの1年半でオープン・ソース運動から
営利企業による商用技術に変わってきた

[Muglia]さらに,競合製品に対して考えています。相対的にどう差をつけ,どう利点を生み出すか,すべての業務を統一されたやり方で,どう革新を起こせるかを考えています。Linuxのような技術を使って競合他社がやれるようなことよりも,もっと良いことをお客にするにはどうするか——Microsoftのアプローチの枠組みが,考える助けになります。

 私が悟りつつあるのは,Linuxが過去2年間に,少なくとも最近12~18カ月のうちに変化したということです。Linuxは純然たるアモルファスのようなオープン・ソース運動から,営利企業によって市場に持ち込まれる商用の技術の1つに変わってきました。

 お客がLinuxベースのソリューションを購入する場合,IBMのようなベンダーに頼り,そのベンダーが出している製品群を購入し,それに付随するコンサルティング・サービスを一緒に導入することもよくあります。Linuxがフリーだという神話がいまだに広まっていることは,とても面白いことですよね。われわれのすべての顧客が「Linuxはそれに伴うコストがかかる」ことを理解していると思いますし,実際のところ,もしWindowsベースとLinuxベースについて,類似したソリューションを見れば,それらの初期導入費用はかなり似たようなものになると思います。

 じゃあ,Microsoftが業務のネットワーク化にどう取り組むか,Red Hat Linuxと比較してどうなのか,ということですが。Linuxの商用版の実装を見て,われわれの製品と技術を比較したり,市場においてわれわれの製品と差別化してきていることを重要視しています。Linuxは,いろいろな意味で競合するものではないのですが,われわれの競合相手が作るので,結果として競合製品になるわけです。

 われわれはこの種の問題に関して,高い次元で考えます。組織が業務のために最良のソリューションを構築するのに,どうやって自らを運営できるかといったことです。そして同時に,われわれが保証したいのは,最もよい包括的なソリューションを提供するために,それぞれの業務を横断的に統合するものを,われわれが提供できるということです。そのソリューションは,競合他社のどんなソリューションに比べても明らかに違うものです。

————Linuxは,ネットワーク・サービスやWebサービスのような「インフラストラクチャ」と呼ぶ分野で,競合するように思いますね。

[Muglia]おっと。その通りです。

————しかし,Small Business Serverやそれに近いものも他社は持っていませんね。

[Muglia]そう,彼らは持ってない,持ってない。

————彼らがそういった製品を持つのはまだ何年か先です。

[Muglia]われわれが見ているLinuxの(成功した)カテゴリは,まさにあなたが言った分野で,ネットワーク・サービスです。

 次にLinuxが見られるほかの分野は,(Intel)x86ハードウエアへの独自性の強いUNIXソリューションの移植です。われわれはServices for UNIXというソリューションを持っていますが,確かにLinuxは,あるお客さんたちが好きなソリューションです。しかし,こういうことはあなたもきちんとお分かりだと思う。ごらんなさい。私は余裕でこう言える。どこでLinuxが見られますか?…と。

 確かにわれわれはネットワーキングでそれを見かけるし,UNIXアプリケーションの移行でも見るし,高性能な計算処理でも目にします。そしてアプリケーション・サーバーやWebサーバーにもある程度は見かけるが,その分野ではあまり多くはない。データベースの世界ではあまり見ないし,ストレージや電子メールやコラボレーションではわずかしか見ない。認証情報の管理は別として,そのほかではほとんど全く見かけない。違った業務でなら一貫したものを見られるし,異なる場所で程度の差こそあれ,目にはするはずです。

 しかし,業務に焦点を当てれば,問題点が分かります。Microsoftこそが顧客にとって最良の製品を作り出せるということです。

Windowsが及ばない点は?

————疑問が残りますね。Microsoftは明らかに,あなたがリストした業務をすべて狙っている。リストにあるはずなのに,Microsoftが狙っていない業務はありますか?

[Muglia]歴史的にわれわれが最も劣っていたと私が思う用途は,高性能な計算処理です。それは今いくつか投資を進めている分野でもある。

 例えば,Small Business Serverのようなソリューション,そのほかわれわれが大変強い製品を持っているアプリケーション・サーバー,Webサーバーのようなソリューション,さらに事実上必需品であるネットワーキングのような業務があり,そこでは顧客が何でも便利なものを選択できます。

————それはどのみち巨大なビジネスにはなりませんね。DNS(ドメイン・ネーム・システム)サーバーにするために,Linuxマシンを買っているお客は,Microsoftのコア・ビジネスには悪影響を与えないでしょうね。

[Muglia]絶対にそうです。ネットワーキングという業務が,今後長い時間を経てどう変わるか眺めるのは面白いでしょうね。われわれは近いうちに,どこでもアクセスできるようにしますし,新たにゲートウエイにも入り込むチャンスを手にするでしょう。ほかのことと同じように,現在の中にこそ,実現するはずの革新がある。あなたの意見は本当に正しい。そうしたものは,ほとんど日用品です。

————いいでしょうか,私は大事なことを思い出しましたが,あなたは最近2~3のLinuxのイベントに行ったことがありますよね?

[Muglia]そんなに何度も行っていません。Linuxコミュニティは,注目すべきことが集まっていて,面白いところです。時々われわれがやろうとしていることと,あまり波長が合わないんですが…

————(笑って)そうですねえ。

[Price]でも昔よりもずっと現実的になりましたよ。

[Muglia]私もそう思います。

[Price]感情的になったり,宗教がかったりすることは,とても少なくなりました。

————まあ,あなた方は,感情的なものからたくさん金もうけができます。

[Price]ええ,それは素晴らしいモデルです。でもLinuxもWindowsも他のみんなからシェアを奪っています。将来を考えて,たくさんの会社が両方でやっていこうとしています。

(第2回に続く)