総務省は5月23日,電力線通信(PLC:power line communication)の実用化を目指す「高速電力線搬送通信に関する研究会」の第5回会合を開催した。高速電力線通信では,2M~30MHzの高周波数帯を利用する。この周波数帯はアマチュア無線や短波放送など他の無線が利用しているため,干渉問題が懸念されている。

 前回の会合では,座長を務める東北大学電気通信研究所の杉浦行教授が,電力線から漏れ出す電磁波の影響を受けるアマチュア無線や電波天文,短波放送など各無線通信への許容値として,「高速電力線通信推進協議会(PLC-J)案とCISPR案のどちらが適しているか意見を提出して欲しい」との宿題を出していた。今回は,これに対して各構成員から意見が出された。CISPRは,国際的に漏えい電磁波の測定方法と許容値を規定する団体である。

 有識者やメーカー,業界団体からは,細かい議論は残されているもののPLC-J案,CISPR案のいずれかに同意するという意見が大勢を占めた。これはPLC-J案とCISPR案は許容値の数値こそ異なるが,基本とする考え方は類似しているためである。

 一方で,アマチュア無線連盟や短波放送を提供する日経ラジオ社など,電力線通信の実用化に懸念を抱く構成員は,「PLC-J案,CISPR案とも許容できない。ITU-Rで提案されているクワイエット・ルーラル(静かな田園地域)でのノイズ・レベルを基準にしてほしい」と反論した。

 この意見に対して杉浦座長は,「既に一般家庭では,パソコン,電子レンジ,蛍光灯など,ありとあらゆる電化製品がノイズを出している。このノイズは屋内の電灯線を通って家中を回っている。PLCから漏れるノイズだけを区別して,許容値を余計に厳しくする理由はあるのか」との見解を述べた。また「私自身は電力線通信の規制を緩和しようと思っているわけではないが,許容値を(必要以上に)厳しくする理由も見当たらない」と,自らのスタンスを明らかにした。

 さらに杉浦座長は,許容値の考え方について「実績のある許容値を採用するのが安全なのではないか」と提案。家電製品などを製造するメーカーがCISPR基準値を遵守してきた実績を示唆した。

(山根 小雪=日経コミュニケーション