ある日用品メーカーは,消費者調査を熱心に実施していることで有名なのだそうです。実は,我が家はこのメーカーの実施による(と思われる)調査を,この2年で2度も受けています(当メーカーの広報によると,対象世帯は無作為抽出しているということですが)。

 実際の調査業務は別会社に委託しているので,メーカーの名は表に出てきませんが,調査票の内容を見れば「あるメーカーの商品群」を中心に,競合他社の商品群との比較を目的にしたものだということが想像できます。

 調査員による対面聞き取りに加え,かなりのボリュームのある調査票を「いついつまでに記入しておいてください」と手渡され,後日,また同じ調査員が回収に来ます。謝礼もちょっとした額の商品券をいただきます。調査1件あたり,相当なコストをかけていることは明らかです。最初は申しわけなさもあり,「一応,ちゃんと記入しよう」と思って始めるのですが・・・。

 記入を進めるにつれて「駄目だ。今回もろくな回答はできない」という思いが募ります。選択肢はたくさんあっても,私がマルを付けられるのは「使ったことはない」「使ってみたいとは思わない」「その他」「その他」「その他」・・・。

 調査対象になっている日用品群自体を,個人的に普段あまり使う習慣がないのです。もっとはっきり言うと体質に合わないため使わないのですが,調査の質問や選択肢自体がある程度,恣意的に作られている感じがします。「この年代の主婦ならこういうジャンルの商品を使っているだろう。こういうイメージを持っているだろう」という前提のもとに。

 とは言っても,いくら聞いたこともない商品に関する質問であっても,無回答ばかりというのも申しわけないので,「○○フレッシュ」という商品名(初めて聞いた)であれば「若々しい・新鮮」という選択肢だとか,「ハーブ入り××」(初めて聞いた)という商品名なら「自然派・環境にやさしい」だのという選択肢を選んで,お茶を濁していきます。『本当はそんなこと思ってないのだけれど!!』という心の叫びを押し殺しながら。

改めて思う調査の難しさ

 こういうことがあって改めて思うのは,「調査やアンケートの実施,分析は難しい」ということです。実は自分自身も「調査の実施側」になることが多く,調査の客観性について思うことがいろいろとあるためです。

 「難しさ」を少し整理してみます。

 1つは,回答対象者の選択です。単なる商品イメージ調査とかシェア調査だけなら私のような消費者でも多少は役に立つのかもしれませんが,「○○商品を使っての“家事日記”を×日分つけてください。いつどんな用途でどれだけ消費しましたか」といった設問に至ってはお手上げです。調査の目的と回答対象者がミスマッチであった場合,調査結果の信憑性は恐らく下がるでしょう。

 2つ目は,調査内容に実施側の恣意が入りやすいということ。たとえば選択肢には,実施側が「こう答えてもらいたい」という気持ちが反映されがちです。「○○フレッシュ」という名前の商品のイメージとして「時代遅れの」とか「高齢者向きの」という選択肢は,たぶん用意されないでしょう。

 3つ目は,調査の回答率と内容の正確さ,あるいは得られる情報量の多さが両立しない可能性です。回答率を上げるために答えやすい質問,選びやすい単純な選択肢ばかりを用意すれば,得られる情報量が限られます。正確を期そうと「貴社の情報化予算は3年前に比べて何%増え(減り)ましたか。小数点以下第1位までお答えください」などとやると,無回答がどっと増えるでしょう。

CIO調査を実施,IT投資意欲は“堅調”だが・・・

 というわけで,調査モノは毎年,試行錯誤を繰り返しているのです。

 現在,日経情報ストラテジー3月号に掲載予定の特集にかかっています。今年も上場企業のCIO(情報戦略統括役員)を対象とした調査と,個別CIOインタビューの2本立てで準備を進めているところです。

 毎年のCIO調査では次年度の投資動向について質問してきたのですが,今年は「今年度は昨年度と比べてどうだったか」,および「次年度は今年度と比べてどうなる見通しか」と,時系列で投資動向を尋ねてみました(回答いただいた方にはさぞ,ご面倒であったことと思います。この場を借りてあらためてお礼申し上げます)。

 昨今,新聞や雑誌を開けば判で押したようにデフレ,デフレの文字が目に付きますが調査結果では,「デフレ時代」にしては意外に,IT投資意欲は堅調でした。「投資を大幅に増やす」(10%)企業こそ昨年度(14%)からは4ポイント減っていますが,「やや増加する」(35%)はむしろ増えています(昨年は32%)。「変わらず」(34%)も4ポイント増え,結果として,昨年度以上のIT投資をする企業はやや増えているのです。デフレ→IT投資削減,という一般的な話とはだいぶ違います。

 果たして,世間で言われるほどIT投資の意欲は衰えていないのでしょうか。それとも,「IT投資に積極的な企業」ばかりがこの調査に回答してきたためバイアスがかかった結果なのでしょうか。あるいは調査の設問や選択肢に,何らかの形で,調査実施側の恣意が反映されたのでしょうか。

 個別のCIOへのインタビューの際に「この調査の質問は答えにくかったよ」といった苦言もいただきつつ,調査内容の反省や来年に向けての見直しもしながら,悩む日々が続きます。

(秋山 知子=日経情報ストラテジー編集)