【 第2回 】 松井証券・松井社長,ネット証券を強烈に説く

2/6ページ
動態分析でシナリオを描かないと失敗する

 4年前にネット取引を始めて今まで,一番不安に思ったことは何でしょうか。

松井 不安というよりも,正しいか間違いかは別にして,自分なりのシナリオは作ったつもりです。現実がそのシナリオどおりに動くかどうかは,シナリオを作った時点で分かりませんね。当時は,この業界の人たちや周囲の人たちから「そんなになるはずないだろう」「そんなSF的なシナリオはあり得ない」と言われていたんですが,結果的には,私が書いたシナリオをはるかに超える現実が展開されている。だから,読みが当たっているか,当たっていないかというのは,やってみないと分からないし,時間が経たないと分からない。そういう意味では,私の読みは全部外れています。現実のほうがはるかに極端です。

 それでは,社長失格ではないですか。機会損失ですから・・・。

松井 こういう状況は,これからも多分あるだろうと思いますよ。さりとて,とんでもないシナリオを書いて,それが外れたりしたら,それこそ大失敗になりますから。その辺の見きわめですね。やってみないと分からないですよ,これは。答えもないですし,分析しても分からない。それが合っているかどうかというのは,いつでも不安ですね。

 松井さんが描いたシナリオをもう少し詳しく聞きたいのですが。

松井 静態分析と動態分析を分けて考えなくちゃいけない。ともすると,過去の静態分析だけでシナリオを作りがちなんですね。過去の延長線上で展開されるだろうと。違うんです,全然。何が違うかというと,投資家の行動が変わるんです。それはまだ世の中の人たち,マスコミやこの業界の人を含めて気がついてないんじゃないか。私のシナリオに確信を持った拠り所は,実はここにあるんです。松井証券は,「インターネットの登場と手数料の自由化が起きて,個人投資家の行動がどういうふうに変わるか」という生データを持っているんです。この生データを持っているのは,ウチだけでしょう。

 なぜかというと,松井証券は1999年にできた会社じゃないんです。1917年にできた会社なんです。中小証券としてずっとブローキング(証券仲介業)をやってきて,お客さんはそれなりにいたんです。2万人。自由化の直前で2万人ですから,その前は5000人とか6000人ね。そのお客さんたちが自由化とインターネットの登場でどういうふうに変わったのか。Aさんという人の行動が実は変わったんです。野村証券でも大和証券でも,膨大なお客さんを持っていますけど,彼らがみんなネットに行っていますか。手数料を安くしてやっていますか。彼らは行動変化を示すデータは持っていませんね。ほかのオンライン証券の多くは,1999年にできた会社ですから,もともとのデータを持っていない。今までの延長線上でシナリオを作っても何の意味もないなということで,私は別の形でシナリオを書いたんです。

 よく「インターネットのお客さんが個人投資家の売買の半分も占めているから,あと残り半分じゃないか」と言いますよね。これは静態分析です。実は60数兆円の株を持っている個人投資家の高々2兆円ぐらいしかまだインターネットに行ってないんですよ。あとの残りの60兆円はまだオフラインに歩留まっているんです。なぜか。お年寄りが多いからです。お年寄りの多くはインターネットを使えないわけです。そして,年1回しか売買しない。じゃあ,年1回売買していた人がインターネットで年1回かというと,そんなことはないです。我々は年1回しか売買してないお客さんが,実はインターネットに入ったら年10回売買するということを知っているんです。これはさっきの2万人のお客さんのデータです。しかも彼らは,ごくごく普通のお客さんです。

 そうなると,2兆円が4兆円になったら,ネット取引が年間25兆円から50兆円になるじゃないかと。50兆円というのは,今の全個人投資家の売買高と同じですね。じゃあ,これが6兆円になったら3倍ですから,75兆円だと。これはすごいことになるなと。まだ開拓の余地はこんなにあるじゃないか。どうしようかと。こういうシナリオで考えているんですけど,だれも理解しないですね。でも,少なくともこの1年間で私のシナリオどおりになります。

