「オープン化してもコストは下がらない」,「レガシー・マイグレーションのメリットはあるのか」,「単なる記者の思い込みだ」――

 当コラム『記者の眼』に7月9日付で掲載した記事「レガシー・マイグレーションは四面楚歌」には,読者の方々からたくさんのご意見を頂戴した。

 冒頭に載せたように,ご意見の大半が記事に批判的なものだった。それでも読者にコメントを書き込んでもらえるのはうれしい。記者にとって何よりもありがたいことである。この場を借りて,まずは御礼を申し上げたい。

 決してやせ我慢ではない。「伝えたいことが正しく伝わらなかった」,「表現が悪かった」,「取材では多数派だった意見だが,IT Proの読者からは反論も多い」といった具合に,皆様の声を通じて自分の記事の弱点・欠点を客観的に把握できたからだ。

 『記者の眼』では,寄せられたご意見に対話形式で答えた記者が何人かいる。記者自身はこれまで一度もやったことがなかったが,今回,挑戦してみる。

 皆さんのご指摘を踏まえ,反省すべき点は反省し,誤解があれば再度説明してみた。寄せられたコメントは,表記など最小限の手を入れただけで,そのまま掲載する。コメントの引用を含めやや長文になるが,どうか最後までお付き合いいただきたい。

 対話に入る前に,問題となった記事「レガシー・マイグレーションは四面楚歌」の論旨を簡単に説明する。同記事では,「メインフレームやオフコンのマイグレーションに取り組む企業が最近増えていること」,および「マイグレーションには関係者の反対が多いこと」を取り上げた。ここで言うマイグレーションとは,メインフレームで動くアプリケーション資産を,そっくりそのままオープン・サーバーで動作させることを指す。

 「アプリケーションの業務ロジックは修整しないで,ソース・コードやJCL(ジョブ制御言語)のうちハードウエアやOSに依存する記述部分を,ツールで機械的に変換する。業務アプリケーションの動作プラットフォームをメインフレームからオープン・サーバーに取り替え,ハードウエアの維持コストを下げるのがマイグレーションの狙いである。マイグレーションが済んだら,時機を見てアプリケーションの再構築に取り組めば,将来的にハードウエアとアプリケーションの両方を新しくできる」といったストーリーである。

 「アプリケーションの肥大化が進んだ基幹系システムの維持コストを下げる策の一つとして,レガシー・マイグレーションが急浮上している」とも記した。「アプリケーションを全面再構築するには膨大な費用がかかり,リスクも大きい。だからといって既存システムをこれ以上放置すると,維持コストは雪だるま式に増える一方。ハードウエアをオープン・サーバーに置き換えるマイグレーションで,システムのオープン化の第一歩を踏み出そう」――というのが記者の主張だった。

 「マイグレーションはコスト削減の効果がある一方で,メインフレームに長年親しんできた関係者から反対されやすいのが現実。マイグレーションの成功には,技術的な問題だけでなく,反対派の説得も欠かせない」とも書いた。

 この拙文に対して寄せられたコメントで最も多かったのは,「マイグレーションすれば本当に安くなるのか」という批判だった。それではコメントの紹介と回答を始めよう。回答文は書きなれた「である調」にした。ご了承いただきたい。

■コスト効果に疑問

 まずは怒涛の批判4連発である。


本当に安価なのか疑問がある[2004/07/09]
 レガシー・マイグレーションは手段であって目的ではない。「安価」を求めるのならば自社要員のスキル・コンバート費用まで考えなければならない。今まで蓄積したスキルのうち,対応しなければならないのはどれほどあるのか。下位互換を保障してきたハードウエア・ベンダーのソフトウエアと,ソフトウエアのライセンスが収入源となるソフトウエア・ベンダーのソフトではライフサイクルで考えた場合,本当に安価なのか疑問がある。業務ロジックがある程度頻繁に変更がある場合は良いが,そうでなければ,サポート期間終了などに怯えなくて良い環境の方が結果的に安価になるのではないか?(その分,やらなければならないことに注力できるという意味で)
(30代,ユーザー企業,情報システム部門)

