現在はOCN .Phone(OCNドットフォン)という呼称でサービスを開始している。利用可能なプロバイダのアクセス回線は東西NTTの提供する回線「フレッツADSL」か「Bフレッツ」などに限られている。ユーザーからの接続は東西のNTT回線を経由し,直接NTTコムのVoIP網に接続させるネットワーク構成となっていることを条件に050番号を付与してもらっているのだ。

 こうして,日本では,革新的なIP電話サービスを行おうと思っても縛りがきつい。上述の例のように,海外では地域と番号の物理的対応を求めていない。日本での考え方は世界の趨勢からかけ離れているとは言えないだろうか。

他サービスからの「ゲートウエイ」はありうる

 一方,電話番号取得の条件に合致するサービスを経由することでSkypeなどのサービスに連携させることはできる。2005年6月6日発表したフュージョンとSkypeの連携がそうだ(関連記事)。

 フュージョン・コミュニケーションズが取得した050番号を利用し,Skypeへゲートウエイすることで契約した050番号でSkypeに着信させることができるようになる。企業などで一般の電話回線を契約した上で,社内にIP電話へのゲートウエイ装置を設置して全支社で共有するなどのソリューションはかなり一般化しつつある。これと同様の仕組みを使うことでSkypeへの連携させようというのだ。

 しかし,計画ではサービス対象は法人,フュージョンへの契約が必要だ。前述のようにオンラインでほしいときにいつでも購入できる気楽な利用とはニュアンスがかなり異なる。

ユビキタス・ネットへ広げる推進力がほしい

 6月15日,ライブドアは月額525円(税込み)という低額料金で山手線圏内をカバーする公衆無線LANサービスを開始すると発表した(関連記事)。この新サービス「D-cubic」,山手線圏内の約80%という広いエリアをカバーする。エリア内を携帯電話のようにくまなくカバーすることはできないが,数10メートル移動すると通信可能圏に入れる,といったこれまでにない高い利便性を提供することができる。

 こうした広範囲をカバーする公衆無線LANサービスが登場すると,SkypInの国内電話番号が付与されないのがもどかしくてたまらない。

 今,総務省では,これからのネットワーク社会をにらんだ「IP時代における電気通信番号の在り方に関する研究会」を開いている。6月15日には第4回目の会合が開かれ,大筋で議論がまとまった(関連記事)。これを踏まえて,近日中にパブリック・コメントの募集が始まる。

 しかし,研究会での議論は,IP時代にふさわしい未来志向の電話番号体系を創ろうとの方向にはなっていない。今後Skypeばかりではなく,さまざまな工夫を凝らしたIPベースの電話やビデオ会議システムが登場してくるはずだ。しかし,そうした創造的なインターネット・アプリケーションはハナから排除されてしまう。世界各地ではPDAやパソコンから電話網に双方向の通話ができる時代になっているのに,日本のユーザーは指をくわえていなければならないのだ。

 私もときどきSkypeOutを使って国内の相手に電話をかけることがあるが,その通話は,日本以外の国に設けられたゲートウエイ回線から,国際電話がかかってくるのだ。それでも国内で通常の電話あるいは,携帯電話をかけるのと同等か,安いのだから,日本の通信事業者を守りたいという意識が働いてしまうのかもしれない。

 電話番号付与の監督省庁である総務省としては,電話はちゃんとつながってもらわなければ電話ではないという立場を取っている。Skypeやその他のインターネット電話では,途切れたり,つながらなかったりすることがあるかもしれず,社会的信頼性を持ちにくいから番号は与えられないとしている。しかし,今のインターネットは本当に品質が向上し,つながらないなどという状況はまれになった。確かに,一台の無線LANに何100人もが接続してくるという状況なら,つながらないこともあるだろう。しかし,そんな状況の中では一般の携帯電話も同じだ。家庭内の固定電話でも,コードレスホンの調子が悪くて会話が続けられないほど雑音が入ってしまうことだってある。

 それでも,インターネット電話は別という扱いは,IPサービスの健全な成長を阻害しているとしか思えない。総務省の判断は,優しい親心なのかもしれないが,ユーザーにとっては邪魔な規制以外の何者でもない。もし,050番号がネットワークにQoSを備えたIP電話にしか与えられないというのなら,さらに別の0X0番号を用意するなど,IPサービスの積極的育成策を考えるべきだろう。

 研究会の座長を務めた東京大学の齊藤忠夫名誉教授は「Skypeは通信事業者ではない。ここで議論しているのは通信事業者に対する番号付与。したがって,Skypeはこの研究会の範囲ではない」と言い切る。

 果たしてユビキタスネットワーク社会の実現に向けて日本の社会は動くのか?

 この研究会での議論に対する意見募集(パブリックコメント)が始まった(募集案件の詳細はこちら)。場所に固定されず,さまざまな情報サービスと連携できるIP電話が,現在の電話サービスの領域を大きく広げられるかどうかの瀬戸際でもあると言える。読者の皆さんも,このパブリック・コメントに積極的に取り組み,将来に禍根を残さない素晴らしい制度作りに参画してみてはいかがだろうか?

(林 伸夫=編集委員室 編集委員)