しばらく動きがなかった5GHz帯の無線LAN規格「IEEE802.11a」。最近は同じ最高54Mbpsの規格だが2.4GHz帯を使う「IEEE802.11g」が誌面などにもよく取り上げられる。パソコンでは後者の11g対応が進んでおり,これからは11gが主役という見方も今年初めにはあった(関連記事)。

 11gは,現在広く使われている最高11Mbpsの「IEEE802.11b」と同じ周波数帯域を使うために11bと互換性があるのが大きなメリットになっている。11bの無線LANを運用していた環境で,アクセス・ポイントを11gに変えても11bの端末は通信でき,徐々に端末を11gに切り替えていくことができるのだ。また5GHz帯よりも2.4GHz帯の方が,周波数が低いため信号の減衰が少なく遠くまで電波が飛ぶと理論的には考えられていた。

 ところが,今年半ばに11aの製品が登場して製品を評価できるようになると,実測結果では11aの方が長距離でも通信できるので,11aの方が良いのではないかという見解がでてきた(関連記事)。

 さらにその後,11aの“復権”を強力にプッシュする決定がなされた。7月4日まで開かれていた世界無線通信会議(WRC)で5GHz帯で使える周波数帯域が一気に拡大することが決まったからである。これまで国内では,免許なしで使える帯域は100MHz分だけだったのが,355MHz分の帯域が追加されたのだ。

5GHz帯には雑音なし

 再確認すると,11aが使うのは5GHz帯,11gや最高11MbpsのIEEE802.11bが使うのが2.4GHz帯である。

 2.4GHz帯は,「ISM(Industrial,Scientific and Medical)バンド」と呼ばれ,電子レンジ,Bluetooth,POS端末といった機器が利用している。これらの出す電波は無線LANにとっては雑音となり,速度低下の原因になる。

 一方の5GHz帯は,レーダーや高速道路のETC(自動料金徴収システム)などが一部を利用しているものの,屋内で利用するような機器はない。つまり,無線LANの速度を落とすような雑音源がほとんどないのである。

少なく見えた5GHz帯のチャネル数

 どちらの帯域も,その帯域全体を使って通信するのではなく,その一部を利用して通信する。それを「チャネル」と呼ぶ。隣接する無線LANのアクセス・ポイントではチャネルを変えることによって,混信を防ぐ。

 日本では,2.4GH帯では14チャネル,5GHz帯では4チャネルが決められている。これだけみると,2.4GHz帯の方が3倍以上のチャネルがあり,数多くのチャネルを実際に使えるように思える。

 ところが,2.4GHz帯のチャネルは周波数が重なっている。例えばチャネル1は2.402G~2.422GHzだが,チャネル2は2.407G~2.427GHzが割り当てられている。5MHzしかずれていないため,15MHz分がオーバーラップしてしまう。このため,チャネル1の隣でチャネル2を使うことは好ましくない。もっとも近いチャネルでチャネル6になる。結局,2.4GHz帯で,周波数の重なりを避けてチャネルを確保しようとすると,4チャネルしか取れないのだ。

 一方,5GHz帯の4チャネルは重なっておらず,4チャネルを同時利用しても問題がない。結局,2.4GHz帯も5GHz帯も実際に使えるチャネル数には違いがなかった。

複数チャネルを束ねる高速化も可能に

 今回のWRCでこの状況は一変した。冒頭で述べたように5GHz帯に新たな帯域が割り当てられたのだ。具体的には,国内ですでに使われている5150M~5250MHzの100MHzに加えて,5250M~5350MHz,5470M~5720MHzが無線LAN用に割り当てられた。合計で455MHzの帯域となる。

 ここで何チャネルが使えるようになったかというと,既存の5150~5250MHzでの4チャネルに加えて,14チャネル分が使えるようになる。こうした広い帯域が日本でも使えるようになれば,ユーザーに大きなメリットが出てくる。従来の4チャネルでは,ビルの上下階までを考慮すると,重ならないようにチャネルを割り当てるのが困難だった。特に企業LANに無線LANを導入する際の大きな障壁になっていた。

 合計18チャネルにもなれば,ネットワーク設計の不自由さはなくなる。複数のチャネルを束ねて伝送速度を100Mビット/秒以上にするターボ・モードも実現できる。このように11aは今回のWPCの決定で,ネットワークの使い勝手の面で2.4GHz帯よりも優位に立つのである。これが筆者の「11a復権」の根拠である。

 WRCの決定は,国内にも適用されるので,いずれはこの帯域が利用できるようになる。ただ,気になるのはその時期。まず電波法の省令を変える必要がある。総務省は「できるだけ速やかに省令改正を進めたい」が,ケースごとにかかる期間は異なるので,いつになるかはわからないという。一刻も早い省令整備に期待したい。

(三輪 芳久=日経NETWORK副編集長)