メインフレームの選択には正当な理由がある[2004/07/09]
 ユーザー企業がメインフレームを選ぶのには正当な理由がある。ただのマイグレーションで何の維持コストが下がるのか。ライフサイクルでのトータル・コストを明確に比較して主張すべきだ。記者は手段であるオープン化を目的化していないか。マイグレーションの需要がないのはメインフレーマの圧力は関係ないだろう。ユーザー企業がマイグレーションを採用しないのは,子会社の利益や自己の責任回避ではなく,コストやリスクの負担に対してメリットがないからだ。事例も的外れだ。住友スリーエムはオープン化移行にあたってのイニシャル・コスト抑制の話。ジョインテックスやユウキ食品は不要なプログラムの廃棄による効果の話。ダイキン工業に至っては現在進行中だというだけ。マイグレーションの目的・効果と記者が謳っている維持コスト削減から話をすり替えている。

(30代,ユーザー企業,情報システム部門)

昔ほどリスクを取りにくくなっている[2004/07/10]
 リホスティングが進まないのは政治的な要因が一番大きいという論旨のようですが,実態との温度差を感じました。最近のユーザー企業は,コスト削減のためなら,なりふり構わないのが実情では? リホスティングが広がらないのは,コスト削減の目処が立たないからで,政治的な話とは感じません。なぜ目処が立たないか?そこを掘り下げて頂きたい。また別の視点として,情報システムは,人員削減により,ITインフラ面では,昔ほどリスクを取り難くなっていると思う。(隠れたリスクが読めない,リスク対策が十分に取れない,リスクが発生した場合に,早急な対策が取れない)。それは大きな意味で会社の固定費削減とのトレードオフなのですから,IT面では,体力に見合った(事例が多く,低リスクな)施策を中心に実施していけば良いはずです。

(30代,ユーザー企業,情報システム部門)

効果を説明できずに「反対勢力」というのはおかしい[2004/07/09]
 「機能が変わらないのにコストがかかるのはおかしい」,「機能強化など目に見えるメリットがない限り費用は負担できない」。効果を説明できないから反対されるわけで,説明能力がないのを棚に上げて反対勢力などというのはおかしいと思うが。


 ご指摘のとおり,マイグレーションすれば,どんなシステムでも必ず維持コストが安くなるわけではない。

 記者はこのことを十分承知しているつもりだった。しかし前回の記事で表現に至らない面があり,誤解を招いてしまった。「維持コストが安くなることはあるが,高くなってしまう場合もある」というのが取材で得た情報だ。

 コストが下がる条件はいくつかある。既存システムを動かすメインフレームの購入費もしくはリース料の割引率が低く,メインフレームに多額の費用をつぎ込んでいる。さらにマイグレーションの際,ハードウエアの過剰な二重化や冗長構成を止める,といったところがその代表である。

 反対に,メインフレームを7割引,8割引で購入したり,再リースを続けるなど,じっくり使い込んでいるシステムは,「どう試算してもマイグレーション後の維持コストは下がらない」という話も取材で耳にした。

 寄せられたご意見にあった,コスト削減に対するユーザー企業の力の入れ具合は,企業によりかなり温度差があるというのが正直な感想である。景気が低迷するなかでも収益を拡大させている強い企業や,コスト削減策なしでは企業の存続さえ危うい状況にある赤字企業は,おっしゃるとおり「なりふり構わず」コスト削減に取り組む傾向がある。一方,ほどほどに儲かっている企業のなかには,マイグレーションでコスト削減できるとわかっているが現実には踏み込めない,といったところもあった。

 コスト効果と並んで,オープンシステムの信頼性を疑問視する声もいくつかみられた。