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記者の眼

どうする,ニッポンIT!)!)ここまで来てしまったソフト開発の中国シフト

井上理 2002/06/10 ITpro

 「5年後を見ててください。中国はアジアのIT需要を一手に引き受けるソフトウエア大国に成長します。下流工程を担っていた日本のプログラマやSEは職を失い,上流工程を担う高度なコンサルタントやSEなど少数だけが残ります。その時,製造業もソフトウエア産業も中国に取られ,職にあぶれた日本人は何をするのでしょうか」――。

 中国特集(日経コンピュータ6月3日号)のために約2週間かけて中国のソフトウエア業界を取材したとき,あるソフト会社の中国人トップが流ちょうな日本語でこんなことを言っていた。彼は日本企業の中国子会社の社長である。酒の席ではあったし,少々過激な意見だとも思ったが,全否定もできなかったし,「日本人は何をするのか」という問いの答えも見つからなかった。

ソフトウエア産業でも“ユニクロ化”は着実に進む

 いまや世界の工場としての地位を確立した中国。エアコンやオートバイなどの工業製品や衣類などの繊維製品は,世界需要の半分以上が「MADE IN CHINA」である。中国の強みは日本の10倍の労働力と,10分の1の賃金水準。労働力に負う比率が大きい労働集約型産業は,もはや中国での生産を避けて通れないのは自明だ。その象徴が生産を全面的に中国で行うことによって,圧倒的な低価格の衣料品で日本を席巻したユニクロ(ファーストリテイリング)である。

 知識集約型産業の代表格とも言われていたソフトウエア産業も,製造業を追うように生産拠点を次々と中国へ移している。日本側は要件定義や基本設計などの上流工程を担い,コーディングや単体テストといった,いわゆる下流工程(製造工程)は中国で行う。こんな構図が,常識になりつつあるのだ。

 実際,NECは中国全土に自社向けの開発要員を約2000人確保しており,2003年までに3000人規模まで増員する計画だ。日立製作所も2005年までに約1000人の開発要員を中国で確保するとしている。もちろん各社の狙いは低コスト体制の確立にある。日本向けソフト開発を行う中国ソフト会社のプログラマ単価は,1人月25~30万円程度と日本のソフト会社の半額以下である。

 いまは多くのベンダーが,ユーザーに対して「御社のシステムは中国で作りました」とは明かしておらず,ユーザーへの請求も中国で開発したからといって安くはしていない。しかしベンダーの中国シフトの実態が徐々に明らかになって行けば,ユーザーからの値下げ圧力は当然高まる。

 中国ソフト会社とユーザー企業を結ぶコーディネータも登場しつつあり,こうした企業が日本のベンダーより安い価格を提示すれば,日本のベンダーも受注額を下げざるを得ない。ソフト業界の“ユニクロ化”は避けられない情勢である。

日本政府向けプロジェクトにも設計段階から参画

 「中国人技術者のレベルはまだまだ」,「技術があっても日本語能力や日本の業務を理解していないので使えない」といった意見も,日本のIT業界には多数ある。しかし状況は,日本のIT企業が開発拠点を中国に作り始めた1980年末から1990年代とは,明らかに異なる。国家的なソフト産業育成策が徐々に奏功し,レベルは確実に向上しているからだ。

 現在,中国でソフトウエア工学関連の学部学科を設置する大学は約400,在籍生徒数は40万人以上とも言われている。ソフト会社への税制優遇策や,ソフト会社だけが入居できる工業団地,ソフトウエア・パークも充実している。ソフトウエア・パークは,中国全土に40以上あり,ソフト会社は安価な家賃,土地代,通信費といった優遇処置を受けられる。こうした国家的なソフトウエア産業の育成策が,中国人技術者の量と質を押し上げている。

 その証拠に,日本の大手ベンダーに頼りにされる中国系ソフト会社が増えてきた。実は,NECが中国に確保する2000人のほとんどは,子会社ではなく提携先の中国系ソフト会社である。東芝も昨年末,中国ソフト最大手の東軟集団有限公司に資本参加することを決めた。同社はグループで3000人以上の開発要員を抱えている。今年4月には,NTTデータ,NEC,日立ソフトの3社が,大連のソフト最大手に共同出資をした。

 各社とも,中国系ソフト会社の実力や実績を認めたからこそ,提携関係を強化しているとも言える。ちなみにその実績を見ると,なかには「中国はここまで来たか」と驚かされるものもある。

 例えば,東芝の提携先である東軟集団の子会社は昨年11月,東芝が受注した,ある電子政府プロジェクトのシステムを遅延無く東芝へ納めた。開発規模は500人月で,受注額は120万ドル。下流工程だけではなく,設計段階からプロジェクトに参加した。基本設計段階では,中国側のSE9人を日本へ派遣し,東芝の肩書きで政府側担当者と設計を詰めたという。

 中国ソフト会社の単価は日本の半額以下,国家的な育成策で技術力も向上。一方,日本側は,ベンダーもユーザーも長引く不況で低コスト化がますます求められている。となると,今後も中国シフトの動きが加速すると見るのが自然だろう。

中国シフトは日本のソフト産業の空洞化や疲弊を招く

 だが日本のIT業界にとって,中国シフトの動きは本当に良いことなのだろうか。ユーザー企業もベンダーも,システムやソフト開発のコストを下げることができるのは,良いことだ。しかし一方で,下流工程がごっそり中国へ移れば,冒頭の中国人社長が指摘するように製造業と同じくソフト産業も空洞化を免れず,日本人技術者は職を失いかねない。

