ITエンジニアは開発現場で「何に悩み,何で苦労しているのか」「仕事をする上でのモチベーションは何か」──。

 日経システム構築の2003年12月号特集「SE再生」を執筆するにあたり,2003年10月にIT Proサイト上でアンケート「ITエンジニアの意識・実態調査」を実施した。冒頭の質問に対しては,多くのエンジニアが「技術面よりも開発現場の体制に苦慮している」「給与や賞与よりも“やりがい”を重視する」と声をそろえた。

 2003年10月16日には,回答者の声を本コラムにて報告した(記事へ)。以下では集計結果を総括して報告する。集計対象とした有効回答数は530件。アンケートで聞いたすべての設問の集計結果についても,本文の最後にリンクを張っておいたのでご覧いただきたい。

多くのエンジニアが「技術」以外の問題で苦労している

図1●システム開発において最も苦労した,または問題になったポイント(図をクリックして拡大表示)
 システム開発の現場において「最も苦労した,または問題になったポイント」を聞いたところ,多くのITエンジニアが「技術」以外の問題で苦労している現状が浮き彫りとなった(図1[拡大表示])。

 一番多かったのが,「プロジェクトの体制に問題がある」(137件)との意見。「マネジメントできないマネージャやリーダーに振り回される」(32歳,ベンダー企業,SE),「命令の指揮系統がバラバラ。決定権を持つ責任者が機能していない」(26歳,ベンダー企業,その他)など,上司や先輩が役割を果たしていない現状に,多くのエンジニアがいら立ちを隠さない。

 また,「ユーザー側に社内調整力がなく,プロジェクトのすべての面(予算・時期・方向性など)で振り回された」(32歳,ベンダー企業,PM)など,システムを発注するユーザー側の体制に問題があるとの指摘もあった。

 次いで,「システムの設計に問題がある」(118件)という意見が2位だ。特に要求分析といった上流設計で問題が頻発している。「初めて取り組む業種だったため,(詳細な業務内容が理解できず)設計が困難だった」(31歳,ベンダー企業,SE)と,業種/業務知識の習得がおぼつかない悩みが多い中,「ユーザーの言うことが昨日と今日で180度変わる。これでは設計がまとまるわけがない」(23歳,ベンダー企業,SE),「ユーザー側で(担当者ごとに)利害関係やプライドが絡んでいてまとまらない」(35歳,ベンダー企業,SE)といった意見も目立つ。

 ユーザーのせいにするのは簡単だが,問題が解決するわけではない。だからこそ,ユーザーとの交渉力や折衝能力,説得力といったスキルがエンジニアに必要とされている。

ベンダーはコストと納期,ユーザーは技術革新の速度に悩む

図2●システム開発の現場で感じている悩みや不安(図をクリックして拡大表示)
 次にITエンジニアが感じる悩みや不安について聞いた(図2[拡大表示])。回答は,ベンダー企業とユーザー企業とで傾向が分かれた。

 ベンダー企業の悩みの1位は「コスト削減の圧力」で158件。2位は「プロジェクトの短期化」で119件と続く。不況の折り,システムの商談の場ではコンペで案件を勝ち取るために,無理なコストや納期を承知で請け負うベンダーが少なくない。「予算が足りないまま開発を決行。予算が足りず人選に狂いが生じた。結果,更なる悪化を招き開発は失敗した」(27歳,ベンダー企業,SE)という悲痛な声も寄せられている。

 一方のユーザー企業に所属するエンジニアの悩みは,1位が「技術の変化に追いつけない」(58件),2位が「製品のバージョンアップ・サイクルが早すぎる」(57件)だった(図2右)。ベンダーの製品戦略に翻弄されているユーザーの姿が目に浮かぶ。「商品サイクルの短さもさることながら,技術が陳腐化するスピードも速く,エンジニアにとって辛い時代といえる。このサイクルはいつまで続くのだろうか」(38歳,ユーザー企業,経営企画担当)といった悩みも寄せられた。

足りないのは“聞き出す”能力

図3●自分自身に足りないと感じている技術/知識/スキル(図をクリックして拡大表示)
 ITエンジニアが自分自身に足りないと感じている知識・技術・スキルも聞いた(図3[拡大表示])。ベンダー企業,ユーザー企業ともに「業種・業務知識」(214件)という回答が一番多かった。2位は「コミュニケーション能力」(146件),3位は「提案能力」(135件)である。

