総務省の情報通信審議会は7月29日,光ファイバとIP技術を利用した地上デジタル放送の再送信を認める答申をまとめた。IPマルチキャストを使った光ファイバなどの通信インフラを「地上波放送と同等のサービスの実現に必要な一定の条件が満たされた場合には,難視聴地域に限らず地上デジタル放送を視聴者まで配信する伝送路として積極的に活用すべき」としている。NHKと日本民間放送連盟(民放連)は8月1日,それぞれ本誌の取材に応じ,いずれも光ファイバやIP放送は“補完的な位置付け”という見解を強調した。

 総務省が,地上デジタル放送の光ファイバによるIP放送を難視聴地域に限定しなかったのは,「通信事業者の投資インセンティブが働かなくなる恐れがあるため」(情報通信審議会の臨時委員を務める村井純慶応義塾大学教授)。2011年に現行の地上アナログ放送が停波するまで6年しか残されていないため,あらゆる選択肢を提供することで地上デジタル放送への完全切り替えを成し遂げる強い決意がうかがえる。

 総務省によると,IPインフラを利用した地上デジタル放送は,2008年中に全国で開始する予定。2006年からは,難視聴解消の効果を検証するために,まずは地上デジタルの品質ではなく現状のアナログ放送と同じ品質でIP放送を開始するという。

 そのため,(1)IPマルチキャストを使った放送の著作権法上の位置付けの明確化,(2)放送対象地域内に送信先を限定する技術的担保,(3)送信される放送の内容や品質の同一性を維持する技術的担保――などの実現に向け,政府が環境を整備する。

 NHKは「基本的には地上デジタル放送用の中継局を作って電波を利用する方針。どうしても2011年までに整備が間に合わない場合は過渡的に光ファイバや衛星を使う可能性はある」という。

 民放連は,「地上デジタル放送への全面移行に向け,民放事業者は中継局の建設を積極的に進めるとともに,IP伝送や衛星などの補完的な利用を視野に入れつつ,関係者と早急に検討を進めていきたい」としている。

(宗像 誠之=日経コミュニケーション