システム・インテグレータやコンピュータ・ディーラなど,ITサービス業界を取材していると「収益拡大のために製品販売からサービス事業へのシフトを進めている」という声をよく聞く。製品価格の下落傾向が止まらず,製品販売事業では売上高も利益も確保できなくなっているからだ。しかし,2002年度のITサービス業界の決算を見る限りでは,サービスへのシフトが必ずしも収益の拡大につながってはいないと言わざるをえない。

 筆者が所属する日経ソリューションビジネスでは,毎年この時期に,ITサービス業界を対象に,各社の決算業績を分析した業績ランキング記事をまとめている(昨年までは日経システムプロバイダ誌として実施)。売上高100億円以上の2002年度ランキング対象企業は,こちらのページを参照いただきたい。

 調査では,各社の全売上高に占めるサービスの売り上げ比率も聞いた。(サービス比率は,コンサルティング,ソフト開発,インストール,運用管理,保守,ヘルプデスク,教育などの売上が総売上に占める割合と定義し,ハードやパッケージ・ソフトの販売はサービス売上から除く)。

 その回答結果を集計すると,前年比較が可能な売上高100億円以上のソリューションプロバイダ98社の平均で,サービスの比率は2002年度の61.9%から,2002年度は63.5%へ1.6ポイント上昇。多くのソリューションプロバイダが掲げる通り,サービスへのシフトが進んでいることが分かる。

サービス比率高めても減益

 しかし,サービス比率を高めることが必ずしも利益増大には結びついていない。サービス比率の増加率が高い方から上位20社(サービス比率を回答した98社中)の業績を見ると,営業利益を2001年度よりも伸ばしたのは9社で,11社は減益となっている。この20社のうち,売上高を対前年比で伸ばしたのは,4社だけだ。

 サービスへのシフトが利益拡大に結びつかない要因の一つには,時間がかかるという問題はある。サービス強化の号令をかけ,そこに人的リソースを振り向けても,技術やノウハウを蓄積,整備するには,コストも時間もかかる。事業改革の過渡期に,製品販売の減小をサービスの売り上げ増加がカバー仕切れないとする企業は多い。

 だが,過渡期というだけでは済まされないだろう。本当に利益の出せるサービスにシフトしているかが重要である。だれにでも提供できるようなサービスを,人員を動員するだけの労働集約的な人月型で提供している限りは,いくらサービス売り上げの比率が増えても,利益に結びつかない。

 このことは,比較的売上高の小さい企業の決算が象徴しているように思える。売上高100億円以下の企業の決算は,対象企業239社中,減収減益の企業が76社で,そのうち20社は営業赤字を計上した。売上高100億円以上の企業と比べて,明らかに厳しい結果である。

 売上高の小さいソリューションプロバイダは,下請けによるソフト開発をはじめとするサービス主体の企業が多い。これらの企業は,ユーザー企業からの単価引き下げ要求に加え,元請けの大手ソリューションプロバイダがコスト削減のために外注費削減の取り組んでいることなどから,業績悪化の影響を受けているといえそうだ。

 安定的な収益源とされてきた保守サポートも,製品価格の下落に伴って価格は下落傾向にある。ソリューションプロバイダがサービス重視にシフトするなら,まずは人月型のビジネスから脱却し,付加価値の高いサービスと,それを提供できる人材を育成していく必要がある。システム開発や運用の手法を高度化・標準化するなど,サービスの生産性を上げる改革も不可欠だ。

業績好調な“個性派”企業

 では,“強い企業”とはどんなところだろうか。

 業績ランキングの記事をまとめるに当たり,売上高営業利益率を“収益力”,従業員1人当たりの経常利益率を“生産性”,売上高の伸び率を“成長性”,のように経営指標として定義し,各指標に基づくランキングも分析した。

 重視する経営指標の優先順位は企業ごとの事業戦略によって異なるが,それぞれの指標のランキング上位企業からは,付加価値の高いサービスを提供する“個性派”企業が見えてくる。

 収益力で1位のオービックは,営業利益率26.3%と,前年度からさらに2.6ポイント上げ,4年連続で首位の座を堅持した。2位に7ポイントの大差を付ける。ERPパッケージ(統合業務パッケージ)のOBiC7をはじめとする自社製品に特化して高収益を稼ぎ出す。相浦明社長は「自社製パッケージは直販しており,ハードとソフトの保守もすべて自前でワンストップで提供しているから利益率は高い」と強さの源泉を説明する。ハード売り上げが減少する一方で,サービス比率は昨年の69%から,77%に上がっている。

