日立総合計画研究所・編

 政府のIT戦略本部は、2003年7月に、「e-Japan戦略II」を発表しました。これは、森政権時代の2001年1月に発表され、我が国の初めてのIT戦略となった「e-Japan戦略」に続く、次期IT戦略として決定されたものです。今後、e-Japan戦略に加えて、e-Japan戦略IIを遂行することによって、e-Japan戦略で掲げられた「5年以内(2005年)に世界最先端のIT国家となる」という大目標を実現するとともに、2006年以降も世界最先端であり続けることを目指すものと位置付けられています。

インフラ整備を推進したe-Japan戦略

 先のe-Japan戦略では「高速インターネットを3000万世帯に、超高速インターネットを1000万世帯に利用可能な環境整備」という目標に象徴されるように、インフラ整備が重点的に進められました。この目標については、ADSLなどのサービスが普及したことで既に達成されたと評価されています。

 電子政府の構築は、e-Japan戦略の重点施策の一つとして取り上げられており、総合行政ネットワーク(LGWAN)認証基盤などインフラ整備や、申請・届出手続きなどの電子化が主要な目標として掲げられ、それに従って取り組みが進められているところです。

e-Japan戦略IIは利活用重視

 一方、新たに決定されたe-Japan戦略IIでは、これまでに整備されつつあるインフラを活用して、国民が便利さを実感できる仕組みを構築することが重視されているのが大きな特徴です。具体的には、「医療」「食」「生活」「中小企業金融」「知」「就労・労働」「行政サービス」の七分野で先導的な取り組みを実施する予定です。 電子政府の取り組みは「行政サービス」分野で取り上げられており、個々の申請・届出手続きを電子化するだけでなく、わかりやすい情報提供のための行政ポータルサイトの構築、できるだけ一回で手続きを完結できるワンストップサービスの実現など、利用者の視点に立って便利な仕組みの実現を目指しています。

 また、「行政サービス」分野では、民間に保存が義務付けられている文書・帳票の電子的保存について検討を進めることも目標の一つに掲げられており、現在、法律等の定めに従って、大量の文書や帳票を紙で保存している民間企業にとって、大幅なコスト削減、業務効率の向上につながるものとして注目を集めています。

 e-Japan戦略IIでは、利用者の視点に立って便利なこれらの仕組みを実現しつつ、重複投資や無駄の排除を進めることが、新たな価値を創造する社会・経済システムへの移行の基盤となる、とされています。

世界的に重視される利用者の視点

 一方、国際的にみれば、これまでの我が国の電子政府についての評価は必ずしも高いとはいえません。例えば、コンサルティング会社のアクセンチュアが毎年発表している世界の電子政府ランキングによれば、2003年は調査対象となった22カ国中、日本は15位となっています。中央省庁が申請・届出手続のほとんどをオンライン化しつつあることなどによって、2002年の17位からやや改善したものの、依然として低い順位にあります。

 この調査では、先進的な電子政府の特徴として「量」から「質」への転換を指摘しています。つまり、先進的な電子政府は、できるだけ多くの行政手続を早期にオンライン化するという「量」の視点よりも、内部の業務プロセスを合理化しながら利用者にどれだけ効果的なサービスを提供できるかという「質」の視点が重視されるべき段階に移行しつつあるという考え方です。一方、これまでのところ日本の電子政府では、国際的に高い評価を受けるような利用者の視点からみて便利なサービスを提供できていない状況でした。

 e-Japan戦略IIは、日本の電子政府もインフラ整備から利用者重視のサービス実現の段階に踏み出したことを明確に打ち出した点で、評価できるものといえましょう。