英BTが2004年6月に発表した固定電話網のIP化計画「21st Century Network Program(21世紀ネットワーク計画)」は世界各国の通信業界に驚きを与えた。今年4月28日には,調達をかけるベンダー8社を発表した。選定したのは,仏アルカテル,スウェーデンのエリクソン,米シエナ,米シスコシステムズ,独シーメンス,中国のファーウェイ・テクノロジーズ,富士通,米ルーセント・テクノロジーズの8社である。BTの今回の発表は,同様に固定電話網のIP化計画を発表済みのKDDIやNTT持ち株会社には見えていない具体的な動きだ。そこで,BTグループ・テクノロジー&イノベーション副社長のヨン・キム氏に,調達計画の進展など最新の状況を聞いた。(聞き手は山根 小雪=日経コミュニケーション)
BTの電話網IP化は着々進行,「財務面が上向きの今やるしかない」
--どうやって8社を選定したのか。
2年間にわたって世界各国の通信機器メーカー約300社の製品を検討し,その中から製品のライフタイム・コスト,性能,製品の供給時期などを総合的に判断して決定した。現在,契約を締結している最中だ。
当社からの要求としては,オープン・スタンダードであること。標準に準拠した製品でなければ相互接続性が担保できない。だが,すべての技術の標準化が完了するのを待っていると手遅れになってしまう。採用を決めたメーカー各社には,今後決定する標準に準拠することをコミットしてもらっている。
--発表した8社は確定なのか。
8社の製品しか使わないと言っているわけではない。契約を締結する企業の配下には,複数のメーカーがぶら下がる格好になる。各社とそれぞれ契約を結ぶと契約の締結作業だけでも膨大になってしまうため,今回のやり方を取った。また,近々もう1社追加する予定だ。
--英国の交換機メーカー,マルコーニ・コミュニケーションズが含まれていないことは驚きを感じた。マルコーニは日本でいうとNECや日立製作所に当たる企業である。
同様の質問をよくされる。だが,過去のつき合いでメーカーを決めるわけではない。多方面から検討した結果,導き出した結論だ。
英国の雇用面で考えれば,今回の調達は英国内に約8000もの新しいポジションを生み出す。雇用機会を大幅に増やす一端を担っているわけだ。具体的には半分がBT社内での人員の追加や異動,もう半分は調達メーカーでの人員追加だ。例えばファーウエイは中国企業だが,英国内での雇用が発生することになる。
--国内の通信産業を育成しないのか。
自動車産業を例に,当社の考えを説明したい。1970年代,英国内にローバーなど多くの自動車メーカーが存在した。だが今はない。それでも各国の自動車産業は英国内に拠点を構え,デザインなどで多くの雇用が発生している。当社が選択したグローバル・アウトソーシングは,自動車業界の選択を同じだ。現在では,世界的なトレンドになっている。
--同様の発表をしたNTT持ち株会社やKDDIは,調達にかかわる具体的な話を公表していない。なぜこれほど急ぐのか。
当社の試算では,固定電話網のIP化は早くやればやるだけ,コスト削減効果が大きい。また,当社の財務状況は厳しい状況から上向いてきたところ。2004年のグループの決算は,売上高は2%増の48億7000万ポンド。また,フリー・キャッシュ・フローが前年比10%増の22億8200万ポンドにまで改善した。新規のネットワーク投資は,今このタイミングを逃すわけにはいかない。