米国政府がWebの情報管理に神経質になっている。複数の政府機関が,「テロリストに悪用される恐れがある」として,ある種の情報を自らのWebサイトから削除した。たとえばEPA(米環境保護局)はこれまで,全米に散らばった「危険な化学物質の貯蔵施設」の地図を掲載していた。これを9月11日のテロ事件発生後に削除した。この地図は元々,米国民に危険な場所を教えて注意を促すことを狙っていた。

 CDC(米疾病予防センター)は,「生物・化学兵器に関するレポート」を削った。このレポートも本来は,米国民がそうした兵器に対する理解を深め,何らかの対策を講ずるためのアドバイスを目的としていた。FAA(米連邦航空局)は,全米各地の空港の安全管理情報や違反事例などの情報を削除した。

 確かにいずれの情報も,「両刃の剣」的な性格を備えていることは認めざるを得ない。しかし,こうした政府機関のWebサイトが紹介しているのは「ごく一般的な情報」であるケースが多い。テロリストが悪用できるほど,具体的で詳細なヒントは含まれていない(EPAの地図はさすがに怖い感じがするが・・・)。仮にそうだったとしても,いまさら情報を引っ込めたところで,既に利用されているのではないだろうか。

 また政府機関が自らのWebサイトの情報を消しても,色々な市民団体や個人が,既にそれらの情報をダウンロードして,別のサイトに掲載している。インターネットの情報コントロールは非常に難しいのだ。

 先週のコラム「対テロ法案が電子メールの傍受を大幅緩和,大丈夫なのか表現の自由とITの未来」でも触れたが,米国の主要テレビ局は政府の要請に応じて,「アルカイダやタリバンの声明ビデオ」は放送しないことを決めた。今回の事件に関して米国のメディアは政府に極めて協力的だ。上から下まで組織的に情報が管理されている。

 確かにテレビ局や新聞社のような正統的メディアは,非常時には政府による管理が可能である。しかしインターネットとなると,そう簡単にはいかない。元々,米国政府のイニシアティブの下に構築されたネットワーク(転じてメディア)だから,政府は自ら作ったモノに足元をすくわれている感もある。

 「言論と表現の自由」を何よりも重んじてきたお国柄だが,この事件を契機に,情報発信の「自由」と「管理」のバランスが検討され始めている。

(小林 雅一=ジャーナリスト,ニューヨーク在住,masakobayashi@netzero.net
■著者紹介:(こばやし まさかず)
1963年,群馬県生まれ。85年東京大学物理学科卒。同大大学院を経て,87年に総合電機メーカーに入社。その後,技術専門誌記者を経て,93年に米国留学。ボストン大学でマスコミの学位を取得後,ニューヨークで記者活動を再開。著書に「スーパー・スターがメディアから消える日----米国で見たIT革命の真実とは」(PHP研究所,2000年),「わかる!クリック&モルタル」(ダイヤモンド社,2001年)がある。