動かないコンピュータ・フォーラム 第26回 国産コンピュータ・メーカーのリストラの影響を考える 動かないコンピュータ・フォーラム 主宰者 中村 建助=日経コンピュータ編集 |
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近年、日本の大手コンピュータ・メーカーは相次いで大規模なリストラを敢行した。確かにリストラはメーカーの収益を回復させる効果があるが、ユーザーのシステムを構築するという点ではマイナスの影響をもたらしているのではないだろうか。
今回は国産メーカーのリストラと「動かないコンピュータ」の関係について考えてみたい。
ユーザーと密着して開発してきた
従来、ユーザー企業が国産メーカーと大規模なシステムを開発する場合、国産メーカーは単にハードを提供してきただけではなかった。その企業の業務を理解した上で、ユーザーのシステム部門と協力しながら、システムを開発したケースも多い。こういった場合、ユーザーのシステム部門と一体になって開発を進めてきたのである。
その傍証となるのが、企業のシステム部門のスタッフの数である。日本のユーザー企業のシステム部門のスタッフは、米国のシステム部門に比べてはるかに数が少ない。少ない人数で情報化を進めることができた理由の一つに、国産メーカーとその協力会社が、システム部門を補完する役割を果たしてきたことを否定する人は少ないだろう。
こういった日本流のシステム開発が続くなかで、国産メーカーの中には、長年にわたって特定のユーザー企業や特定の業種のシステム開発にかかわる技術者が出てきた。こういった技術者の中には、キャリアの浅いユーザーのシステム部門のスタッフよりも、ユーザー企業の業務に通じている人間も少なくない。これらの業務に通じた技術者を抱えていることが国産メーカーの強さであり、これらの技術者が大規模システム開発を「動かないコンピュータ」にさせないために大きな役割を果たしてきたといえる。
さらに日本では米国などに比べて、システム構築に関するドキュメントを十分に整備していないユーザー企業も多い。こういった企業でシステムを開発しようとすれば、どうしても既存のシステム開発を経験したスタッフの、属人的なノウハウに頼る部分が大きくならざるを得ない。こうした場合には、ユーザー企業や業種を知るメーカーの技術者の重要性はさらに高まる。
だが、国産メーカーのリストラは、否応なくこういった日本的なシステム開発のあり方を崩してしまう。
現場を支えた人材が減っている
国産メーカーがリストラを進める過程で、少なくないベテラン技術者が会社を去ることになった。スーパーSEや有名プロジェクト・マネジャーと言われる特別な人材は、会社から評価を受けて社内に残っている。だが、過去何年にもわたって、ユーザー企業のシステム開発を支えてきた経験豊かな人材は、急速に現場から姿を消しつつある。
どんなに優秀な人材でも、一人で大規模なシステム開発を成功させることはできない。プロジェクト・マネジャーを補佐するサブ・マネジャーにも優秀な人材をそろえておかなければ、大規模なプロジェクトを破綻なく進めるのは難しい。プロジェクト・マネジャーの手足となる存在が必要なのである。このサブ・マネジャー・クラスの人材の流出が激しいという。
長年にわたって金融業向けのシステム開発にかかわってきたある専門家は、「リストラによってメーカーの人材がいなくなったことが、すでにトラブルにつながっている」と話す。その典型例といえるのが、国産メーカーが進める金融機関向けのパッケージ・ソフトの開発である。2000年前後に国産メーカーは、相次いで複数の金融機関で利用する新世代のバンキング・パッケージを発表し開発を進めてきた。だが開発は難航し、ほとんどが稼働時期の大幅な延期を迫られている。
この専門家によれば、「国産メーカーの金融部隊から、少し前まで金融の業務を支えてきた顔ぶれがいなくなった。替わりにユーザーと仕事を進めているのは、それほど金融業のシステムを熟知していない人物のようだ。もともと金融機関の勘定系の開発は簡単ではない。その上、共同利用するパッケージを開発するとすれば解決すべき問題は増える。こういった時こそ、経験のある技術者が必要なのに、現場には人材が少ない。こういった体制で開発が上手くいく方が不思議だ」という。
さらにリストラが進む可能性も
もちろん、こういった問題を抱えていることは国産メーカーも理解している。ある大手国産メーカーの技術部隊の幹部は、「以前よりもユーザーがシステムに望む機能は複雑になっている。もしリストラによって人材が流出していなかったとしても、こうしたニーズに対応しようとすれば、当然システムの開発は難しくなる。さらにベテランといわれる人材が流出したことで、システム開発が難航しやすくなっている面があるのは否定できない」と打ち明ける。
とはいえ、業績が回復しなければ国産メーカーは、今後もさらなるリストラを実施せざるを得ない。さらに人員削減が進む可能性もある。40歳代以降の業務知識の豊かな技術者が減らない保証はない。
このとき、ユーザー企業はどうやって「動かないコンピュータ」を生み出さないようにすべきなのだろうか。国産メーカーが奮起と自助努力によって、プロジェクトマネジメント力を高めることに期待するしかないのだろうか。それとも、従来のような形でメーカーの協力を得なくても、自力でシステムを開発できる体制を構築すべきなのだろうか。それともまた別の道があるのだろうか。
ここからが本題です。国産メーカーがリストラを進めている時代に、動かないコンピュータを生み出さないためにはどうすればよいのでしょうか。皆さんのご意見をお待ちしています。
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