 「技術者が足りないからアジアの人材で補完しているだけ」と言う人もいるだろう。だが,経済産業省が定期的に調査している「情報サービス業の雇用判断(従業者の充足感)」によると,今年3月時点で「不足」としているIT企業は22%。8割近くが「適正または過剰」と答えている。

 たとえ,現状では補完的位置づけの色が濃いとしても,中国ではソフトウエア工学専攻の大学新卒者が毎年10万人以上も誕生する。不足分を補って余りある量の人材が日本向けに当てられれば,日本人技術者はいらなくなる。

 ベンダーは価格競争が激しくなることで疲弊し,下請けソフト会社も業務が徐々に減ることで,生存競争が激しくなるだろう。結果,いまでも年率40%増の勢いで市場規模が成長している中国のソフト産業は更なる飛躍を遂げ,日本のソフト産業は縮小傾向をたどることも十分に考えられる。

「その分,中国市場で稼げばよい」は一筋縄ではいかない

 「その分,中国市場で稼げばよい」という考え方もある。しかし日本のIT企業は,欧米企業とは違いOSやパッケージ・ソフトといった国際競争力のあるソフト製品を持っておらず,システム・インテグレーション(SI)を中心とした内需に頼っている状況だ。つまり,中国で売れるソフト製品が無い。

 「SIなどのサービスで勝負すれば良い」といっても,日本向けシステム開発を設計段階からこなすまでに技術力がついた現地企業に,価格や営業力で勝つことは難しい。中国の大規模SIのほとんどは中国系IT企業によるもので,例えば東軟集団は2000以上の公共系システムを構築してきた実績を持つ。日本企業はハードウエアの国際競争力も失っており,ハードとひもづけたサービスも期待できそうにない。

 実際,低コスト体制とともに中国市場の開拓も狙っていた日系のソフト子会社は,「需要が立ち上がらず,単価も安いので中国企業向けSIは利益にならない」ことを理由に,中国へ進出する日系企業のSIをちらほらこなしている状態だ。

 一方でOracleやMicrosoft,SAP,Baanといった欧米ソフト企業は,中国市場での地歩を着実に固めつつあり,ソフト製品の研究開発拠点としての機能も強化している。サービス分野においても,米IBMが中国国営銀行の基幹系システムを自社製メインフレームとともに構築するなど,欧米企業が目立つ。

「日本企業のおかげで高給を貰いながら技術や業務ノウハウを習得できる」

 日本のメーカーは過去10年,低コストの生産体制を確立するために,多額の投資と労力を注ぎ込んで技術やノウハウを中国人に伝えてきた。ところが,家電分野ではハイアールが三洋電機と提携し2万円以下の洗濯機や冷蔵庫を日本で販売するなど,中国企業の攻勢が始まっている。同じことがソフト分野でも言えるのではないか。

 この4月にNTTデータなど3社から出資を受けた前出の大連ソフト最大手の社長は「中国のソフト業界で技術者の相次ぐ転職が問題になっているというが,中国国内で移動する分には,日系ソフト会社だろうが中国系だろうが構わない。人材が流動することで中国のソフト業界全体の技術力が底上げするからだ。困るのは優秀な中国人技術者が日本へ行ってしまうことだ」と話した。別の日系ソフト会社の中国人社長は「中国人技術者は,日本企業のおかげで高い給与を貰いながら技術力や業務ノウハウを習得できる」とも話していた。

 つまり日本のIT企業が中国シフトを進めれば進めるほど,中国のソフト開発能力は向上する。国家的なソフト産業の育成策,中国人の上昇志向を加味すると,中国ソフト業界は今後も成長を続けるだろう。中国国内市場では世界一の内需に支えられ,海外市場では世界一を争うコスト競争力がある。中国ソフト産業の未来は明るい。

 一方,日本のソフト産業はというと,空洞化が進み,コスト競争が激しくなって疲弊する。世界中が期待を寄せる中国市場においても,さして競争力があるソフト製品やサービスはない。「日本がぼやぼやしている間に賢い中国が抜き去る」ことは十分にあり得ることなのだ。

実態を把握し,危機感を共有し,解を探そう

 ここでは中国との関係について,あえて悲観論を展開した。もちろん,楽観論も多くあることは承知している。日中両国が補完しあいながら共に成長し,世界市場において共存共栄できれば,それにこしたことはない。だが,今のままでは,ここで展開した悲観論の方向に突き進む一方のように思える。

 世界経済が一つになる流れの中で,生産拠点の中国への移転は避けられないのは事実である。ソフト開発とていつまでも例外ではいられない。ソフト開発の中国シフトは,そのこと自体の是非を問うことには意味がないかもしれない。

 むしろ気になるのは,「日本のIT業界やソフト業界全体,あるいは個々人の間で,危機感を正しく共有できていないのではないか」,「中国シフトが業界全体,あるいは個々人にどのように影響を与えるのかを真剣に考えている人が少ないのではないか」ということだ。

 大事なことは,まずはソフト開発の中国シフトについて実態を正しく把握すること。そして,それを踏まえた上で,我々メディアも含めて日本のIT業界に携わるすべての企業や人間が,「日本の競争力は何で,どの分野のどの工程なら世界経済のなかで負けないのか,あるいは注力していくべきなのか」を真剣に考えることなのではないか。

 残念ながら現段階では記者は解を持ち合わせていないし,説得力のある解を聞いたこともない。その解を早く見出さねばならないと思う。日本の競争力を発揮できる場所は必ずあるはずだと信じている。

(井上 理=日経コンピュータ編集)

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