「ここ2~3カ月は馬車馬のように働く日々が続き,一部のエンジニアは伸びきったゴムのようになってしまった」(26才,プログラマ)。日経システム構築が実施中の「ITエンジニアを対象とした意識・実態調査」(調査の概要閲覧および回答はこちらのページから)にご回答をいただいた方の声である。

 ITエンジニアという職業は,“モノ作り”の楽しさが実感できる仕事である,と筆者は考えている。だが,“やりがい”を実感できる楽しい仕事である半面,冒頭で紹介したような肉体的,精神的なつらさを訴えるエンジニアが急増しているのもまた事実だ。

 「肉体的,精神的な」つらさだけではない。「せっかく会得した技術がアッという間に廃れてしまう」といった,技術の変化が激しいIT分野のエンジニアならではの悩みも併発している。以下では,今回の調査で現時点までにお寄せいただいた悩みの中から,トピックスを2つほど紹介したい(表現は原文の意図を損なわない範囲で一部編集してあります)。

どうにもならないコスト削減や短納期の圧力

 ある程度予想はしていたが,まず目に付いたのが,コスト削減や短納期の圧力に起因する悩みである。

 「構築コストに関して,とにかく物理的に無理な案件が多すぎる。もう少し余裕を見て計画できないのだろうか。やっつけ仕事ばかりだと(ユーザー,インテグレータともに)モチベーションが下がってしまう。これでは致命的な事故も発生しやすくなるのではなかろうか」(37歳,プロジェクトマネージャ)

 「コスト削減(の要求)は分からないでもないが,そもそも最初から無理な納期・コストで請け負うするケースが多い。さらにスケジュールを前倒しされ,ユーザーからの仕様変更も頻発するのだから,たまったモノではない」(31歳,専門技術者)

 上記のように無理なコスト削減や納期短縮の要求が蔓延しているといった悲痛な声が多い中,コスト削減が別の弊害を引き起こしていると指摘するエンジニアもいる。

 「コスト削減は必須の課題であり避けられないとは思う。しかし,それに伴って技術力やサポート力が低下している様にも思える。ユーザーもベンダーも責任の所在やコストのなすり合いをするだけで,本質から逃げている気がしてならない」(42歳,プロジェクトマネージャ)

一番大切な「ユーザーの要望を吸い上げる能力」が足りない

 コスト以外で目に付いたのが「日常業務に追われ,スキルアップの時間を取る余裕が減っている」(33歳,専門技術者)という,技術の移り変わるスピードに関する悩みである。

 この問題は,エンジニア本人を悩ますだけでなく,組織全体にも影響しつつある。エンジニアを統括する管理部門も「技術の変化が激しくなかなか人材が育たない。(35歳,プロジェクトマネージャ)」と頭を抱え,先輩技術者が限られた時間を活用してせっかく部下を教育しても,「これからというときに他部門などに異動してしまう」(32歳,専門技術者)と嘆く。

 技術の習得ばかりに目を奪われると,エンジニアとしての本質を見失ってしまう,との指摘もあった。

 「技術の進化・変化が激しいため,昨今のITエンジニアは技術の習得に多くの時間やコストを費やす傾向がある。しかし本来,注力すべきはユーザーの要望を吸い上げる能力(要求分析能力)であるはず。要求分析の能力不足が原因で,頻繁する仕様変更につながっていると感じる」(36歳,専門技術者)

 ユーザーの要望を満たすことが本来の目的であるはずが,いつのまにか目的が技術の習得にすり替わってしまっては,確かに本末転倒である。

 そのほかにも,「(開発部門に事前の相談もなく)営業部門がユーザーに開発費用をコミットしてしまった」「ユーザーの要望を汲む能力がない営業部門のツケは,すべて開発部門の負荷となっている」といった他部門に対する苦言や,「次々と(ソフトウエアの)バージョンアップがあり,そのフォローが間に合わない」,「バージョンアップのサイクルが短いうえに,旧バージョンのサポート期間が短すぎる」といった悩みも寄せられている。

 開発部門と営業部門の対立軸は,決して今に始まったことでない。しかし,2つの部門の間にある溝は,先に紹介したコスト削減の圧力などで,より深くなっているのではないだろうか。ソフトのバージョンアップ・サイクルの悩みも昔からある問題だが,技術革新のスピードが速くなったことで,より顕在化しているのだろう。

それでも立ち向かう“技術者魂”

 こうした悩みに直面する一方で,困難を乗り越えようと努力しているITエンジニアもいる。アンケートで,直面する悩みや課題をどのように解決したかを尋ねたところ,いくつか貴重なご意見を寄せていただいた。

 「できるならば現場の(ユーザーの)作業を体験し,ユーザーと同じ立場(同じ視線)でシステム改善の提案を挙げられるよう努力している」(31歳,専門技術者)と,従来からある地道な努力がやはり重要であるという意見が目立つ。

 その一方で,「商用ソフトの保守費用の高さに嫌気がさし,オープンソース・ソフトウエアを積極的に試験・導入し始めた。(自己責任の範囲は大きくなり,高い技術力も要求されるが)特別な理由がない限り,今後は商用ソフトは選択しない」(32歳,専門技術者)などは,ここ最近引き起こりつつある動きと言えよう。

 日経システム構築では,今回のアンケート調査と取材活動を通じて,「将来のキャリアに対する不安」など,多くのエンジニアが抱える共通の悩みを明らかにしたいと考えている。その上で「エンジニアとしてどう生きるべきか(ITエンジニア道)」を探っている。

 本記事を読んだエンジニアの方も,アンケートにご回答いただければ幸いである(ご回答はこちらのページから)。調査は来週まで実施中である。システム開発の現場で“数多くの困難を乗り越えてきた方”,”今まさに困難に立ち向かっている方”の貴重なご意見を募りたい。結果は,日経システム構築12月号で集約して掲載するほか,このIT Proサイトでも概要をご報告する予定だ。

 最後に,調査にご協力くださった皆さまには改めてお礼を申し上げます。

(菅井 光浩=日経システム構築)