記者はお金の管理が苦手だ。にもかかわらず,日経コンピュータ9月20日号の特集で「ITコストの最適化」というテーマに挑戦した。取材の過程では改めて,お金の話の難しさを痛感した。すべての企業に通じる,お金の上手な使い方って何なのだろうか。特集を書き上げた今になっても明言できない。お恥ずかしい限りだ。

 「そもそもITコストって何なのか?」「企業はどのようにIT予算を決めているのか?」。ITコスト問題を長年追い続けてきたつもりだったが,こうした初歩的なことをきちんと理解していない自分に気が付いた。これまたお恥ずかしい。

 分からないことは素直に聞くしかない。ユーザー企業はITコストをどのような費目で管理しているのかや,IT予算はどのような手順で作られているのかを50社近くのシステム部長に取材させていただいた。

 今年は記録破りの猛暑。真夏日が続く7月から8月上旬にかけての50社取材は肉体的にも精神的にもしんどかった。記者は体力にはちょっとだけ自信があったが,その自信もなくなった。移動の際には文字通り頭から汗だくになった。取材が始まって少し経つと,今度は冷房攻めで気分が悪くなることもままあった。

 気分が悪くなったのは,ITコストの構造をきちんと理解していなかった自分に冷や汗をかいたせいもあるだろう。ITコストの話でやっかいなのは,定義が企業によってマチマチなことだ。IT部門の人件費や利用部門が独自に構築したシステムの費用,通信費などをITコストに含めるかどうかは,企業によって異なる。そのためITコストは,他社とベンチマークしにくい。他社のIT予算が売上高の1%といっても,どんな費用が含まれているか分からない限り,比較してもあまり意味がない。

 それでも多くのIT部門はITコストを上手にヤリクリすべく,地道な努力を続けている。IT関連の支出を一定のルールで漏れなく分類・記録し,無駄な支出を抑えようと必死だ。

 既存システムの保守・運用費や通信費など細かく費目を管理し,使途を明確にする。システムやサーバー,ミドルウエアごとにかかる費用をできるだけ細分化して,削減余地がないかどうか探っている。つまり,IT版の家計簿をつけているわけだ。

 こうした取り組みの実態は,日経コンピュータ9月20日号特集で紹介した。特集のタイトルは,「情報システムの家計簿」にしてみた。ご一読いただければ幸いである。

まずは家計簿をつけてみませんか

 「家計とITコストの管理を同列に語るのはおかしい」という向きもあるだろう。でも家計簿も馬鹿にしたものではない。お金を有効に使う近道が家計簿をつけることにあるのは,家庭も企業も変わらない。

 記者が家計簿にこだわるのは,その成功体験があるからかもしれない。生来,計画性のない浪費家なのだろうか。記者は大学時代,いつもお金に困っていた。両親からの仕送りとバイト代でそれなりの収入を確保していたはずなのだが,いつも金欠で苦労していた。

 お金は恐ろしい。使った覚えがないのに,どんどん減っていく。というか,使った分は忘れたいのだろう。本当に使った記憶がなかった。

 「いったいどうしてこんなにお金がすぐになくなるのだろうか。そんなに無駄遣いをしているとは思えないんだけど・・・」。同じ下宿に住んでいた友人に相談したところ,「家計簿をつけると節約できる」とアドバイスされた。
 
 早速,実践してみた。レシートや公共料金の引き落とし記録を手がかりに,毎日の支出状況をノートに記録してみた。

 食費,光熱費,下宿代,交際費(といっても遊ぶためのお金),電話代などの費目に分けて家計簿を何カ月か付けてみると,散財の状況が如実に分かってきた。どんな無駄遣いをしていたかはここでは恥ずかしくて明かせない。でも,家計簿をつけることで,無意識に使っていたムダがはっきりと分かるようになった。

 そうしてムダ遣いを控えたところ,月末に食費がなくなり断食することも,家賃を滞納して大家さんに迷惑をかけることもなくなった。さらに,ちょっとだけ遊びを「我慢する」ことも覚えた。

 家計簿をつけると,同じような無駄遣いを二度としないように頑張ることができる。見える化はやはり効果的だ。ITコストだって,同じだろう。