2月1日の本欄に,「料金だけじゃない,インターネット電話のチェック・ポイント」という記事をIT Proの和田副編集長が書いている。折しも,日経コミュニケーションの2002年2月18日号でも「IP電話サービスが描く『脱・NTT電話』のシナリオ」という記事を掲載した。

 前者は現在のインターネット電話の基本をまとめたものだったが,ここでは後者も踏まえ,インターネット電話の“これから”,特に加入電話を脅かす存在になるのかどうかについて考えてみたい。

ISPとインターネット電話サービスは一体になる

 インターネット電話の分類法は和田記事のようにいろいろあるが,まず「ISP(インターネット・サービス事業者)は選べるか」という点をみてみよう。一見したところ,ISPを選べた方が便利に感じる。しかしインターネット電話に関してはYahoo! BBの「BB Phone」のようにISPを選べないサービスが,これから主流になるだろう。

 ISPが選べないサービスの場合,加入電話や他のインターネット電話とのゲートウエイに行き着くまでは,ISP網の外に音声のパケットが出ない。そのため,音声パケットのために帯域を保持するといった管理が可能になり,インターネット電話の音質が向上する。

 BB Phoneでは実際に「混雑した場合を想定して優先制御をしている」(孫正義ソフトバンク社長兼BBテクノロジー社長)という。インターネット電話とはいうものの,実際にはインターネットにはパケットが出て行かないのである(日経コミュニケーションでは,こういったタイプを「IP電話」と呼んでいる)。

 優先制御や遅延の保証は,今後インターネット電話が加入電話に近づいていくためにどうしても必要である。なぜならば,2002年夏にも始まるインターネット電話への電話番号の割り当て時に,品質が問われるからだ。

 現在のところ総務省では030~050で始まる番号の割り当てを検討しているが,インターネット電話の事業者がこの番号をもらうためには,遅延が100ミリ秒以下と「固定電話並み」の「クラスA」の品質が必要である。遅延が150ミリ秒以下の「携帯電話並み」の「クラスB」では電話番号の体系が別になる見込みだ。

 このように,電話番号の割り当てが始まると,ISPにまたがったサービスは減り,インターネット接続とインターネット電話はセットのサービスになるだろう。

次に始まるのはインターネット電話同士の接続

 ISPごとにインターネット電話サービスを提供するようになると,今度はその間の相互接続が始まるはずだ。

 電話サービスの相互接続では,電話番号からIPアドレスを調べる一種の電話帳の機能が必要になる。ユーザーのIPアドレスはダイナミックに変わる可能性があるから,電話をかけるときに問い合わせる,DNSのような仕組みが必要だ。このために,現在総務省などが検討しているのが「ENUM」だ。

 ENUMは現在,IETFがRFC2916として標準化作業を進めているもので,DNSの技術を使って電話番号とIPアドレスのマッピングを行う。電話番号の体系は国際標準規格であるITU-T E.164を使う。

 E.164では,例えば(030)1234-5678という電話番号は+81-30-1234-5678と国番号を付けた表記になる。この番号をDNS用に逆順にして語尾を付けた「8.7.6.5.4.3.2.1.0.3.1.8.e164.arpa」が,この電話番号用のENUMでの名前となる。各ISPが自社が管理する番号用のDNSサーバーを用意することで,他のISPのユーザーが電話番号からIPアドレスを得られるようになる。

 ただし,ENUMで解決可能なのはアドレスを調べるところまで。これだけでは相互接続には行き着かない。インターネット電話サービスによって,そのプロトコルはさまざまであり,それらの変換も必要になってくる。何らかの仲介事業者がプロトコル変換まで含めて面倒を見ることになるのか,大手の事業者同士が,プロトコルを合わせて接続しあうようになるのか――

 現実には事業者における相互接続の動きはまだ存在しないため,解法は未知数である。おそらく電話番号割り当て当初は,異なるインターネット電話サービス間の通話はNTT地域会社の中継網を通ることになるだろう。

 しかし,NTT地域会社の中継網を通る場合,インターネット電話の事業者はNTT地域会社に接続料を支払う必要が生じる。インターネット電話間の通話にもかかわらず,加入電話にかけるのとさほど変わらない通話料になってしまう。事業者がそれを嫌えば,相互接続が実際に始まるだろう。

加入電話は要らなくなるか

 このようにしてインターネット電話が広がっていくと,これまでのアナログの電話網を使わずにかけられる電話がどんどん増えていく。緊急電話にかけられない,など機能的に足りないところは当面残るが,携帯電話を併用していれば,ほとんど困ることはなくなるだろう。

 では,加入電話はもう要らなくなるかというと,まだ難しい。ブロードバンド・サービスの大多数を占めることになるADSLが加入電話回線を使ったサービスだからだ。電話サービスと共用しないタイプもあるが,現在のところ回線使用料はほとんど同じ。加入電話をやめてしまう意味はほとんどない。

 ただし,業務用では話は別である。業務用電話は基本料金が高いため,ADSL専用回線にしてしまうことで月額料金が950円下がる。さらに複数回線使っている場合は,電話回線を1回線だけ残して後はインターネット電話を使う,といったことも可能になる。現在の業務用のアナログ電話の契約数は約1275万回線。この何割かが解約されることになると,NTT地域会社の経営にも大きな影響を及ぼすことになる。

 今はまだ未熟なサービスだが,インターネット電話から目を離すことはできない。

(松原 敦=日経コミュニケーション副編集長)