「情報システム部門は疲れているなぁ」。ユーザー企業の取材からの帰り,こう思うことが増えてきた。一昔前,記者が日経コンピュータで企業情報システムを追いかけはじめたころは,もっとみんな元気だった。「BPR(Business Process Reengineering,[用語解説])を引っ張るのは俺たちだ」といった気概が,取材をしていてひしひしと伝わってきた。ところが今は,「目先の仕事で精一杯」といった感じがしないでもない。

 システム部門になにが起こっているのか!

少数精鋭のウソ

 そう大仰に構えなくても,答えは半ば分かっている。「本業回帰」のかけ声の下,従来型の情報システム部門はどんどんヒトがいなくなっているのだ。

 ここ2~3年,開発・運用機能をITベンダーにアウトソーシングしたり,システム子会社に移管する企業が後を絶たない。経営が自社のコア・コンピタンス(競争力の源泉)ではないと判断した機能は外に出し,バランス・シート(貸借対照表)を改善するのが狙いだ。

 すべてを社外に切り出しては支障があるので,少数の情報システム担当者を本体に残す。これが今,記者が「疲れている」との感想を抱くシステム部門の“正体”である。

 「IT企画部」とか「業務改革推進室」といった部門名を冠している企業が多い。いずれの企業も「少数精鋭で経営と直結し,IT戦略の企画・立案に携わる」というのをうたい文句としている。

 だが,現実は厳しい。少数のシステム企画担当者がこなせる仕事量には,おのずから限界がある。IT戦略の企画・立案どころか,日々の書類仕事に追われているのが現状だ。

 あるコンサルタントは「企画に特化するにしても,一つひとつの案件をきちんと処理しようとすると,1万人規模の企業なら20~30人は必要になるはず」とコメントする。実際には,この規模の企業でも,システム企画を10人以下で担当しているところがザラにある。

 人数があまり少ないと,組織的なスキル継承も難しい。「ここ何年も新人が配属されず,部員の平均年齢が毎年一つずつ上がっていく」。システム部門を子会社化した上で大手ベンダーに売却したある大手製造業のシステム部長はこう嘆く。「このままであと10年たったら現行システムの設計思想がわかる部員が一人もいなくなってしまう。そうなれば次期システムの企画はベンダーの言いなりにならざるを得ない」

 開発・運用の現場からあまり離れていると,ベンダー提案の矛盾やムダを見抜く,選球眼も落ちてくる。これでは肉体的にも精神的にも「疲れる」はずだ。

システム部門再生に向けた動きも

 情報システム部門のスリム化は,果たして企業競争力の向上に役だったのか。日本の大多数の企業に関して言えば,記者は疑問符を付けざるを得ない。

 旧来型の情報システム部門に問題がなかった,とはいわない。だが,そのことを差し引いても,行き過ぎたスリム化は企業のIT活用力を落としてしまったのではないか。

 実は,こうした問題意識のもと,記者は数人の仲間とともに取材を進めていた。状況は,やはり惨憺(さんたん)たるものだった。少なくない数の企業が,IT戦略の企画・立案をするどころか,ユーザー部門の要求をさえ満たせなくなりつつあった。ITベンダーやシステム子会社にシステム企画は丸投げだ。全社最適の視点も徹底できず,ムリ・ムダ・ムラがどんどん生まれている。このままでは,その企業の将来は暗い。

 一方で明るい兆しもみられた。スリム化の弊害に気付き,手を打ち始めた企業を,予想以上に発掘できたのだ。

 例えば,消費者金融準大手の三洋信販。1992年3月に国内初の包括アウトソーシング契約を日本IBMと結んだ同社は,いったんは“解体”したシステム部門を復活させた。長期間にわたるアウトソーシングの結果,次期システムの全体像やグループ全体のIT戦略を描く力が失われてしまった,との反省からだ。

 今,三洋信販のシステム部門の人数は25人にまで復活した。「ユーザー部門の要望をシステムに落とす力」と「ベンダーの提案がコストや技術の面で適正かどうかを見抜く力」を身に付けるため,日夜努力している。

システム部門に花束を

 情報システム部門の強化・再生に向けた一連の動きは,日経コンピュータ11月4日号の特集記事「IT魂を継承せよ」としてまとめる予定だ。三洋信販だけでなく,クレディセゾン,JTB,協和発酵,パソナなど,10社程度の事例を紹介できると思う。

 ほどんどの企業で,改革運動の出発点が現場の危機感だった点は興味深い。CIO(情報統括役員,[用語解説] )不在の日本企業では,やはりシステムのことはシステム部門にしかわからない。悲しいことに,これが大半の日本企業の現状である。

 そうした意味で,システム部門の再生には,現場の“やる気”が欠かせない。現状に対して不満を申し立てるのは簡単だ。それでは,いつまでたっても状況は改善しない。システム部門にはもっと元気を出してほしい。記者は本心からそう思っている。

 今回「記者の眼」を書いたのは,この“本心”をお伝えしたかったのと同時に,実はほんのちょっと,“下心”もあった。やる気と元気を取り戻すきっかけとして,日経コンピュータが主催する「第7回情報システム大賞」を利用していたけないだろうか。身も蓋もない言い方をすると,応募の勧誘である。

 この賞は,表向きの設立趣旨は「優れた情報システムを発掘し,その成果を広くIT産業全体に知らしめること」としている。でも真の狙いは,普段は「縁の下の力持ち」的存在で,なかなか日の当たらない情報システム部門の努力をたたえることにある。

 こうした思いもあって,第7回目を迎える今回から内容を一新した。編集部内では『欽ちゃんの仮装大賞』のノリでいこう」と決めている。あまり難しいことは考えずに,キラリと光るシステムがあったらば,どんどん賞を出そうと目論んでいる。

 そこで今回から部門賞を作った。(1)経営改革への貢献度,(2)プロジェクトマネジメントの優劣,(3)先進技術の活用度,(4)インターネット・ビジネスとしての先進性,(5)電子政府の達成度――といった五つの視点に基づいて,それぞれ表彰する。副賞も各50万円用意した。

 応募状況によっては,これ以外に特別賞を設けることも考えている。中堅中小企業賞などが有力候補である。総合的に最も優れたシステム1件をグランプリとして表彰するのは,これまでと変わらない。こちらは副賞が100万円となっている。

 システム部門の再生に第7回情報システム大賞がお役に立てれば,望外の幸せである。過去6回の歴史をひもとくと,いろいろなドラマがあった。「20余年のシステム部門暦で,これほど晴れ晴れしいときはなかった」と表彰式で感極まり落涙してしまった方もいれば,グランプリ受賞後にITベンダーに転職した方もいた。

 今回はどんなシステムに,そしてどんなドラマに出会えるだろうか。今から楽しみにしている。応募要項や応募用紙は,こちらのWebサイトで入手できる。11月15日の締切まであと1カ月ほどある。奮っての応募をお待ちしている。

(星野 友彦=日経コンピュータ副編集長)