「日経システム構築」では昨年7~12月号で「RFPの作り方」を連載した。筆者はイントリーグという会社の代表 永井昭弘氏。永井氏は日本IBMで金融系のSEを勤めた後,現在は独立し,ITコーディネータとしてRFPの作成支援や提案書の評価に豊富な経験を持つ。念のために説明すると,RFP(Request for proposal)とは提案を募る際にベンダーに渡すドキュメント(や提案を募る行為)のことである。

 地味なテーマ,地味なページの割に,連載「RFPの作り方」は高い評価を得た。さらに2月に実施した弊社主催「NET&COM2005」のセミナーでも,このテーマは好評を博した。過去の記者の眼「IT商談の“引き合いバブル”,失注の理由をご存じですか」にもあるように,背景には,ユーザーがシステムを開発する際に相見積もりを取る機会が増えてきたことがあるだろう。さらにその背景には,ダメなベンダーに発注してしまった失敗プロジェクトの苦い経験があり,今度こそいいベンダーと良好な関係を結びたい,との思いがあると感じている。

 そこで,このテーマをさらに追求すべく,弊誌では特集のテーマとして「RFPの作り方」について現在取材を進めている。取材を進めるにつれ,RFP作成やベンダー選定を巡る現場の試行錯誤ぶりが明らかになってきた。

決まった作り方がないRFP

 システム構築のRFPには,決まった作り方がない。面白いところでは,C/S(クライアント/サーバー)システムの「ユーザー・マニュアル一式」を渡され「これをWeb化したいから見積もってくれ」と言われたSEがいる。これも広い意味でのRFPの一種と言える。

 日本語訳一つ取っても,RFPは「提案依頼書」と訳されるのが普通だが,「要求仕様書」などと表記されることもある。要求仕様書と提案依頼書とでは,その内容や作り方がまるで違ってくる。前者は自分で要件定義まで済ませた後に,より早く安く作るための提案を募るのに対し,後者は要件があいまいな状態でどのようにシステム化すればいいかといった部分までベンダーの提案力に期待する部分が大きい。

 情報システムのRFPは「提案依頼書」的な側面が強いように思うから,私は「いかにベンダーの知恵を引き出すか,そしていいベンダーをパートナとして選ぶか」を考えることが,RFPを作る際の肝と考える。以下の文も,それを前提に読んでいただきたい。

 決まった作り方がないということは,実際に作られるRFPに記載されている内容もその形式もバラバラということである。取材の中では,永井氏の私見をベースに書かれた前述の連載の内容に対する異論や反論もたくさん出てきた。その中から,RFPに記載する内容やベンダー選定のプロセスについて相反する意見を3つ紹介しよう。

議論 その1●RFPに予算を記載すべきか否か

「記載すべき派」の意見:
実際に,複数のベンダーから見積もりを取ると,同じRFPを提出しても見積もり金額はバラバラである。2~3倍の格差が付くことも珍しくない。これでは提案の中身の優劣を比較しにくい。予算の幅や上限を記載しておけば,見積もり金額の差が少なくなり,提案の中身を吟味して比較できる。また,すべての見積もりが想定していた金額を大幅に上回ってしまい,どれも選べなくなるといった事態も避けられる。

「記載すべきでない派」の意見:
予算を記載してしまうと,競争原理が働きにくくなってしまうのではないか。また,そもそもRFPに記載した機能をすべて実現すると,いくらかかるのかが分からないから,それをまず知りたい。あらかじめ予算を記載してしまうと,ベンダーの提案はその金額に縛られ,提案の内容が萎縮してしまうことを恐れる。

議論 その2●質疑応答の内容を他ベンダーにも公開すべきか否か

「公開すべき派」の意見:
提案書を提出するまでの間,ベンダーからユーザーにはRFPの内容の不明点などについて質問が寄せられる。そこで交わされた質疑応答の内容は,質問を寄せたベンダーだけでなく,他のベンダーにもメールなどを通じて,公開すべきである。提案書を作成するための情報はすべてのベンダーで等しく共有していないと,公平でなくなり,情報の少ないベンダーからいい提案を得る可能性を減らすことになるからである。

「公開すべきでない派」の意見:
RFPから何を読み取り,どんな質問を寄せるかもベンダーの力量である。質問を多く寄せることは,その内容にもよるが,熱意の表れとも考えられる。ベンダーの評価は,プレゼンテーションから始まるのではなく,それ以前のやり取りから既に始まっているのである。

議論 その3●人を選ぶか会社を選ぶか

「人を選ぶ派」の意見:
プロジェクトは「人」。どんなに優秀なSEを抱える大手企業でも,自分のプロジェクトに優秀なSEが来てくれるとは限らない。できれば,プレゼンテーションも実際のプロマネ候補にやってもらい,その人の技術力やビジネス・スキルをチェックした上で,評価したい。

「会社を選ぶ派」の意見:
どんな優秀なSEが来てくれても,その人がプロジェクトに最後までいてくれるかどうかは分からない。優秀なSEほど,他のプロジェクトの“火消し”などに駆り出される可能性が高い。それを防ぐような文言を契約書に入れておくのも手だが,実際に不本意なSEの交代があったときに契約を盾に争えるだろうか。それならば,最初から割り切って会社を選ぶ方が現実的。どんなSEが来ても同じように業務を遂行できるプロジェクト管理の体制やノウハウをその会社が確立しているかどうかを重視したい。

 それぞれ,説得力のある意見に思える。なかなか記者一人による限られた取材の量では,どれが世の中の共通の認識として支持されているのかが判断しにくい。頂戴した結果は,IT Proでお知らせしたい。

(尾崎 憲和=日経システム構築)