ICタグを使って給食用食材の履歴を管理する実験が始まる。学校給食や企業の食堂運営を手がける給食事業の業界団体「日本給食サービス協会」は2月16日からの2週間、料理に使った食材の生産者や収穫日時を、消費者が食事の前後に調べられる仕組みがICタグによって実現可能かどうか確かめる。BSE(牛海綿状脳症)や鳥インフルエンザの発生により、食の安全に対する消費者の要求は日増しに高まっている。同協会の深谷徹専務理事は「今回の実験を皮切りに、全国規模のトレーサビリティ・システムを一刻も早く構築し、安心して食事ができる環境を整備したい」と意気込みを語る。
実験には、日本給食サービス協会の会員で給食事業者大手のグリーンハウス、仲卸業者の菊池商事、千葉県の農業組合である北総農業センター、および数件の野菜農家が参加する。ICタグを活用した図書館向けの蔵書管理システムで実績がある内田洋行がシステム構築を手がけ、農林水産省が実験資金を補助する。
ミニ・トマトやキュウリなど4種類の給食用食材を対象に実験する。農家は収穫した野菜を北総農業センターに出荷する際、「生産者名」や「商品名」などをあらかじめ記録したICタグと、「収穫日時」を記載した伝票を一緒に届ける。北総農業センターでは担当者が、リーダー/ライターでICタグの情報をパソコンに取り込む。併せて、収穫日時をキーボードから登録する。
次に仲卸業者の菊池商事に出荷する。その際、リーダー/ライターを使って、「生産者」や「収穫日時」、「入出荷日時」などパソコンに格納してある情報を別のICタグにを書き込み、一つひとつの段ボール箱に取り付ける。
菊池商事は野菜を受け取ると、リーダー/ライターで段ボール箱に付いているICタグの情報を読み取る。その後、届いた野菜を段ボール箱からいったん取り出す。「ミニ・トマト3ケース、キュウリ20本」といった具合に配送先の注文に応じて仕分けをし、プラスチック製のコンテナに詰め替える。このとき、ミニ・トマトやキュウリの段ボール箱に付いているICタグをリーダー/ライターで読み取り、情報をまとめて別の新しいICタグに書き込む。内田洋行の中家良夫情報システム事業部営業推進部食品トレーサビリティ推進マネージャーは、「複数の流通経路で届いた商品を混載して配送する状況を想定したICタグのトレーサビリティ実験は珍しい」という。
菊池商事は、グリーンハウスが運営する食堂への出荷する時、新しく作成したICタグに「入出荷日時」を追加してコンテナに取り付ける。グリーンハウスの担当者は受け取ったコンテナのICタグをリーダー/ライターで読んで入荷処理を完了する。
一連の過程でICタグに書き込まれた情報は、最終的にグリーンハウスのサーバーで一元管理される。このサーバーには別途、農家の生産者が毎日ノートに記載している農薬散布や、野菜の種類別の栄養成分に関する情報も格納する。消費者は食堂に設置したパソコンを使って、サラダに使われた野菜の生産者や収穫日、栄養成分などを自由に確認できる。
日本給食サービス協会の実験以外にも、ICタグを活用して、食の安全に対する消費者のニーズに応えようとする動きが活発になっている。今月8日には、よこすか葉山農業協同組合や京急ストアが類似した実験を始めている。