KDDI、京セラコミュニケーションシステム、慶応義塾大学、名古屋工業大学は2005年7月8日~11日、愛・地球博(愛知万博)会場で、携帯電話を使ったアドホック通信(マルチホップ通信)の実証実験を公開した。アドホック通信は、端末同士が基地局や中継局などに依存せずにデータを直接やりとりするもの。震災時など、通信インフラが機能しなくなった際の通信手段として期待されているほか、自動車間通信や家庭内のセンサー・ネットワークを実現する手段としても注目を集めている。

 携帯情報端末「愛・MATE」百数十台を使ったIP電話システムを構築した。第3世代携帯電話(CDMA 1X)と無線LAN(IEEE802.11b)の2種類の通信機能を端末に内蔵し、電波状態に応じて、2種類の通信網をシームレスに切り換えながら利用した。音声通話にも、既存の回線交換方式ではなく、携帯電話のパケット通信と無線LANを組み合わせて使った。京セラコミュニケーションシステム経営企画室研究部IT応用研究課の宮広栄一氏は、「携帯電話網のパケット通信と無線LANを切り換えながら音声通話する実験は国内で初めて。屋外では無線LANの感度のコントロールが難しい。通話を途切れさせず、リアルタイムで通信網を切り換えるのに苦労した」と話す。

 携帯情報端末同士が無線LANを利用して自由に通信を行い、独立したアドホックネットワークを形成するようになると、携帯電話キャリアなどの通信会社が通信内容を管理することが難しくなり、ひいては通信料金の徴収が困難になる。そこで、今回の実験では、無線LANにより通信を行っている間は、携帯情報端末がトラフィック(通信相手の情報やデータの流れ)を携帯電話の基地局代わりに監視し、その内容を携帯電話の通信機能を用いてセンターに通知するしくみを採用した。「映像や音声など大容量のデータ通信は無線LANを使って行い、携帯電話網がこの流れを制御・管理するというビジネスモデルを考えている」と、KDDI愛知プロジェクト室の藤田徹・業務企画グループリーダーは話す。

 今回の実験ではこのほか、アドホック通信を使った端末同士の情報交換を実施した。GPS機能を搭載した愛・MATEを用い、「ある地点に到着したユーザーに対し、近くの別なユーザーが画像を自動的に配信する」といった使い方を実現した。同システムを開発した、慶応義塾大学村井純研究室の石田剛朗氏は、「街なかに『ここのオムライスはおいしいよ』という情報を残すなど、口コミ型の情報サービスに利用できる」と説明している。このほか、愛・MATEを電子的な地域通貨として用いる「野菜交換ゲーム」や、アドホック通信のネットワーク内で、無線LANの電波強度から端末の位置情報を測定する「トレジャーハンティング」などを行った。実験は延べ4日間にわたり、数百人のボランティアを動員して行った。

本間 純=日経コンピュータ