日立総合計画研究所・編

 「総合行政ネットワーク(LGWAN:Local Government Wide Area Network)」とは、地方自治体内のネットワークを相互に接続し、地方自治体間のコミュニケーションの円滑化、情報共有を推進することを目的に、高度なセキュリティを確保した行政専用のネットワークです。

 まず、現在の進ちょく状況を確認しておきましょう。日本の国としてのIT戦略「e-Japan戦略」の実現に向けた具体的な重点施策を示した「e-Japan重点計画(2001年3月)」の中で、LGWANについてのスケジュールが明示されています。これに従って、2001年10月に都道府県・政令指定都市間のLGWANへの接続が実現しました。現在は、2003年度(2004年3月末)までにすべての市町村が接続することを目指した取り組みが進められています(※)。最終的には全国に現在約3300あるすべての地方自治体がこのネットワークで結ばれることになります。

■LGW-ASPの適用
LGW-ASPの適用
地方自治情報センター「総合行政ネットワークASPガイドライン 第2版」より

 LGWANと霞ヶ関WANの相互接続も2002年4月から開始されています。霞ヶ関WANとは、各府省内のネットワーク(LAN:Local Area Network)を結ぶWAN(Wide Area Network)で、1997年1月から運用が開始されています。LGWANと霞ヶ関WANが相互接続されることで全国の地方自治体と中央の府省を結ぶ行政専用のネットワークが整備されることになります。

提供されるサービスとメリット

 このように整備が進みつつあるLGWANでは、電子メール、電子文書交換、情報掲示板、教育サービス(WBT: Web Based Training)などの基本サービスをセキュアなネットワーク上で利用することができます。

 また、LGWANを通じてアプリケーションなどを地方自治体間で共同利用するASP(Application Service Provider: アプリケーションなどをネットワークを通じて顧客に提供する企業などのこと)の活用も推進される予定です。

 既に行われた「電子自治体推進パイロット事業(2001年度)」でも、LGWANにおけるASPの利用に向けた実証実験が行われました。この実験においては、申請・届出手続きや、公共施設の空き状況の確認・予約受付など複数の手続きに対応可能な汎用受付システムの整備に向けて、ASPの利用について技術面、業務面から検証が行われました。パイロット事業の実証実験報告書では、ASPを利用することによって地方自治体は、従来のように独自にシステムを導入する場合と比べて「保守・運用の管理費用を削減可能であるとの結論を得ることができた」としています。

 LGWANが整備され、こうしたASPサービスの利用が開始されると、

【1】行政事務の効率化(すべての市町村と府省をネットワークで結ぶことで、行政事務の効率化を推進)
【2】重複投資の抑制(個別業務にとらわれない汎用的なネットワークとして構築することで、地方自治体のネットワークへの重複投資の抑制、費用削減)
【3】住民サービスの向上(国と地方自治体が一体化した行政サービスを住民に提供するための基盤として活用)
 
 などのメリットがあるとされています。なお、現在この汎用受付システムのASPに関しては、(1)各都道府県主導または市町村協議会を中心に市町村業務システムを共同利用する取り組みと、(2)決算統計業務など国主導でASPサービスを構築する取り組みが進められていますが、いずれも2004年度以降稼動開始の予定です。

 このように、電子政府の重要な基盤として、LGWANの完成が近づいています。一方で、小規模市町村にとって、地方自治体内ネットワーク整備費用やそれをLGWANに接続する際に生じる費用などの負担が重いことや、将来的にLGWANでどの程度の情報量をやり取りするのか見通しが明らかでないといった問題も指摘されています。LGWANに期待されるメリットをいかに発揮させていくかが今後の課題といえるでしょう。

 『日経コミュニケーション』誌によるアンケート調査(2002年11月18日号掲載)によると、LGWANにすでに接続している市町村は2.6%。2002年度までに接続するとした市町村は14.2%、2003年度までに接続すると回答した市区町村は62.3%。ただし、「2004年度以降に接続」「予定なし」とした自治体もあった。同誌では、関係者への取材などから「本当に残りの市区町村が期限内に接続できるかといえば、疑問符を付けざるを得ない」としている。