日立総合計画研究所・編

 従来のアナログ電話回線やISDN(Integrated Services Digital Network:総合デジタル通信網)などによる低速通信を「ナローバンド」と呼ぶのに対して、1秒間に数百キロビット以上(おおむね350kbps以上)でデータを送受信できる高速・大容量の通信回線のことを「ブロードバンド」と呼びます。具体的には、光ファイバー、CATV(ケーブルテレビ)、ADSL(非対称デジタル加入線)などの有線通信や、FWA(Fixed Wireless Access:加入者系無線アクセス)、IMT-2000(International Mobile Telecommunications 2000)などの無線通信がブロードバンドにあたります。

 政府は2001年に発表したe-Japan戦略の中で、「世界最高水準の高度情報通信ネットワークの形成」を重点分野の一つとして掲げ、2005年度までに1000万世帯が超高速インターネットアクセス網(光ファイバー)に、3000万世帯が高速インターネットアクセス網(ADSLおよびCATV)に低廉な料金で常時接続できる環境を整備するという目標を打ち出しています。

 総務省の調べによると、加入可能数では2002年6月時点で上記の目標を達成しており、実際の加入者数も2003年4月時点で、光ファイバーが35万件(前月比13.6%増)、ADSL加入者が約748万(前月比6.5%増)、CATVが約214万件(前月比3.2%増)と着実な伸びを続けています。特にADSLに関しては、NTT東日本/西日本やYahoo!BBなど、事業者間で顧客獲得競争が過熱しており、その結果、通信料金も国際的に低い水準を達成しています。また、当初は利用料金が高いため伸び悩んでいた光ファイバーも、プロバイダー各社が接続料金を値下げしたこともあって徐々に普及の兆しが見えています。


地方への普及と、魅力あるサービス提供が課題

 このようにブロードバンドの普及が進展する中で、大きくは次の2つの課題が浮上しています。

 まず第一に、地方にどのようにブロードバンドを普及させるかという問題があります。既に大都市圏では、民間事業者によるブロードバンド回線の敷設がほぼ完了していますが、離島や山岳地帯などの過疎地では光ファイバーを敷設しても採算をとることが難しく、民間事業者による環境整備が遅れ、ネットワークの地域間格差が生じているのが現状です。

 そこで、岡山市(地域情報水道構想)、岐阜県(情報スーパーハイウェイ)、三重県(志摩サイバーベースプロジェクト)など、高速ネットワークの整備に積極的に取り組んでいる地方自治体が出てきました。総務省も「地域公共ネットワーク基盤整備事業」、「地域インターネット導入促進事業」などの事業を推進して、地方自治体によるブロードバンド整備を支援しています。

 第二に、インフラ整備が進展しても、それが十分に利用されていないという問題があります。ブロードバンドでは大容量の音声・映像データが簡単にネットワークでやり取りできるようになり、ストリーミングによる映像のリアルタイム配信も可能となります。しかし、現時点でブロードバンドが必要となるようなサービスは少なく、一部の地方自治体では、議会のウェブ中継などを実施しているものの、それも利用促進の決め手となるサービスとはなっていません(参考:So-netによる議会のウェブ中継リンク集)。ブロードバンドが利用できる環境が整備されたとしても、それを活かしたサービスが少ないため、利用者はメリットを実感できないのが現状です。

 こうした事情を踏まえて、国の政策は、インフラ整備から利用促進へと移りつつあります。この6月中にも、IT戦略本部から正式発表される予定である「e-Japan戦略II」では、医療、食、行政サービスなど、生活に近い分野でブロードバンドを利用したサービスの普及を促し、利用者がメリットを享受できるようにしようとしています。今後は、遠隔医療、遠隔教育、防災時における映像情報の活用、映像を通じた行政相談など、様々なサービスの可能性を秘めてはいますが、ブロードバンドの活用はまだ緒に就いたばかりといえるでしょう。