取引が頻繁になるのは,時代の要請

 お年寄りという話が出ましたが,ネックになるのがパソコンの操作性だと思います。この問題は,どれくらいの時間で解決されるとお考えですか。

松井 例えば,私どもがネット証券を始めた98年5月時点では,インターネットなんて特殊でした。私だって,正直言って,プロバイダだ,何だかんだといっても,よく分からない。接続するまでにえらい時間がかかるし,専門知識もいる。「これはさすがに,できないだろうな」と思いました。ところが,今どうですか。この1年,半年ぐらいの間にADSLがあれだけ普及しているし,これからブロードバンドでしょう。プロバイダが何だかんだなんて意識しないで,簡単にインターネットの環境を手に入れられますよね。そうすると,孫でもクリックしてやっているのをおじいさんたち,おばあさんたちが見て,「私たちもできるわ」と思わないほうがおかしいでしょう。事実,そういう人たちが徐々に入ってきています。

 松井証券のメインのお客さんは50歳プラスマイナス10歳なんですね。よく言われている「若い人たちが多い」なんていうのは,ほかのオンライン証券会社の話で,松井証券は50歳プラスマイナス10歳です。ただし,日本の個人投資家というのは,大体40台後半~70台なんですよ。若い人たちはなぜやらないか。お金がないからです。当たり前の話です。松井証券の顧客層を年齢層別にグラフ化してみますと,その50歳前後は見事に全国平均とほぼ一致するんです。どちらかというと,40歳はちょっと上で,60歳はちょっと下と。ところが70歳はがくんと減ります。ほとんどいないです,うちには。でも,実際は,日本全体では70歳以上の投資家というのは,金額にして20%いるんですよ。人数にしたらもっと少ないですけど。この人たちはインターネットを全然使ってないんです。でも,ぽつんぽつんと入り始めました。これが来たら大変なことになるだろうな,と思うわけです。

 手数料を見て,松井証券で取引する人が多いわけですね。

松井 松井証券に限らず,ほかのオンライン証券だっていいですからね。松井証券だけがオンライン証券じゃないですから。

 数年後にお年寄りの金額は全体の半分になる可能性はあるでしょうか。

松井 そんなことはないでしょう。これからむしろ投資家層は若返るでしょう。徐々にですけど。ストックだけでなく,売買金額もほぼリンクしますけど,若い人たちのほうが回転率は高いです,当然のことながら。ただ,頻繁にといっても,うちは年平均15回ですから。月に1回半。それをデイトレーダーといいますか。

 言わないですね。

松井 でも,日本全国の平均は年0.6回転です。0.6回転と年15回だったら何倍ですか。10倍以上ですね。そういう意味では,その辺の投資家の行動が変わるということを,余りにもぽかんと抜かしている。回転数が高いから,それはリスキーだとよく言いますけど,逆ですね。株をやっている人だったらみんな分かりますよ。今,構造改革でしょ。今までだったら,みんな右肩上がりで,東証一部の上場企業がつぶれるなんてほとんどなかった。ところが今は,ごらんのとおり,ちょっと目を離していたら,あっという間に会社そのものがなくなってしまう。そういう時代でしょう。

 あんな大きな会社が株価50円だ,30円だ。こんなのが無数にできてくるわけです。長期投資できますか。怖くてできないでしょ。構造改革なんですから。時代の変革期ですから。そうすると,慎重になって,本当に慎重に,慎重に,「怖い,怖い」と言いながら株投資するんです。これがどうして分からないのかなと。損切りするんですよ,利食うんですよ,怖いから。そういうことを,どこかの財務大臣みたいに,「株というのは20年,30年投資するのが株だ」なんていう30年前,40年前の論理で株なんてやってないでしょう。