京セラは6月2日,次世代無線ブロードバンド規格「iBurst」の公開実験を行った(写真)。実験では,21台のパソコンによるファイルのダウンロードとストリーミング動画再生,VoIP(voice over IP)による音声通信などを実施した。実験は6月2日から3日に開催された「iBurstフォーラム」の会場内で実施した。

 iBurstとは,TDMA/TDD方式の無線ブロードバンド規格。下り最大1Mビット/秒のデータ通信が可能だ。基地局の通信容量は24.4Mビット/秒のため,理論上は24ユーザーが同時接続しても通信速度が落ちない。実験では21台のパソコンで同時にファイルをダウンロードしたが,平均987kビット/秒の通信速度を確保できた。また700kビット/秒のストリーミング動画もなめらかに表示された。

 VoIPによる音声通信では,同時接続した別の端末で大容量のデータをダウンロードする環境を再現。こうした高負荷環境でも,音質は劣化しなかった。音声専用のプロトコルとして,音声パケットを優先するQoS(quality of service)制御と再送制御を効率化する仕組みを実装したためだ。現時点では試験レベルだが今後さらなる高度化を進める。「年内には商用サービスで十分利用できるレベルにする」(通信システム機器統括事業部ワイヤレスブロードバンド事業部の小山克志第1技術部責任者)。

 ライバルと目されるのは,第3世代携帯電話(3G)やインテルなどが推進する無線ブロードバンド規格「WiMAX」。3Gより「iBurstの方がシステム・コストが安価」(通信システム機器統括事業部の五十里誠ワイヤレスブロードバンド事業部長)。3Gでは,音声は回線交換,データはパケット交換で送るのに対し,iBurstでは両方ともパケット交換で送る。端末,基地局,バックボーンすべてIPパケットを処理するだけなので,機器やシステムのコストが安価で済む。

 WiMAXとの比較では,モバイル利用への対応状況で優位とされる。WiMAXで標準化済みなのは,固定用途の「IEEE 802.16-2004」のみ。モバイル用途の「IEEE 802.16e」は現在標準化の作業中だ。商用機器の登場は2006年以降になる可能性が高い。対して,iBurstは当初から時速100km程度の移動環境下での利用を想定して策定された。基地局やモデム,PCカード型端末などは「すぐにでも出荷可能な状況」(五十里ワイヤレスブロードバンド事業部長)。さらに「携帯電話型端末も計画中」(小山ワイヤレスブロードバンド事業部第1技術部責任者)である。“IP携帯電話”を実現するモバイル対応機器の準備では,iBurstの方が一歩先を行く。

 ただし国内での商用化にはメドが立っていない。周波数が割り当てられていないうえ,iBurstを利用したサービス提供を表明した事業者すらいない。そのため京セラは,国内の通信事業者などににiBurstの売り込み攻勢をかける。「固定事業者や携帯電話事業者,プロバイダなどと話をしている」(五十里ワイヤレスブロードバンド事業部長)。