 「あらゆる業種・業務の案件が次々とアサインされるため,一つの業種の知識が蓄積できない」(29歳,ベンダー企業,SE)という意見は,業種・業務知識が足りないと悩むエンジニアの代表例だろう。その結果,「業務知識が足りないため,魅力的な提案が出せない」(36歳,ベンダー企業,PM)と,「提案能力」の不足につながる。

 コミュニケーション能力不足を嘆く声も多い。「要件確定までの交渉力や強制力が足りないと自覚している」(30歳,ベンダー企業,SE),「ユーザーのご機嫌をとるのが苦手。(悪気はないのだが)技術的な間違いをズバリ指摘してしまい,結果としてユーザーのプライドを傷つけてしまう」(30歳,ベンダー企業,プログラマ)などだ。

仕事を通じて自分を磨く姿勢が大切

 「知識・技術・スキルはどのように身につけたのか」を,アンケートの自由記入欄に書き込んでもらった。結果,「OJT」「業務を通じて」「実践活動を通じて」など,「実際に経験することに尽きる」という意見が圧倒的に多かった。

 エンジニアの多くが「経験」を繰り返すことで技術やスキルを身につけてきたのも事実だろうが,「経験」の一言では漠然とし過ぎている。より具体的な声も寄せられているので一部を紹介しよう。

 要求分析能力を磨くためには,「ユーザー部門に対し(とことん)質問を繰り返す」(30歳,ユーザー企業,SE),「ユーザーは業務のプロ。分からないことは理解できるまでしっかり聞く」(47歳,ベンダー企業,コンサルタント)。これらは「SEの聞き漏らし」や「ユーザーの言い忘れ」を防ぐには大切な姿勢だろう。

 「営業やユーザーに対して積極的に話をするようにする」(37歳,インテグレータ,PM),「技術者同士の交流会に積極的に参加する」などは,技術という殻に閉じこもらずにコミュニケーション能力を磨くのに一役買う。また,「人任せにせず,自分なりの解決策を常に模索し,試行錯誤を行う」(28歳,ベンダー企業,SE)ことで,すぐにあきらめない忍耐力と最後まで成し遂げる責任感を養おうとする姿勢がうかがえる。

 そのほかにも参考になる意見が多かった。「新しい技術や概念を自分の頭で考え,自分の言葉に置きかえてみる」(44歳,ユーザー企業,システム開発の統括責任者),「どんなことでも“当たり前”と考えずに物事を一歩深く踏み込んで考える。常に疑問を持つ姿勢が大切」(32歳,ベンダー企業,SE)などは,物事の本質を探る姿勢と言えるだろう。

給与/賞与よりも「感謝の声」

図4●仕事をする上でのモチベーション(図をクリックして拡大表示)
 仕事をする上でのモチベーションも尋ねた(図4[拡大表示])。1位は「顧客やユーザーに感謝されること」で238件だった。「ユーザーからお礼を言われたり,導入効果を熱っぽく語ってもらえたときに嬉しさを感じる」(36歳,ベンダー企業,SE),「(ユーザーに)結果をきちんと認めてもらえると,普段の要求が厳しくても納得できる」(25歳,ベンダー企業,プログラマ)と,ユーザーから正当に評価してもらえることがモチベーションの向上につながるとの意見が圧倒的に多い。

 次が209件の「好きな仕事/業務に従事すること」。「好きなことだと探求心が尽きない」(32歳,ベンダー企業,PM),「1日8時間×週5日間は最低でも働くのだから,好きでなければ続かない」(26歳,ベンダー企業,SE)という意見が目立つ。

 「給与/賞与」との意見は,168件で3位にとどまった。給与/賞与がモチベーションのトップにならなかったのは,「達成感を重視している。お金や地位は後からついてくる」(55歳,ベンダー企業,PM),「給与や賞与はよほど上がらない限りモチベーションにはつながらない」(36歳,インテグレータ,PM)という意見が大勢を占めたためだ。

 その半面,「(好きな仕事をするのが一番だが)生活を維持するためには,ある程度の収入は必要」(40歳,ベンダー企業,PM),「スキルの向上や達成感も大切だと思うが,給与や賞与,会社の業績があまりにも悪いとモチベーションが保てない」(27歳,ベンダー企業,プログラマ)という意見も目立った。

 アンケートでは,上記で紹介した以外にも「次のステップで就きたいキャリアは?」,「興味のある技術は何か」など幅広く意見を募った。すべての設問の集計結果については,以下にまとめて掲載しておくのでぜひご覧いただきたい(集計結果一覧のページへ)。

 最後に,アンケートにご協力いただいたエンジニアの方にこの場を借りてお礼申し上げます。

(菅井 光浩=日経システム構築)