総務省の諮問委員会である「緊急通報機能等高度化委員会」は3月30日,IP電話から警察(110番)や消防(119番)などへの緊急通報を実現するための技術条件「IPネットワークにおける緊急通報等重要通信の確保方策」を総務省に対して回答した。IP電話からの緊急通報を実現する際に通信事業者などに求められる技術条件を取りまとめたもので,今後この内容に基づいて緊急通報のインフラが整備されていくことになる。

 緊急通報のために加入電話に求められていた要件は主に以下の五つ。(1)通報者の住所から,その管轄区域の緊急通報機関に接続する,(2)通報者から通話を終了できないようにすると同時に,緊急通報機関から通報者を呼び出すことができるようにする,(3)通報者の電話番号や位置情報を緊急通報機関に通知する,(4)網内が混雑している場合も優先的に通話できる,(5)発信者のなりすましができない――などだ。

 IP電話に求められる要件も基本的に上記と同じ。通信事業者と緊急通報機関などが協議した上で同様な仕組みを構築することになる。例えば(1)は,通信事業者側で加入者情報と接続先情報のデータベースを用意し,発信者電話番号から住所を割り出し,管轄区域の緊急通報機関に呼をつなぐ,といった具合だ。(2)や(4)に関しては,加入電話と同等の対応が難しいため,代替機能によって対処する。

 ただし,上記の仕組みを実現するための敷居は高い。例えば,(4)の優先取り扱いはDiff-serv(differentiated services)やInt-serv(integrated services)などによる帯域の優先制御を行わなければならない。(5)のなりすまし対策も,IPアドレスやMACアドレスでIP電話端末を識別し,VLAN(virtual LAN)IDやルーターのポート番号などネットワーク上の位置と照合する仕組みが必要。通信事業者にとっては膨大なコストと手間がかかる。

 総務省は,今回報告された内容を「緊急通報を実現する際に関係者間で調整してもらうための基準のようなものであり,強制的なものではない」(総合通信基盤局 電気通信事業部の金谷学・電気通信技術システム課長)と位置付ける。報告書にも,「実現できない場合は設備の改修に合わせて導入を進めることとする」といった説明が含まれる。また「具体的な技術方式に関しては,今後標準化を含めて情報通信技術委員会(TTC)などで議論していく必要がある」(同氏)としており,実現にはもうしばらく時間がかかりそうだ。