「Bフレッツが100Mビット/秒を共用するのに対して,我々が共用するのは1Gビット/秒。実効速度はBフレッツなら約30Mビット/秒しか出ないが,我々は95Mビット/秒も出た」(ソフトバンクの孫正義社長)。「Yahoo! BB 光」の発表会場で,孫社長は東西NTTのFTTH(fiber to the home)サービス「Bフレッツ」を何度も引き合いに出し,自社サービスが高速だと強調した。発表翌日から始めた宣伝活動でも,ソフトバンクは「ギガ・ビービー」と高速性をアピールしている。

 Yahoo! BB 光が登場する前から,Bフレッツは実効速度で分が悪かった。首都圏でFTTHサービス「TEPCOひかり」を提供する東京電力は,1ユーザーで100Mビット/秒の光ファイバ回線を占有する形態の自社サービスが速いと宣伝。これは,共用型で提供するNTT東日本の「Bフレッツ ニューファミリータイプ」を強く意識したものだ。東京電力の戦略は,「新規加入ユーザーの多くが占有型を評価している。加入も伸びてきた」(東京電力光ネットワーク・カンパニーの田代哲彦ジェネラルマネージャー)と効果が出ているようだ。

東西NTTも新技術「GE-PON」対応サービス

 このままではソフトバンクBBや東京電力など競合たちの宣伝効果で,「Bフレッツは遅い」という悪いレッテルが付いてしまう。東西NTTはFTTHで5割超のシェアを持つ“一人勝ち”状態だが,何の対策もしなければ他社にユーザーを奪われてしまう。危機感を持ち始めた東西NTTは,対抗策として新しいFTTH技術を使う新サービスの準備を始めた。10月13日には,新サービス開始に向けて,他の事業者向けの設備貸し料金を総務省に認可申請した。

 NTT東日本の幹部は,「ソフトバンクにBフレッツは遅いと言われており,早く高速サービスを開始しなくてはならない」と意気込む。東西NTTともに9月上旬には,対応メニューを用意するインターネット接続事業者(プロバイダ)向けに,新サービスの説明を終えた。

 東西NTTが使うのは,「GE-PON」(gigabit Ethernet passive optical network)と呼ぶ新技術。ソフトバンクBBがYahoo! BB 光で採用したのと同じ,光ファイバを複数ユーザーで共用する方式である。1Gビット/秒の帯域を最大32ユーザーでシェアする。

東西で新メニューが違うのは本気で対抗する証?

 東西NTTのGE-PON対応サービスで特筆すべきは,東西で新サービスの位置付けが大きく違うことだ。東西NTTはこれまで,ユーザーの混乱を避けるためになるべくサービス内容を合わせてきた。しかし今回ばかりは,東西NTTがそれぞれ異なるサービスを出す。

 NTT東日本のGE-PONメニューの位置付けは,戸建て向けのBフレッツ ニューファミリータイプの後継サービス。ニューファミリーで利用してきた100Mビット/秒を共用するFTTH機器は,新規導入しない考えだ。

 一方NTT西日本は,新構築した中継網とGE-PONを組み合わせて,Bフレッツとは全く別の高品質サービスとして開始する方針だ。GE-PONには,ユーザーごとに最低帯域を保証したり,アプリケーションごとに優先制御を実施するといった機能がある。さらに,NTT西日本は優先制御機能などを搭載した中継網を構築中。二つを合わせれば,高品質なFTTHサービスを実現できる。

 さらに,セキュリティ機能を持った専用ルーターを配布する模様だ。新メニューについて説明を受けたあるプロバイダは,「NTT西日本の新メニューでは,FTTHならではの高品質性を出してきた。ようやくFTTHに本気になったと感じた」と言う。

開発で先行してもサービス開始で先を越される

 ただし,東西NTTがGE-PONサービスを開始するのは12月ころになりそうだ。10月5日にサービスを開始したYahoo! BB 光に比べて,大きく出遅れるのは避けられない。東西NTTの関係者は,「GE-PONへの取り組みは,ソフトバンクよりNTTの方が早かった。それなのに,ソフトバンクBBに先を越された」と悔しがる。

 確かに,NTTの研究所は2年以上前から,GE-PON技術の開発に取り組んできた。GE-PONを標準化したIEEE(米国電気電子技術者協会)にも研究者が出席。2004年初頭から,通信機器メーカーにGE-PON機器の調達に向けて提案を募っていた。それでも,サービス開始はソフトバンクBBに後れを取った。

 GE-PONサービスだけでなく,東西NTTはFTTH関連サービスで後追いとなることが多い。「050」番号を使うIP電話サービスでは,ソフトバンクBBの「BBフォン」に圧倒的なリードを許した後に開始。「03」など既存の番号「0AB~J」番号に対応するIP電話はKDDIに先行された。IP放送やビデオ・オン・デマンドも,KDDIやソフトバンク・グループの方が,NTTグループより先に提供してきた。

 なぜ,東西NTTは他社に先行を許してしまうのか。

 理由の一つは,東西NTTにはソフトバンクBBやKDDIよりも制約があることだ。サービス向けに機器を購入する際は,調達の提案募集が必要になるため,機器準備に数カ月は時間がかかる。

 さらに,東西NTTが新しいFTTHサービスを提供する際は,他社が同じ設備を使ってサービスを提供できるように,サービス条件などまとめた「接続約款」を総務省に認可申請しなければならない。認可申請から認可が出るまでには,通常2カ月程度かかる。東西NTTは10月13日にGE-PONサービスに向けた接続約款を申請したが,認可が出てサービスを開始するのは12月になる計算だ。

 さらに,「新サービスを出す際は,社内調整などに時間がかかる」(NTT東日本の幹部)という事情もある。一方,ソフトバンクBBはサービス化までの時間が短い。例えば,ソフトバンクBBが11月に提供する無線LAN付きのテレビ・チューナー端末「無線TVBOX」は,発表からたった1カ月前に孫社長の判断で,急きょYahoo! BB 光と合わせて提供することが決まった。構想から1年程度,機器設計を初めてから半年程度でサービスにこぎ着けた。東西NTTには,これだけのスピードはない。

ソフトバンク参入でエリアの優位性がゆらぐ

 他社の新サービスを後追いすることが多くても,東西NTTはFTTHで大きなシェアを維持してきた。総務省の調査によると,2003年9月時点で集合住宅向けでは,営業力に定評があるUSENが23.7%と健闘する。それでも,東西NTTが23.8%と1位の座を譲らなかった。戸建て向けFTTHサービスではUSENの提供エリアが狭いため,競合は電力グループだけとなる。こうなると,東西NTTが81.8%とダントツのシェアを持つ。電力グループは15.5%にとどまった。

 東西NTTの一人勝ちの背景には,電力グループもFTTHサービスを提供していないエリアでの高いシェアがある。戸建てと集合住宅を合わせると,東西NTTは8割超のシェアを持つ。ところが,ソフトバンクBBのYahoo! BB 光が始まれば,状況は一変する。Yahoo! BB 光のエリアは,全国規模で提供するBフレッツとほぼ同じになるからだ。

 8割超のシェアを抱えていた一人勝ちエリアでも,シェアを維持するのは難しい。実際近畿エリアでは,ケイ・オプティコムが格安FTTHをほぼ全域で提供するため,NTTグループのシェアは5割を切っている。東西NTTが他社サービスの後追いばかりで独自性を打ち出せなければ,高いシェアを維持できなくなる可能性は高い。

(中川 ヒロミ=日経コミュニケーション