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対テロ法案が電子メールの傍受を大幅緩和,大丈夫なのか表現の自由とITの未来インターネットの世界に政府のチェックが厳しく入る。 米国政府による電子メール傍受に対する足かせを大幅に緩めた「対テロ法案」が,10月8日の週に上下両院を通過した(傍受の対象には電話も含まれる)。元々はアシュクロフト司法長官を中心にしたブッシュ政権の要求が下敷きになっているが,当初から米国民の基本的人権を侵すものとして,リベラル派の議員や市民団体からの反対が強かった。 しかしフロリダやニューヨークで炭疽(たんそ)菌パニックが発生し,世間が騒然とするなかで,「テロを未然に防ぐ」という大義のもとに法案はスピード可決された。強硬派による多数派工作で強引に押し切った格好だ。一部の議員は法案を審議するどころか,「読む」時間さえなかった,とこぼしている。ほとんど,どさくさ紛れに可決されたのだ。 上院を通過したのは,「Uniting and Strengthening America Act」。略してUSA法案と呼ばれるもの。中心となる項目は,「裁判所からの命令がなくても,連邦捜査局(FBI)が電子メールを傍受できる」「FBIや警察が電話の盗聴を以前より簡単にできるようにする(=これまで必要だった裁判所の命令の代わりに,これからは通常の捜査令状でOK)」「(以上のような)1回の電子捜査による監視期間を,これまでの90日間から120日間に延長する」「テロリスト容疑の外国籍住民の拘留期間を(無期限に)延長できる(カッコ付きにしたのは,この点に関する法案の文章が曖昧で,いかようにも解釈できるため。非常に危険視されている)」など。 下院では,USA法案とはかなり異なる,もっとマイルドな法案が審議されてきた。しかし,土壇場になって共和党強硬派がUSA法案とほとんど同じ法案を作り上げ,その日のうちに可決させてしまった。下院を通過した法案は,Patriot Act(愛国法案)と呼ばれる。上院を通過したUSA法案との主な違いは,Patriot Actの方が「法律の有効期間を5年に限定している」こと。要するに「今は大変な時期だから,取り合えず通すが,5年後に頭を冷やして再検討しましょう」という意図がある。 米国連邦議会の場合,下院(House of Representatives)と上院(Senate)が独立の法案を審議する。それぞれ可決された法案を,後ですり合わせて統一法案にし,これを大統領が認可すると法制化の運びとなる。 この「擦り合わせ」に手間と時間がかかる。今回の対テロ法案は,「非常事態だから,そんなことをしてる暇はない」というわけで,下院の方が上院と似た法律を作って,素早く法制化に持ちこもうとした。両院による「すり合わせ」の過程で,「5年間の期間限定」が最終的に実現するかどうかはわからないが,大した争点にはなるまい。あっという間に大統領が署名して,電子メールの傍受が頻繁に行われるようになるだろう。 平時なら米国の市民団体が大騒ぎし,マスコミも批判的な論調となるはずだ。しかし今回に限っては,そういう動きは強くない。市民団体は当然反対しているのだろうが,マスコミはほとんど取り上げていない。「それどころではない」という雰囲気があるのだ。米国のマスコミは今回,驚くほど政府に協力的だ。 たとえば,ライス大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が主要テレビ局の幹部に電話を入れ,「ウサマ・ビンラディン氏やその部下の声明を収録したビデオの放送を自重してくれ」と求めたが,各局は素直にこれに応じ,「テロ行為の手助けをするような素材は放送しない」と発表した。 アルカイダの声明ビデオを流すことが,なぜテロ行為の手助けになるのか今一つはっきりしない。一説によると,たとえば「洞窟のビンラディン氏がコップの水を飲む」という何気ない動作が,米国内に潜むテロリストへの指示になるかもしれないそうだ。神経過敏ではないかと思われるが,しかし「どんなことでも起こり得る」という異常な緊迫感が,米国内に根付いている。 「言論(表現)の自由」を何よりも重視し,それを標榜してきた米国。しかし,国家的危機に直面すると,そうした声もかき消されてしまうようだ。IT(情報技術)だけではなく社会全体の将来に禍根を残しそうな動きが,同時多発テロをキッカケに進んでいる気がしてならない。 (小林 雅一=ジャーナリスト,ニューヨーク在住,masakobayashi@netzero.net) ■著者紹介:(こばやし まさかず) 連載新着記事一覧へ >>
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