のっけから恐縮だが,ごくごく軽い気持ちで,以下のクイズに答えていただきたい。



以下はすべて,大手コンピュータ・ベンダーが最近,打ち出しているコンセプトです。

(1)オンデマンド・ビジネス
(2)ESA(Enterprise Services Architecture)
(3)OIA(・・・Information Architecture)
(4)ダイナミックコラボレーション
(5)コラボレーティブEビジネス

【問題1】
 これらは,「だれ」に向けた「何」に関するコンセプトでしょうか

【問題2】
 (1)から(5)はそれぞれ,どのベンダーのコンセプトでしょうか


 答えはすぐ下に示すが,そちらを見る前に,(1)から(5)のコンセプトを5秒程度でもいいので,じっとご覧いただきたい。これらのコンセプトは自分にストレートに伝わってくるか,自分の頭に何らかのイメージが浮かび上がってくるかを“実験”してほしい。ちなみに(3)の「・・・」は,ここにベンダー名が入っているのであえて伏せ字にしている。

 まず,問題1の答えから。これらはすべて,「ユーザー企業」に向けて発信した「次世代システム像」あるいは「次世代システムによってユーザー企業が実現できるビジネス形態」を表す。

 問題2はIT Pro読者と言えども,すべてを回答できた方は少ないのではないかと思う。

 (1)の「オンデマンド・ビジネス」は,たぶんほとんどの方がご存じだろう。提唱しているのはIBM(日本IBM)である。ここには,「ビジネスを機敏に変化できるようにする」というニュアンスが込められている。システム構築の支援だけではなく,「ビジネスの機動性を向上させる」という意味だ。

 (2)の「ESA」はSAP(SAPジャパン),(3)の「OIA」はオラクル(日本オラクル)が打ち出している。当然,OIAはOracle Information Architectureの略だ。

 ESAとOIAはともに,自社の主力製品を核とした次世代の企業システム像を示している。ESAは,SAPの主力製品であるERPパッケージ(統合業務パッケージ)「mySAP ERP」を中心に複数システムを連携させ,そこから得られる情報を一貫したユーザー・インタフェースを通じて利用者に提供するというシステム像を示す。

 OIAは,オラクルの主力製品であるリレーショナル・データベース「Oracle Database」を使い,さまざまなデータを一元管理するデータベースを中心に,複数の企業システムが連携しあう企業システム像のことだ。

 (4)と(5)は,国産勢が打ち出しているコンセプトだ。(4)の「ダイナミックコラボレーション」はNEC,(5)の「コラボレイティブEビジネス」は日立製作所が提唱している。ともに,ユーザー企業がその顧客企業や提携先と柔軟に協調するビジネス形態を指す。

単なる宣伝文句ととらえる前に・・・

 これまで,ベンダーが打ち出すコンセプトは「広告・宣伝」の色合いが強かった。上記の(1)から(5)にしても,その要素は多分にある。だからといって,それらをいつまでも単なる宣伝文句と片づけてしまうのは,少し違っているのではないか。上記のクイズは,こうした考えによるものだ。ベンダーの肩を担ぐ意図は少しもないことをお断りしておく。

 記者がベンダーのコンセプトに注目するきっかけとなったのは,日経コンピュータ4月4日号の特集「俊敏なシステム---複合アプリケーションが現実解に」を担当したことだ。この中で,企業がこれから目指すべき「俊敏なシステム」とはどのようなものかを,ビジネスの観点からひも解いた。

 俊敏なシステムとは,経営の変化に即座に対応できる企業システムのこと。背景にあるのはSOA(サービス指向アーキテクチャ)だが,単にさまざまなシステムをWebサービス化してつなげればよいわけではなく,(a)ビジネス・プロセスを定義する機能や(b)アプリケーション同士を連携させる機能,(c)データの整合性を保つ機能,(d)操作性を一貫させる機能を,企業システム全体で実現する必要がある。その姿を「コンポジット(複合)アプリケーション」という名称で提示した。

 コンポジット・アプリケーションの詳細は本誌をご覧いただくとして,このようなシステムを実現する際に「どのベンダーの製品を選ぶべきか」が大きな問題となると,記者はにらんでいる。コンポジット・アプリケーションでは,ミドルウエアの果たす役割が従来よりもはるかに大きくなる。それらを含む全体を,ユーザー企業が自力で実現するのはまず不可能。となると,ほぼ間違いなく,ベンダーが提供するミドルウエアを利用しなければならなくなる。

 その際に,四つの機能ごとに複数のベンダー製品を組み合わせるという選択肢もあるだろう。だが,ほとんどの場合は「基本は同じベンダーの製品で統一。一部を他ベンダー製品または独自開発」の形になる可能性が高いとみられる。ミドルウエアが主に提供することになる四つの機能は,それぞれ密に連携し合う必要がある。基本的に業界標準にのっとっているとは言え,異なるベンダーの製品同士での密な連携には,どうしても限界があるわけだ。

 ここで浮上するのが,冒頭のコンセプトである。コンポジット・アプリケーションの実現に必要なミドルウエアを選ぶ際に,各社の製品ごとに機能を細かく比較しても,あまり意味はない。自社のニーズに最も合った製品を選ぶためには,それぞれのミドルウエアがどんなシステム像を目指しているのか,ひいては,ミドルウエアを開発するベンダーは,いったいどのようなシステム像を描いているのかを理解する必要がある。

 それを端的に伝える役割を果たすのが,ベンダーが打ち出すコンセプトになる。ミドルウエア・ベンダーにとって,ユーザー企業に対してアピール力のあるコンセプトを打ち出せるかどうかが,コンポジット・アプリケーション時代の競争を勝ち抜けるかどうかのカギを握るといっても過言ではない。

 こうした目でもう一度,(1)から(5)のコンセプトをご覧いただきたい。あなたがユーザー企業の担当者だとして,「こうしたコンセプトを持つ会社なら任せられる」と思っただろうか。どれもまだまだと思われるかもしれない。特に国産ベンダーの(4)や(5)は,海外ベンダーのものと比べて,どうもアピール力が弱いと思うのは記者だけだろうか。

 たとえコンポジット・アプリケーションで使うミドルウエアであっても,選択する際に価格や機能が重要なファクタになるのは言うまでもない。ただ,「たかが」と見るか「されど」と見るかはともかく,ベンダーの打ち出すコンセプトも無視できないことを,頭に入れておいて決して損はしないはずだ。

(矢口 竜太郎=日経コンピュータ)