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ハイビジョン時代に取り残されるパソコン

2003/01/21

 2002年は日本でもテレビをハード・ディスクに録画し,放送時間から解き放たれた楽しみができるHDDビデオ・デッキ,あるいはDVDビデオ・レコーダなどが広く認知されるようになった。

 見たい番組は取りあえずどんどん録画登録しておき,時間の余裕ができたときに録画番組一覧からワンクリックで選択し,じっくり楽しめる。番組が放送途中でもさかのぼって同時に再生できる「タイムシフト」機能(メーカーによって呼び名は異なる)などは,忙しいビジネスマンには持って来いの機能で,既に使い始めたユーザーは「もう手放せない」とその便利さに拍手喝采だ。

 こうした機能,パソコン・ユーザーにとっては既に珍しくも何ともないもので,テレビ・チューナ・カードを挿して内蔵のハード・ディスクに録画し,その後,番組一覧で好きな時間に再生するといった利用法は中級以上のパソコン・ユーザーでは当たり前,と言ってもよい利用方法だった。

パソコンでできる映像体験に限界見える

 ある意味,パソコンの方が利用術としては家電製品より進んでいた分野だが,画質などに着目すると途端に立場は逆転する。テレビ映像やDVD画像をパソコンのウインドウの中に表示するとどうしてもぼやけた感じになってしまう。17インチや21インチのディスプレイの全画面に表示させたら,一つ一つのドットが単に拡大表示され,シャープさからはほど遠い映像となってしまう。

 いよいよ本格的な移行のフェーズに入ってきたデジタル放送,特にハイビジョン映像(HD)となってくると、現在のところパソコンで楽しむのは望み薄だ。私が知る限り,PCに組込めるBSデジタルハイビジョンチューナーは存在しないし,それ以前に,HDのストリーミングをPC内でデコードするライセンス問題がオープンなパソコン環境の上では簡単に解決できないからだ。

 米ラスベガスで開かれた「2003 International Consumer Electronics Show(CES)」(2003年1月9日〜12日)の基調講演に立ったソニーの安藤 国威社長兼COOは,ブロードバンド時代となった今,テレビを中心とした素晴らしい映像体験を提供する世界を構築して行く,と述べた。パソコンや映像機器はネットワークを通じてシームレスにつながって行くが,中心に位置するのはテレビであると強調した。

 前日の1月8日には,米MicrosoftのBill Gates会長兼Chief Software Architectがパソコンを中心に据えたディジタルエンタテインメントの世界を描いて見せたが,それとは対照的なプレゼンテーションだったといえるだろう。

PC上で再生するビデオの品質向上が待たれる

 安藤社長はキーノート・スピーチのあとに行われた記者懇談会で,パソコン上で再現するビデオ映像は絵作りが貧弱すぎると指摘したというが,まさにこれが問題だ。

 パソコン用の21インチ・ディスプレイなどはハイビジョン映像も余すところなく表示できる解像度を持っているにもかかわらず,現在のパソコンのビデオ表示の仕組みは単にビデオ映像の持つ画素を拡大表示しているのみ,当然,ビデオやDVD映像はぼやけてしまう。映像を拡大する際に,きちんと補間計算を行い,画面いっぱいに表示した時もクリアに映し出せる仕組みをパソコンも持たなければ,一般ユーザーの目には,単に汚い映像にしか映らない。
 
 解像度変換をきっちりすること以上に難しいのは,人が見て息をのむ美しさ,鮮やかさを醸し出す絵作りのノウハウだ。今人気の大画面PDPや液晶テレビを見ても,各社によって絵作りのうまさに大きなばらつきがあることに気づく。PC上のテレビ再生はこのばらつきのはるか下に位置している。この差は今後ますます広がるだろう。

 安藤ソニー社長に挑戦状を突きつけられた形のPC軍団は何とか巻き返しに出てほしいが,ハリウッドや音楽業界から目の敵にされているパソコン陣営はその厚い壁に立ち向かって行く元気が無いようだ。

