NTTは12月1日から,無線LANなどの通信速度を2倍以上にする「MIMO」(multi input multi output)技術のフィールド実験を開始する。2005年3月31日まで実験し,電波の届く距離や通信速度など伝送特性のデータを収集して今後の事業化に役立てる。

 MIMO技術は,送受信に複数のアンテナを使うことで,占有する周波数帯を拡大せずに通信速度を高速化する技術。原理的には送受信アンテナが2本ならば通信速度が2倍,3本ならば3倍となる。最大500Mビット/秒の通信速度を実現する次世代無線LAN規格「IEEE 802.11n」での採用が有力視されている。無線LANの高速化だけでなく,携帯電話やユーザー宅と通信事業者を結ぶ無線アクセス・システムであるFWA(fixed wireless access)などへの適用も可能だ。

 今回の実験は,神奈川県横須賀市役所周辺やNTTの研究所がある横須賀リサーチパークなどで実施。会議室やオフィスなど屋内のほか,駅や店舗などでの利用を想定した屋外での伝送実験などを予定している。NTTは今回の実験で使う5.07G~5.09GHzの20MHzについて,実験免許を取得した。MIMO技術のフィールド実験免許を取得したのは日本初である。

2年後には商用化レベルに達する

 実験に利用する機器は,108Mビット/秒で通信可能なNTTによる試作機。無線LAN規格「IEEE 802.11a」の技術を流用している。OFDM(orthogonal frequency division multiplexing)で変調した54Mビット/秒の信号二つを,それぞれ2本のアンテナで送信。受信側は2本のアンテナで二つの送信信号が混合した信号を受信し,MIMO技術により元の二つの送信信号に復元する。つまりIEEE 802.11a規格と同じ周波数帯域で,2倍のデータ量をやり取りしているわけだ。

 商用化については,「2年後くらいには技術的に可能になるだろう」(NTT未来ねっと研究所の梅比良正弘ワイヤレスシステムイノベーション研究部部長=写真)とした。ただし現時点では,NTTとしての具体的な事業化予定はない。「無線通信全般に幅広く活用できる基礎技術として開発を進める」(同)。