米America Online(AOL)は7月15日,Netscapeブラウザ事業に携わる50人の従業員を解雇するとともに,開発作業を担当するMozillaプロジェクトを再編することを発表した。この発表は,Netscapeの歴史と,市場を席巻するInternet Explorer(IE)との競争に終止符が打たれることを意味する。

 もっとも,当のAOLは「火消し」に躍起だ。解雇対象となる開発者はNetscapeの従業員の10%足らずであると強調しているほか,NetscapeユーザーのサポートやNetscapeのポータル・サイトの運営も継続するという。しかし,肝心のブラウザ・スイートの開発事業は「Mozilla Foundation」という新しい独立財団に移譲される。AOLがブラウザ市場から撤退することは明らかだ。

 「Netscapeは依然,われわれのマルチブランド戦略の重要なパートを占めている。Netscapeブランドのブラウザとポータル・サイトのサポートは今後も続けていく」(AOLの広報担当者)という。確かにAOLは,市場で大きなシェアを持つAOL接続ソフトで,Netscapeブラウザの基礎となっているMozillaテクノロジを採用すると見られてきた。しかし先月,AOLは大方の予想を裏切り,今後7年間にわたってInternet Explorerのテクノロジを利用できるという契約をMicrosoftと取り交わした(関連記事)。AOLによれば,自身のMozillaテクノロジよりIEの方が優れているのが採用の理由だったというが,近ごろ進化のめっきり滞っているIEに不満を募らせるエンドユーザーが少なくないことを考えれば奇異な話だ。

 このニュースと関連して,AOLはMozilla.org(The Mozilla Organization)を「Mozilla Foundation」という非営利団体に変えることも明らかにしている。Mozilla Foudationの役割は,次期ブラウザ「Mozilla Firebird(開発コード名)」や次期メッセージ・クライアント「Mozilla Thunderbird(開発コード名)」などで構成するMozillaブラウザ・スイートや,様々な用途に向けて開発が進められているアドオン・ソフトとアクセサリの開発を監視することである。AOLはMozilla Foundationに200万ドル寄付するほか,「Mozilla」の商標とロゴを供与するという。

 AOLが42億ドルもの巨費を投じてNetscapeを買収したのは1998年のことである。今やこれがいかにばかげた金額であったかは明らかだが,ネット・バブルによる株価上昇の余波で実際の買収費用はそれをはるかに上回る90億ドル近くに達した。この投資はAOLには利益をもたらさなかった。Netscapeはブラウザ市場でIEに主導権を奪われ,ポータル・サイト市場はYahooやMSN,Googleに明け渡してしまった。Netscapeの開発者やオープン・ソースのボランティア・グループは,NetscapeがMozillaのソース・コードを公開したときに持っていた勢いを5年かけて食いつぶしてしまったのだ。

 Mozillaの惨状は目を覆わんばかりだ。現在でもMozillaの改良はコンスタントに続けられているが,Webブラウザのシェア調査でMozillaプロダクトはかろうじて名を連ねているに過ぎない。米Apple Computerがブラウザの新版「Safari」のコア技術としてMozilla以外の,おそらくはMozillaより優秀なテクノロジの採用を決めたとき,Mozillaテクノロジがもはや見向きもされなくなっていることがはっきりした。

 次期ブラウザの開発では,別のオープン・ソース団体からのコード名「Firebird」の使用と商標の取り下げを求める動きに悩まされた。その団体がデータベース製品のコード名として使っていたというのだ。商標名を所有するMozilla.org参加者からのクレームにもかかわらず,Mozilla.orgはこの名前をあっさり取り下げ,次期ブラウザを「Mozilla Firebird」と呼び始めている。

(Paul Thurrott)