 テレビやビデオ,DVDはパソコンで楽しみたいと私自身,長年思ってきた。自宅の仕事場は狭いうえに,必要な機材は増える一方だからだ。できるなら,17インチ程度の液晶ディスプレイにパソコン画面もテレビ画面も,しっかりと表示させたいが,今のところ解決の道は見えていない。
 
 とは言うものの,少しづつ解決に向けた周辺の動きもある。

小型で取り回しの良いコネクタも必要

 パソコンで大変なのはケーブルの取り回し。太いケーブルとどでかいコネクタ。テレビの世界からきたユーザーはあぜんとする。
 
 ついさきごろ確定した「HDMI(High-Definition Multimedia Interface)」の仕様はこうした悩みを解決してくれるかもしれない。コネクタ形状はDVIコネクタに比べてかなり小型になり,映像デコードのライセンス問題にも対応している。日立製作所,松下電器産業,オランダRoyal Philips Electronics社,米Silicon Image社,ソニー,フランスThomson Multimedia,東芝の7社が策定に当たり,対応製品は2003年中にも登場する見込みだ(関連記事)。

 コネクタやケーブルがいやだという向きには,映像表示部分と送出部分を無線でつないでしまう方法も当然有望なソリューションだ。これは各社が取り組んでいるから,いずれスマートに解決されるかもしれない。

コンテンツのフェア・ユースを妨げない動きも大切

 パソコンでデジタル・コンテンツを楽しみたい人にとって,コンテンツのフェア・ユースに関する権利を留保できるようにしておくことも大切だ。正当に対価を支払って購入したコンテンツががんじがらめにプロテクトされていれば,自分の好みでライブラリを整理するなどといった楽しみは奪い取られてしまうからだ。
 
 好きなアーティストのCDを1枚購入したとして,そこに収められている曲すべてがお気に入りになるというのは,まれだろう。しかも,曲調により,聞きたい場面も違ってくるだろう。そんなときに,「いつも聴きたい」「友達とお酒を飲んでいる時に聴きたい」「快晴の日のドライブで聴きたい」といった具合にデジタル・ライブラリを整理できるような仕組みが残されていなければ,デジタル・ライフを楽しむことはできなくなってしまう。

 これからは自分で撮った写真やビデオにぴったり合う曲を付け,DVDに焼いて楽しむといったライフ・スタイルも一般化してくるだろう。そんなときに一切のデジタル・コピーができないのではせっかくのデジタル機器が宝の持ち腐れとなってしまう。

 デジタルコンテンツに対する海賊行為に手を焼いてきた音楽業界,映画産業は強い対抗姿勢を見せてきたが,ようやくフェア・ユースにも理解を示す動きも出てきたのは歓迎すべきことだ。1月14日全米レコード協会(RIAA)とBusiness Software Alliance(BSA),Computer Systems Policy Project(CSSP)が共同で発表した合意(関連記事発表資料)はこの動きに先べんをつけるものだ。
 
 この合意は次の7つの原則をふまえたものだ。「広く一般に認識を高める」「消費者の期待に応える」「不正行為に対する取り締まりの強化」「非承認利用を防ぐ技術を共同開発」「権利保有者の正当な配信行為を支援する」「政府主導の保護政策は現実的ではないとの認識に立つ」「建設的な世論形成のために対話を促進する」
 
 残念ながら,この合意には映画業界団体の米映画協会は参加していない。しかし,こうした合意が発表されたことは,一般消費者を敵に回しては稼げるビジネス・モデルは築けないとの認識が出始めていることの表れでもある。
 
 パソコンは「ブロードバンド」「マルチメディア」の本格到来時期を迎えて,一般消費者の支持を十分に得られず,次の成長ができずにいる。ユーザー・インタフェースの複雑さ,画質の悪さ,そしてシステムアップの煩雑さなどから抜け出せれば,デジタル・コンテンツを自在に扱えるプラットフォームに生まれ変わる。
 
 DVDを含めて,いつでもランダムにアクセスできるデジタル・ライブラリができる時代が来ることを祈って,ぜひ2003年中にでも,パソコン・サイドから大きな逆転ホームランを打ってほしいと願っている。

(林 伸夫=編集委員室 主席編集委員)

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