先日、記者の母校から同窓生名簿の更新を知らせるメールが届いた。そこには、名 前や住所、電話番号、勤務先を継続して名簿に掲載してよいかどうかを尋ねる一文が あり、許諾しなければ掲載しないという。個人情報保護法の施行を機に、こうした 「パーミッション(許諾)」を取るための案内状を何通か受け取った。

 クレジットカード会社や通販事業者、百貨店——。普段から自分がよく利用している店舗や企業からの通知であれば、不審に思うこともなく自分の個人情報を管理、利用されるのにも大きな抵抗を感じないという読者は少なくないだろう。

 ところが、である。マーケティングコンサルティングを手がけるエムズコミュニケイト(東京・新宿)が実施した消費者の意識調査では、個人情報を利用して個別に内容を変えたダイレクトメール(DM)を送ってこられることに対して9割以上の消費者が拒絶反応を示した。調査対象者のコメントには、「不快」「気持ち悪い」などネガティブな言葉が相当目に付いたという。

 日ごろいろいろなところからDMを受け取っている現状では、実際にここまでの嫌悪感を抱く人は少ないかもしれない。だが、いざアンケートを実施して改めて消費者の心情をたずねてみるとこうした結果になるのである。エムズコミュニケイトの岡田祐子社長は「企業はこうした顧客心理を頭の片隅に置くべき」と指摘する。

 一部のアンケート結果と片付けていたのでは顧客満足度を損ねる恐れがある。特に、CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)担当者ならこの結果は無視できない。消費者が個人情報を利用されることに好意的でないのであれば、企業は顧客とのコミュニケーション方法を見直す必要があるだろう。

 自社に高いロイヤルティー(忠誠度)を持つ顧客なら個人情報に基づいたアプローチに対して寛容かもしれないが、まだそれほどなじみのない一見客の個人情報を取得・活用するのは控えたほうがよさそうだ。

 ただし、新規顧客の獲得は重要な課題。個人情報を活用せずにアプローチすることは、広告や宣伝以外には考えにくいが、先進企業は新たな方法を見いだしつつある。

 例えば、JTBが開発した「お届けくん」。これは、専用のクライアントソフトを活用した旅行情報の閲覧システムで、利用者ごとに割り振ったID(識別符号)を基に顧客がどんな旅行情報を参照しているかを把握する。顧客の嗜好を識別し個別に旅行情報を提供する仕組みである。潜在顧客を自社の顧客へと引き上げるツールとしてお届けくんに期待をかける。

 日経情報ストラテジー10月号の特集では、JTBをはじめ個人情報保護法という逆境に打ち勝つCRMの突破口を見いだした企業の事例を取り上げる予定である。