 営業利益率19.0%で収益力ランキング2位のジャステックは,一括請負契約にこだわるソフト開発サービスで高収益を確保する。神山茂社長は「人月で受注する派遣型では,顧客からの単価引き下げ要求がすぐに収益を圧迫する。一括請負契約にも価格引き下げ要求はあるが,知恵と工夫で生産性を上げてコストダウンすれば利益を確保できる」と話す。開発に伴うリスクを数値化して見積もりに反映させるといった独自の生産管理手法を取り入れ,採算割れプロジェクトを徹底して排除している。

 ジャステックは事業をソフト開発に特化し,運用や保守サービスにも手を出さない。かといって下請けに甘んじているわけではなく,同社の案件のほとんどはユーザー企業からの直接受注だ。多くのソリューションプロバイダが「上流から下流まですべてを提供する」と標榜するワンストップ・サービスを掲げる中で異色の存在だ。

製品販売事業を支える付加価値サービス

 製品販売を事業の柱に据えながら,好業績を上げている企業もある。

 生産性ランキングで1位のネットワンシステムズは,従業員1人当たりの経常利益が840万円と,前回調査に続く首位。ハイエンド機器を中心にしたネットワーク構築に特化することで,生産性の高さを維持している。佐藤一雄社長は「付加価値が高い製品を先行して市場に投入することで,拡大する市場でシェアを獲得できる」と話す。それを支えるのが,革新の続くネットワーク技術を常にキャッチアップし,最先端のネットワークを構築する技術力だという。

 成長性6位のニイウスは,価格下落が激しいとされるサーバー販売を主力にしながら,売上高を前年比で25%増やした。ハイエンドのUNIX機に特化することで利益も確保。営業利益は29%増と大きく伸ばした。同社はハードの売り上げ比率を,今後も50~55%のレベルで維持していくという。

 ネットワンシステムズやニイウスは,2002年度のサービス比率がそれぞれ36.1%,25.3%である。サービスの比率は必ずしも高くない。それでも価格競争に陥ることなく業績を伸ばしている。ニイウスの末貞郁夫社長兼会長は「均質で高い技術力を持つ技術者による付加価値サービスが評価された結果」と胸を張る。

 これらの好調企業も“サービス重視”を掲げている。しかし,目的は必ずしもサービス比率を上げることではなく,他社との競争に勝ち,製品販売も含めた付加価値の高いソリューションを提供していくためのサービスなのだ。

 サービスへのシフトを追求しながら利益低迷に甘んじたソリューションプロバイダは,自らの強みを振り返り,もう一度戦略を練り直す必要があるのではないだろうか。コストの削減やプロジェクト管理の徹底など収益力のある体質改善を進めるとともに,他社に負けない強みを作らなければ,勝ち残りは難しい。

業況感には明るさの兆し

 最後に,ITサービス業界全体の業況感を紹介しておこう。

 2002年度のITサービス業界の決算は,非常に厳しい結果だった。売上高100億円以上のソリューションプロバイダ158社のうち,増収増益企業が41社だったのに対して,減収減益企業はそれを上回る49社。売上高の平均は前年度比2.4%減の726億1500万円,営業利益は平均が同5%減の32億9800万円と,いずれも前年を下回った。マイナス成長となったのは,調査を開始した98年度以来初めてだ。

 今年も引き続き厳しい環境なのは間違いないが,幸い,ITサービス業界の業況感には,明るい兆しが見え始めている。日経ソリューションビジネスが四半期ごとに実施している業況調査では,2003年4-6月期の業況感を示す業況DI()は,2003年1-3月に比べ30ポイント増と大幅に改善した(ソリューションプロバイダ93社の回答を基に集計)。前回調査の2003年1-3月期は過去最悪の値を記録したが,悪化に歯止めがかかったと言えそうだ。

注:DI(ディフュージョン・インデックス)とは,景気動向を把握するために使う指標で,対象期間の業況が「好転した」というプラス回答の割合から「悪化した」というマイナス回答の割合を差し引いて求める。

 ある証券アナリストは「今年4月,5月の実績をみると,業績予想からのブレがない数字が出ている。下期にウェイトを置いた業績予想を立てている企業が多いので予断は許さないが,8月時点で見込み通りの受注が取れれば,今期の上期で底入れして,下期に上向くことが期待できる」とみる。8月には梅雨も明ける。ITサービス業界も晴れやかな夏を迎えてほしいものだ。

(森重 和春=日経ソリューションビジネス)