噂にのぼっていた事業再編について,米AT&Tが米国時間10月25日に正式発表を行った。現在のAT&T社を4分割する。

 すなわち,法人向け通信事業のAT&T Business社,家庭向け通信事業のAT&T Consumer社,広帯域接続事業のAT&T Broadband社,無線通信事業のAT&T Wireless社の4社に分ける。いずれもAT&Tブランドのもとで活動を行う。AT&T社の本体は,AT&T Business社に集約する。分割・再編の手続きの完了は,2002年を予定している。

 現会長兼CEOのC.Michael Armstrong氏(62)が,今後もAT&T社の会長兼CEOとして指揮を執る。AT&T Business社,AT&T Consumer社,AT&T Broadband社のCEOは今後役員会で決定する。

 AT&T Broadband社とAT&T Wireless社は,AT&T Business社から経営を切り離して株式を公開する。AT&T Consumer社はAT&T Business社と資本関係を保ちながら,事実上分離する。AT&T社によれば,この4分割は,大規模な事業再構築計画として,3年ほど前から社内で準備を進めてきたという。ちなみにAT&T社の株価は,年初来47%下落している。

 「この事業再編により,Business社とBroadband社の事業に注力する。データ通信事業およびIP事業の第3四半期売上高は20%を超える伸び率で成長を遂げている。一方で長距離電話事業の売上高は,市場全体での落ち込みが激しい」(Armstrong氏)。

 各社は株価が業績に連動する「トラッキングストック」を発行する。各社の資本/株式などの詳細については年内にも決定する予定。「ただし,4社の配当を合計しても,現在のAT&T社の配当を大幅に下回る見通し」(AT&T社)。AT&T社は,2000年第4四半期中に,株式交換の概要についての計画案を証券取引委員会(SEC)に提出する。

 新会社は,経営面でAT&T Broadband社とAT&T Wireless社を切り離す一方で,事業の提携などで引き続き協力体制を敷く。例えばAT&T Business社は提供するサービスに,AT&T Wireless社の無線サービスを組み込んだり,AT&T Boardband社のケーブル・システムを利用する。また,AT&T Business社は自社のネットワーク・サービスを他の3社に提供する。

 4社の概要は以下の通り。

■AT&T Business社
 AT&T本体を同社に集約する。主に,企業向け通信事業やネットワーク事業に注力する。最近12カ月間の売上高は280億ドルを超えている。AT&TグループのAT&T Network社やAT&T Labsを含む。また,AT&T社は英British Telecommunications(BT)との合弁企業である国際通信事業のConcert社の株式50%を保有しており,AT&T Business社がこれを引き継ぐ。

■AT&T Consumer社
 家庭向け通信事業およびマーケティング事業を手掛ける。現行の家庭向け長距離通信事業と個人ユーザー向けインターネット接続サービスのプロバイダ事業「WorldNet Internet」を引き継ぐ。また,新規事業の拡大として,DSL事業などへの投資も行っていく。

 2001年第3四半期にトラッキングストックを発行し,全株式を現在のAT&T株と交換する予定。ここ1年間の売上高は190億ドル。長距離通信事業では現在6000万世帯を顧客に抱える。また,テキサス州とニューヨーク州では市内通信サービスを開始した。顧客数は現在95万世帯。一方のネット接続のWorldNetサービスの顧客数は130万強。

■AT&T Broadband社
 複数チャンネル・ビデオ・サービス,ペイ・パー・ビュー・サービス,高速インターネット接続サービスおよび通信事業を手掛ける。最近12カ月間の売上高は93億ドル。2001年夏に新規株式公開(IPO)を行う予定。なおAT&T社は米Excite@Homeの主要株主でもあり,これを引き継ぐ。また米TCIや米MediaOneの事業および買収に関する支払いなどをも継承する。

■AT&T Wireless社
 今年中にトラッキングストックを発行,「以来過去2四半期にわたって目標を上回る業績を上げている。ここで経営を切り離すことによって,増資も得やすくなるだろう」(AT&T社)。最近12カ月間の売上高は96億ドル。2001年夏にIPOを行う予定。AT&T株と総額100億ドル以上の株式交換を実施する計画である。

 なお,AT&T社は現在16万人の従業員を抱える。「大規模な人員削減を行う予定はないが,経営資源などを含め企業の規模については,各社とも可能な限りの競争力を追求していくことになる」(AT&T社)。

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[発表資料]