製品の価格情報や製品に関する消費者の口コミ情報が充実している「価格.com」。月間約650万人が訪れる人気サイトだが,このサイトが悪意のある第3者による不正アクセスが原因で5月14日に閉鎖を余儀なくされるという事態が発生した(関連記事)。

 サイトに不正アクセスしてサーバーのプログラムを勝手に書き換え,サイトを訪れたユーザーにウイルスを送り付けるよう細工するなどという行為は言語道断で,到底許されるものではない。今回の事件に関しては,サイト運営会社のカカクコムは被害者である。

 とはいえ,今回カカクコムが取った対処にはちょっと首をかしげざるを得ない。同社がサイトのプログラム改ざんに気付いたのは5月11日。さらに,その時点でサイトの閲覧によりウイルスに感染したという報告を一部のユーザーから受けていた。にもかかわらず,サイトの閉鎖を決めたのは14日になってからである。結局,約3日間はアクセスしてきたユーザーにウイルスを送り付けてしまう危険性を残したままにしてしまった。

 これに関して同社の穐田誉輝社長は,「11日時点でサイトの閉鎖も検討したが,侵入経路が突き止められていなかった(ので閉鎖は見送った)」とコメントしている(関連記事)。筆者は,このコメントに大きな違和感を感じた。侵入経路が判明しているので安全だと思って閉鎖しなかったのなら話は分かる。侵入経路が判明していないのなら,なおさら被害拡大を食い止めるために閉鎖するのが普通ではないかと思うのだ。

 同社が11日時点でサイト閉鎖を選択しなかった理由には,大きく三つあると思われる。一つは11日時点でウイルス自体が確認されていなかったこと。同社が導入していたウイルス対策ソフトでは,ウイルスを検知できなかった。二つめは,犯人を特定するために,サイト運営を続けるよう警察に指示されたフシがあることだ。

 そして三つめは,サイト閉鎖が価格.comに登録している小売店に与える影響が大きいことである。価格.comには約800社の小売店が情報を掲載しており,カカクコムはその小売店の登録料などを主な収入源にしている。小売店のなかには知名度があまり高くなく,小売店の販売サイトへの集客を価格.comからのリンクに頼っているところも多い。サイト閉鎖は,そうした小売店に多大な影響を与えるのである。

 ウイルスの存在も確認できていないし,登録小売店のことを考えると11日時点ではサイト閉鎖に踏み切れなかった,というのが実情だろう。

 だがよく考えると,登録小売店の商品を買う顧客は価格.comを訪れるユーザーである。価格.comは,製品の価格情報が充実していることに加えて,サイトを訪れるユーザーが書き込む口コミ情報が豊富である。この口コミ情報が,さらにサイト訪問者を呼ぶという好循環を生み,ひいては登録した小売店の売上増につながる。しかしサイトの信頼性が失われてしまえば,サイトを訪問するユーザーが減り,こうした好循環も失われる。

 カカクコムにとって直接の顧客は小売店だといえる。しかし,本当に考慮すべき“顧客”とはいったい誰だったのかは言うまでもない。穐田社長には酷かもしれないが,筆者はやはり11日時点でサイトを閉鎖すべきだったと考える。

 現在カカクコムは,被害に遭ったシステムを一新してサイトの復旧に取り組んでいる。今のところサイトの再開は5月23日の予定だ。私事で恐縮だが,筆者は従来からこの価格.comを愛用しており,製品選択において同サイトの口コミが非常に役立ったと評価している。そうした良さが失われることのないよう,カカクコムにはユーザーの信頼回復にさらなる努力を払ってほしいと願っている。

(安井 晴海=日経コミュニケーション 副編集長)