2種類のワームが先週(7月16日~20日),主に英語圏とスペイン語圏の国々を襲った。先ず“Code Red”と呼ばれるワームが17日に発見され,米国メディアによれば瞬く間に推定30万台のサーバーに感染した(感染は既に13日に始まっていたようだ)。このワームは,感染したサーバーを踏み台にDDoS(Distributed Denial of Service:分散型サービス妨害)攻撃をホワイトハウスのWWWサイトに仕掛けるようにセットされていた。セキュリティ専門家からの警告を受けたホワイトハウスは,WWWサイトのアドレスを変更して事なきを得た。

 Code Redは感染したサーバーから4時間にわたって100Kバイトのデータを流すようにプログラムされていた。たとえホワイトハウスのWWWサイトが難を逃れても,大量のデータがインターネットを行き交うため,トラフィック急増が懸念されていた。

 最初の攻撃時刻は19日深夜だったが,結局,懸念された事態は免れた。これはワーム開発者の「設計ミス」だったと専門家はみている。しかし油断は禁物だ。7月28日までCode Redには,アドレスの変わったホワイトハウス・サイトを再攻撃する可能性がある。また8月1日からは,新たなサーバーを狙って再び感染を始める。

 Code Redが感染するサーバーは,米マイクロソフトのInternet Information Server(IIS)を載せたマシンである。これを搭載したサーバーは世界中に約600万台存在するといわれる。この数字は,インターネットのサーバー全体の21%に相当する。

 前述のセキュリティ専門家が6月に,SSIのセキュリティ・ホールを発見し,「クラッカー(悪意をもったハッカー)が侵入してサーバーを乗っ取る危険性がある」と警告を発した。米マイクロソフトは直ちにパッチ・ファイルを配布したが,セキュリティ・ホールが放置されたままのサーバーが少なくなかった。Code Redは,この間隙を突いて伝染してしまった。

巧妙な仕掛けを組み込んだ“Sircam”が蔓延

 一段落したCode Redに代わって猛威を振るいそうなのが,“Sircam”と呼ばれるワームである。最初に報告されたのは18日とされるが,この時点で実体は不明だった。発祥地はスペインあるいはロシアとされ,伝染し始めたのは18日よりも前だったとの説もある。

 Sircamに対するネットワーク・セキュリティ会社の見解は,「無害」「有害」に二分されたが,20日になって「これは極めて有害で危険なワームである」で一致した。

 セキュリティ専門家が惑わされた理由は,巧妙に仕組まれたSircamの動作にあった。Sircamは,電子メールを介して伝染する。電子メールの本文には,「Hi! How are you? I send this file in order to have your advice. See you later. Thanks」というメッセージがあり(スペイン語版もある),これに添付したファイルを開くとハード・ディスク装置に取り付く。添付ファイルは,その一つ手前の段階で感染したユーザーが格納していたドキュメントやイメージ・ファイルである。これが実行ファイル化されて,次の人に送り付けられる。

 拡張子を見ると,「.doc.exe」や「.jpg.exe」などとなっており,用心深くチェックすれば「何かおかしい」と気付くはずである。しかしうっかりクリックすると感染が始まってしまう。

 まんまとハード・ディスク装置に侵入したSircamは,次に奇妙な振る舞いをする。それはユーザーがパソコンを起動する33回に1度の確率で,ハード・ディスク装置の空き領域に電子メールの添付ファイルを書き込み,いずれは使用不能にしてしまう。逆に言えば,1回や2回,起動したくらいではトラブルに気づかない。このため,セキュリティ専門家の見解が当初,無害か有害かで分かれたのだ。

 しかしSircamは10月16日になると,別の挙動をみせる。今度は20回に1度の確率で感染したハード・ディスク装置のファイルを全て消去してしまう。ただし,この被害を受けるのは,欧州系のカレンダ・システム(日,月,年の順に数字が並んでいる)を採用しているマシンだけである。

 Sircamは主に欧州,米国,南米で蔓延している。電子メールのメッセージは英語やスペイン語で綴られているとはいえ,日本やアジア諸国のユーザーも100%安全とは言い切れないだろう。夏休みを前に思わぬ被害に遭わないよう,ご注意あれ。

(小林 雅一=ジャーナリスト,ニューヨーク在住,masakobayashi@netzero.net

■著者紹介:(こばやし まさかず)
1963年,群馬県生まれ。85年東京大学物理学科卒。同大大学院を経て,87年に総合電機メーカーに入社。その後,技術専門誌記者を経て,93年に米国留学。ボストン大学でマスコミの学位を取得後,ニューヨークで記者活動を再開。著書に「スーパー・スターがメディアから消える日----米国で見たIT革命の真実とは」(PHP研究所,2000年),「わかる!クリック&モルタル」(ダイヤモンド社,2001年)がある。

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