日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)は5月27日、「調停・和解事例から見たシステム開発契約をめぐる紛争の実態と紛争未然回避の教訓」と題するセミナーを開催した。

 講師は同協会の情報システムコンサルタントで、東京地方裁判所で民事調停委員を務める保科好信氏。実際に自らが調停にかかわった紛争事例を例に、コンピュータ紛争で起こりがちな対立と、それを未然に防ぐ方策について説明した。会場は一部上場企業などの情報システム部門や法務部門の担当者で埋まり、保科氏の話を熱心に聞き入っていた。

 保科氏は「コンピュータ紛争の三大原因は納期遅れ、品質不良、契約の不備」と説明し、多くの紛争事例でこの3つの原因が密接に絡み合い、解決を困難にしているとした。社長や役員同士での口頭での約束で開発をはじめてしまい、あとでトラブルにつながったケースや、多数の仕様変更を安易に受け入れたことで納期が大幅に遅れ、契約解除につながったケース、あいまいな雇用契約のせいで派遣スタッフとトラブルが起こったケースなどを例に挙げた。

 紛争を未然に避ける方策として保科氏はまず、契約書の重要性を再確認することを挙げた。開発しようとするシステムに見合った契約方式であること、要件が明確なこと、仕様変更への対処方法、テスト方法、検収時に満たすべき項目、代金の支払い方法など、あらゆる点を考慮して、自社になるべく有利な内容の契約を、適切なタイミングで結ぶべきとした。当然、契約時には発注側と受注側でもめることになるが「そこできちんと決めないと、のちのち紛争の火種になる」(保科氏)。

 保科氏がもう一つ協調したのは文書管理の重要性である。打ち合わせの議事録をきちんとした形で作り、残しておけば紛争になったときに、言い分を補完する証拠になる。やり取りした電子メールも残っていればよい証拠になるという。

 講演の最後には保科氏に活発な質問が飛んだ。裁判や調停の決着が着くまでに必要な期間や、証拠として採用されやすい議事録の作り方、契約書の作り方の工夫など、具体的なアドバイスを求める質問が多く、出席者の多くがこうした問題を身近に感じている事実をうかがわせた。

 これらに対し保科氏は「調停成立までの平均期間は12カ月くらいだが、本当はもっと短くできるはず。短くならないのは弁護士さんのスケジュールが1カ月単位で決まっているせい」などと、ユーモアを交えながら答えていた。

山田 剛良=日経コンピュータ