京急ストアにおけるICタグ実験の様子 ユビキタス・コンピューティングの研究を進めるT-Engineフォーラムは1月8日、ICタグを使った野菜のトレーサビリティ実験を開始した。ICタグに格納してあるIDを基に、野菜の生産段階から店舗で販売するまでに発生した情報を一元管理するシステムを整備。生産者である農家や店舗における情報登録などの作業の手間や、システム導入コストに関する基礎データを収集する。T-Engineフォーラムの代表を務める東京大学の坂村健教授は、「物流の効率化を狙ったICタグの実験はあるが、産地から店舗まで一貫したトレーサビリティの実験は世界的に見ても初めて」と語る。

 今回の実験では、キャベツと大根にICタグを取り付ける(写真)。具体的には、農家で収穫した野菜を輸送する際に使う段ボール箱と、店舗での販売時に一つひとつ小分けする袋にICタグを付ける。農家で利用する農薬のボトルにもICタグを付けておく。

 農家の生産者は農薬を散布する際、ICタグの読み取り機能を搭載した携帯情報端末「ユビキタスコミュニケータ」を使って、農薬のボトルに付いたICタグを読み込む。その情報はユビキタスコミュニケータに格納されると同時に、PHS網を経由してT-Engineフォーラムのサーバーに送られ、日付とともにデータベースに登録される。

 出荷時は、収穫した野菜を箱詰めする際に、段ボール箱にあらかじめ付けてあるICタグをユビキタスコミュニケータで読む。これが出荷日としてT-Engineフォーラムのサーバーに登録され、すでに格納してある農薬の散布情報と関連づけて管理される。ユビキタスコミュニケータはユーザー認証機能を備えている。このため農薬散布の情報と生産者の情報を関連づけて、T-Engineフォーラムのデータベースに登録できる。

 さらにユビキタスコミュニケータは、生産者が誤って不適切な農薬を散布することを防ぐ機能を持つ。農薬のなかには、散布回数や時期が制限されているものが多い。例えば、散布回数の制限が2回の農薬があって、すでに2回散布したとする。生産者が勘違いして、もう一度使おうとして当該農薬のボトルのICタグを読むと、ユビキタスコミュニケータは「あなたが選んだ農薬はもう使えません」といった趣旨の警告文を画面に表示する。

 あるキャベツ生産者は、この機能を次のように評価する。「ユビキタスコミュニケータの操作方法を覚える必要があるが、どの農薬を何回使ったかということをコンピュータが覚えていてくれる点は非常に便利。消費者にも安全な食品を食べてもらえる」。

 生産者が箱詰めして出荷したキャベツと大根が店舗に届くと、店舗の担当者は一つずつ袋に詰め替える。このときに、段ボール箱と袋にそれぞれ付けてあるICタグをユビキタスコミュニケータで順番に読み取ることで、両者のICタグを関連づけてサーバーに送る。店頭に設置してある液晶ディスプレイ付きの読み取り装置にキャベツの袋をかざすと、消費者は生産者や農薬散布の情報、出荷日などを確認できる。

 実験に参加しているのは、よこすか葉山農業協同組合に加盟する農家と、京急ストア傘下のスーパーマーケット3店舗。読み取り専用のICタグである日立製作所の「ミューチップ」や、ルネサステクノロジなどによる「eTRONタグ」を合計3万個利用する。実験は2月6日までで、農林水産省が資金援助する。

栗原 雅=日経コンピュータ